59,牽制
「全軍出撃!!」
その言葉と同時にラスト中将は両手を広げる。
すると無数の光の球が手の周囲に現れた。
その光の球は放物線を描くように上に舞い上がり、ヴァルランダ兵の最前線の少し奥のところの地面へぶつかると爆発した。
大爆発というほどの規模ではなくて、運が良ければ20人程度は巻き込めるだろう規模だった。
それが約30発。
ヴァルランダ兵の最前線の兵を他の兵士と分断するには十分だった。そこを突く。
ラスト中将は敵の最前線の兵を他の者に任せ、変わらず進軍してくる少し後方のヴァルランダ兵に向かってまたさらに先程と同じ攻撃をする。
一方、ヴァルランダはその様子を冷静に見ていた。
なぜなら、こちらにもラスト中将と同じく超越者がいるからだ。レオラン・カラドリウス。
彼はヴァルランダに3人いる超越者の内の1人、”鳥”の超越者だ。
「またあの攻撃が来ます。対処は可能ですか?」
「もちろん可能だよ。さっきは未知の攻撃にどう対処したら良いか分からなかったけど、一度見たらもう分かる。あの光の球は物体にあたると爆発する仕組みなのだろうね。」
そう言いながらレオランは前方へ歩き、周りに無数の鳥を召喚する。
「あの光の球にぶつかりに行け。」
そう言うと鳥達は、ラスト中将が打ち上げている光の球にぶつかり、光の球は空中で爆発した。
空から鳥の死骸が落ちてくる。
しかし、3匹ほどは生き残り、クラントの兵士を攻撃した。
「へえ、あのレベルで作れば死なないんだ。まあ威力の調節は出来るだろうけど、少しは参考に出来そうかな。」
「あれはおそらくクラントの超越者、ラスト・オールダーですよね? “スキル”は”エネルギー”だとか。一体どう言う仕組みなんでしょう?」
「おそらく自分の体力を使って攻撃するみたいな感じだね。だからそう長くはもたなそう。あ、でも超越者だからあまり体力切れは期待しない方がいいかな?」
後ろへ振り返りもせずにそう言い、首を傾げる。
そして背中に真っ白な翼を生やすと、顔だけで振り返り、
「じゃあ約束通り超越者の相手は僕がしてくるから。
あ、2人以上超越者がいたら逃げてくるからね。約束通り。あとピンチになっても逃げるから。」
と言って、目にも止まらぬ速さでラストの元へ向かった。
レオランが元いた場所には、疾風が吹かれた。
一方、ラスト中将は自分の攻撃がどうやって防がれたのかを考えていた。
(あれは…鳥!? 鳥…ということはレオランか。
動物系の超越者ってどんなんなんだ。やっぱり俺が相手にしないといけないよな。というか、さっきオレ達にメガホンで話しかけていたのは誰だ?あいつがレオランなのか?
いや、あいつのことは常に視認しているが、あいつから鳥が出たようには見えなかった。)
未知の相手を警戒しながら、ラスト中将は部下へと指示を出す。
「おい、おそらく敵にレオランがいる。奴の相手はオレがしよう。そのためオレは奴の相手で精一杯になるかもしれん。よって後はお前が…」
その時、遥か先に自分に向かって飛んでくる物体を確認した。ラスト中将は部下を突き飛ばし、自分はその反対方向へ倒れ込む。
するとその僅か0.5秒ほど経つと、2人の間に疾風が吹き抜けた。
「へえ、よく躱したね。しかも部下を庇って。
流石は超越者ラスト・オールダーってところかな。」
レオランは上空3mぐらいのところを常に飛び続けている。
レオランの姿は、完全な”鳥”ではなくて、背中から真っ白な翼が生えているだけだった。
ラスト中将はレオランの言葉を無視して部下に再び話しかける。
「おい、俺の言いたいことはわかっただろ? 早くこの場から離れろ!!」
「は、はい!」
そしてラスト中将は部下の足に触れる。
次の瞬間、その部下はもの凄いスピードで走り去っていった。
「へえ、今のは何? そういうことも出来るんだ。」
ラスト中将は、自分の”エネルギー”、つまりは体力を使ってエネルギー弾を作るだけでなく、自分の”エネルギー”を他者に、もしくは自分に譲渡出来る。
さっき部下の足に触れた後、部下がもの凄いスピードで走れたのは、ラスト中将が部下の足に”エネルギー”を譲渡したためだ。
それとレオランの攻撃を躱すことが出来たのも、自分の目に”エネルギー”を譲渡して、視力や反射神経を向上させていたからだ。
「教える義理はないな。それともそちらの”スキル”についても詳しく教えてくれるのかね?」
「いいや。知りたくて聞いたんじゃないからね。」
レオランが地面にゆっくりと降り立つ。
「んじゃあ時間もないし、早速始めようか。」




