58,開戦
ヴァルランダが侵攻を始めた。
列をなして、ゆっくりと歩いて侵攻してくる。
その列は数列出来ており、上から見たら綺麗な長方形に見えるほど整っていた。
歩く音も揃っているので、遠くからでも耳を澄ませば足音が聞こえる。
こちらも準備はほとんど整った。
前線組とはすでに分かれて、オレ達は後方に下がる。しかし、イリアは狙撃がメインなので、戦いに参加はするがオレ達と同じく後方にいる。
みんなの顔を見ると、緊張の色が浮かんでいる。
イリアはずっと自分が作りだしたスナイパーライフルのスコープを除いて敵側を伺っている。
その時、敵が止まった。そして敵のリーダーらしき者が出てくる。手にはメガホンを持っている。
「クラントへ告げる。速やかに領土をあけ渡せ。さもなくば、これよりここにいる全軍を持って攻め入る。1分待とう。」
かなり距離が離れているので、メガホン如きで聞こえるとも思えないが、何か”スキル”でも使っているのだろうか。
もちろんこちらの答えは決まっている。
しかし、時間を稼ぐため、1分間は何もしないつもりらしい。
「狙った方が良いですか?」
イリアがスコープから目を離し、上官に向かって聞く。上官にはその意味がよく理解出来なかった。いや、理解しているつもりだが、それが信じられないというのが正しい。
「…狙うとは、何をだ…?」
「あの敵のリーダーです。」
「…ここからか? 狙えるのか…?」
イリアのいるところから敵のリーダーのいるところへは1km以上は確実にある。
「今は風があまり吹いていないので、ほぼ確実に。」
「そうか、事前の話し合いでは敵のリーダーをとれるならとって良いと言われている。上官達がこれから何か変更しようと言う様子もないし、構わないだろう。」
「分かりました。ありがとうございます。」
そう言ってイリアの目は再びスコープに。
その時、敵のリーダーが「あと20秒。」と言った。
「残り3秒で命中するようにします。」
「ああ。」
敵のリーダーは10秒前からカウントを始める。
するとイリアは残り4秒のところでライフルを打った。
オレが知ってる限りのスナイパーライフルでは、秒速1kmを越える物は無かったが、イリアの作ったスナイパーライフルはかなり優秀そうだ。
「———6、5、4、3、ッッキン」
残り3秒をカウントしたタイミングで金属音らしきものが響いた。こちら側も、イリアが狙撃することを知らされていなかった者には困惑が現れている。しかし敵のリーダーはまだ倒れていなかった。
「どうした!? メガホンにでも当たったのか!?」
上官がイリアにそう問いかける。
「いえ…眉間に必ず、的中したはずです…」
その時、向こうから再び声が聞こえた。
「これが答えか。よく分かった。ではこれより、進軍を開始する。」
その瞬間、後ろから大砲が数台現れる。
すると、前線にいるラスト中将が振り返って大声で言う。
「全軍出撃!!」




