53,宣戦布告
オレはいつも通り学校で席に座っていた。
すると、アンが話しかけてきた。
「ねえ、アリスちゃんを誘拐した黒幕が、まだ不明なままだったでしょ?」
「ああ、そういえばそうだったな。」
アリスちゃんの誘拐事件はまだ謎に包まれていることの方が多い。例えば、”幻覚”の”スキル”を持っていた人物、あの孤児院の目的などだ。
こういう場合は、自白させることができる”スキル”を使うのだが、捕まえた奴らは全員、口に毒を仕込んでいて、何か聞き出す前に死んでしまった。
それは、”スキル”対策としては常識のことだが、分かっていてもするのは難しい。つまり黒幕はそれほど大きい存在だと言うこと。
「それがどうしたんだ?」
「いや、別に何か分かったってわけじゃないんだけど、最近Cクラスの上級生が1人失踪したって言ってたじゃない?もしかしたら同じ黒幕なんじゃないかって。」
「確かに気になるけど、完全な偶然ってこともありうる。いや偶然の方が可能性は高いだろう。今回は何も言われてないんだし、失踪した先輩には気の毒だけどあまり考えることじゃないよ。まあ同じルーグラン校の生徒として気をつけるぐらいはしといた方がいいかもね。」
「んー そういうもんかなぁー。」
アンはまだ納得のいっていない様子だ。まあそれはそうだろう。人が失踪したんだから心配して当然だ。オレだって実はそうだ。だがオレに出来ることは何もないと諦めている。
「まあ考えられるのは、ヴァルランダとか? 最近ずっと仲悪いしな。」
ヴァルランダは我が国クラントとずっと敵対している国だ。4、5ヶ月ぐらい前にかなり仲が悪くなって、それからずっと同じ様子だ。いや、むしろどんどんと仲が悪くなっているかもしれない。
理由はヴァイシオン王家暗殺事件。これは入試の時に死ぬほど勉強したので思い出したくもない。
「あーあるかもねそれ。」
ここで次の訓練が始まる時間となった。
オレとアンは次は別々の訓練所なので、ひとまずはここで別れる。
学校が終わり、放課後となった。
あの失踪事件もあって、帰る時は必ず2人以上で帰れと言われている。なのでオレはアンとウェアと一緒に帰ることにした。家は近いというわけではないが、途中までは一緒だからだ。
そしてやがて別れる時が来て、それぞれ別々に帰りオレは家に着いた。
オレは家に入る前に新聞が来ていないかをチェックする。どうやら何も来ていなかった。そう思い家に入ろうとした時、新聞が届く。
タイミングが良いのか悪いのか、と思いながらオレはその新聞を手に取り内容を読みながら家に入る。
オレは、無意識のうちにドアを開けた状態で止まっていた。新聞を持つ手は震えている。
「おかえりー、ん? どうしたの? なんで早く入らないの?」
母がオレを迎えてくれる。でもオレはしれどころじゃなかった。
「母さん…大変なことになったよ。」
「何? どういうこと?」
オレは無言で、新聞に書かれてある内容を母さんに見せる。
そこには『ヴァルランダからの宣戦布告』と書いてあった。




