52,訓練
アリスちゃんを捜索し終わって、3ヶ月が過ぎた。
今日はいつも通りの訓練だ。
“スキル”というのは段々と極め辛くなるというのは本当らしい。最近はみんな伸び悩んでいる。
まあそれでも、確実に成長はしている。
オレが”サイコキネシス”で操れる範囲は、もう200mを超えて力も強くなった。
オレが今している訓練は、215m先で岩を浮かし続けるという訓練だ。これがかなりしんどくて、普通に浮かしてるだけなのに、もって3分というところだ。
他には、アンは巨大なファンに腕を突っ込んで、腕が傷ついたら腕を”再生”、これを続けるというなんともグロい訓練をしている。
ウェアはひたすらに長い距離を”瞬間移動”しまくるという単純な訓練だ。
オレ達はこれらをしばらく続けた。
ようやく訓練が終わり、さあ帰ろうという時にティアラに訓練に付き合ってと言われた。
「何の訓練するの?」と聞くと
「死者を操る訓練」と言われた。ティアラが少し不満気な顔をしている。
何故かと考えていると、4ヶ月ほど前に「いつでも訓練に付き合ってやる」みたいなことをカッコつけて言った気がする。
確かにあの時のことは本心だが、正直言って4ヶ月も前のことなので忘れてしまっていた。
自分が言ってしまったことなので、訓練に付き合うことにした。
オレ達は、第二訓練所へ向かった。
今回ティアラは、訓練だから特別ということで戦死者の死体もしくは骨を借りているらしい。
「死者を操るのが怖いとか言ってたっけ? それの訓練ってことは、やっと操ろうって気になったの?」
ティアラはお父さんを蘇らせようとして、操っているうちに気絶してしまい、そのままスキルブレイクになってしまった。
それから死者を操るのが怖いらしい。
「ううん。あれから、なんとか死者を操ろうとして一応操れるようになったんだ。今日はただそれを見てほしいってだけなんだ。あの時から変わった私を。」
そう言って、ティアラは借りてきた死体に手を向ける。
すると、その死体は立ち上がりオレに向かって突進してきた。
オレはそれを”サイコキネシス”で止める。
「ははは、流石だねリエルは。」
「はははじゃねぇよ。やるならやるって言えよ。」
「ごめんごめん。」
笑顔のまま謝られても仕方がない気がするが…
「まあでも、しっかりと操れるようになったのは一歩前進だな。いや、もうすでに3歩ぐらい進んでいるのか?」
「今は死体を沢山借りて、それらを同時に操る訓練をしてるよ。」
改めて聞くと、死体を借りるってすごいことを言ってるな…
「それで、どうだった? さっきの攻撃。」
「んー まあ正直に言うと一般兵相手なら悪くないと思うが、ある程度”スキル”を極めた奴には到底敵うとは思えないな。」
「そう。それなんだよ。正解。」
「何が?」
「私の”ネクロマンサー”で操った死体は、元の人間の身体能力に依存している。さっき私が操った死体は、元は一般兵の人のだからね。」
「そうなのか。」
ティアラが頷く。
「だから一般人の死体とかだったら、てんでダメだったの。」
「なるほど。」
「そこで私は考えたんだ。どうすればもっと強い死体を操れるかってね。それで、最近ようやく結論が出たんだ。別に強い死体を操らなくてもいいんじゃないかなって。」
「どういうことだ?」
「死体の元の人が弱いというのは、その人が戦うことを望んでいなかったからだと考えるようになったんだよ。だから無理して戦わせたくないなって思うようになって。それで、私は戦う時に死体を操るのは戦場だけだって決めたんだ。」
「……さっきのは?」
「さっきのは、リエルに見せるためと訓練だから。あっ何か勘違いしてるかもしれないけど、訓練はするよ?
まあ用は、もうすでに死んでしまった人達を無理に戦わせたくないってこと。生きてた時に戦いと無縁な人だったら尚更ね。私が死体を操る時はいつも、ごめんなさいって気持ちを込めて操るって決めたんだ。」
「そうか。」
オレは、ティアラがそう考えたんならそれを応援したいと思った。




