51,再会と別れ
ある病院にアリスちゃんの”ドッペルゲンガー”とアリスちゃんの両親が来ていた。
「お母さん、どうして泣いてるの?大丈夫?」
家から病院に来るまで、ずっと母が泣いている。
それなのに心配して理由を聞いても一向に話してくれない。
父も同様に母に寄り添うだけで、自分には何も話してくれない。
そんな2人に少しの苛立ちを覚えていたら、病院に着いた。
中には人が1人もおらず、電気もついていない。少し不気味な雰囲気をアリスは覚える。
ドアを開けて、その雰囲気に少し萎縮して入れないでいると、両親も何故か入ろうとしない。
もしかして両親も怖いのか? そんなことを思っていると、コツコツと足音が聞こえてきたのでそちらの方に注意を向ける。
すると1人の大人の男の人が、こちらへ向かっているようだ。
「ロカートナーさん、お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
父が少し挨拶をして、大人の人についていく。アリスもそれに着いていく。やはり廊下も電気がついておらず、薄暗くて不気味である。
「こちらです。」
2階に登って少し奥へ行ったらドアを指してそう言った。そしてゆっくりとドアを開ける。ドアから眩しい光が漏れでる。
「奥にいます。」
何がいるのか? そう問いかけようとしたが、周りの3人の大人の真剣な雰囲気を感じ、なぜか問いかけることが出来なかった。
やがて説明された奥の部屋へと入る。
そこには、背もたれのない回転する椅子に座った1人の少女がいた。母が勢いよく飛びついてその少女に抱きつく。そして「ごめんね」と繰り返し言っている。
父もその少女に近づいて、軽く背中を触っている。
その少女は顔さえ違うが、何故かそれが誰だか私には分かる。
「…わ…たし……?」
父と母が私を見る。その瞳は優しいようでもあるし、何かもっと別の感情を抱いている気もする。
その少女も私を見る。こっちの瞳は確実に良いものではなかった。明らかに私に対して何か負の感情を抱いている。
父が少し私に近づいて説明してくれた。
「…えっ……なにそれ…? 私が…”ドッペルゲンガー”…?私の”スキル”は分からないんじゃなかったの?」
「……ああ、実は分かっていたんだがな…言うべきでないと思った……いや、言えなかった…すまない……」
「ていうか………私って…これからどうなるの…? 消えちゃうの…?」
私の瞳から涙が無意識に溢れてくる。
その質問に答えたのは父ではなかった。
「それは———」
「そんなの決まってるでしょ?あなたはもういいの。今までお疲れ様。」
「おい、アリス!」
私の質問に答えたのはその少女、本物の私だった。
父はそんな本物の私を少し強めの声、と言っても小さい声で叱責する。
「…何よ。父さんは私よりあっちの方が大切なの?…2年間も一緒にいたらやっぱりそうなるの?」
「いや、それは言い方が———」
「急に現れてもう用済みって何よ…」
私は不満を口にする。私からしたら、ずっと平穏に暮らしていただけだ。
「2年間も幸せな暮らしが出来たんだからもう満足でしょ?そこを代わってほしいだけなの。」
「私のことが邪魔なの?」
「うん。」
「あなたが生み出したくせに。」
「…そう。私が生み出したんだから、あなたは私の物なの。私の言うことは聞いてくれるでしょ?」
「もうよせ!2人とも!!」
父が私達の言い合いを、物理的に間に入って遮る。
「俺達は、どちらかを捨てようとは思っていない。」
「な、何でよ!本物は私なんでしょ!?
なら偽物は早く捨てなきゃ…」
「俺達にとってはどっちも子供だ。”ドッペルゲンガー”は本物と何一つ変わらない。どちらかを捨てるなんて…出来ない。」
「で、でも…じゃ、じゃあどうするの?」
「2人とも一緒に暮らそう! アリス、たしかお前、昔に兄弟が欲しいって言ってなかったか?」
私と本物の私の目が合った。
「言ってた気がするけど、これは兄弟じゃないでしょ。同じ人なんだから。」
「2年間も違う環境にいたら、もう違う人間さ。」
人間、という言葉を聞いて私は少し冷静になった。
この父の言葉は、私にとっては喜ぶべきなんだろうが、私には喜べなかった。
なぜなら、私が消えないのはスキルブレイクというもののせいで、それがいつ解除されるか分からない。つまり私は、いつも消えてしまう恐怖に怯えながら暮らすことになる。それに、父は言葉ではああ言ってるが、本当は本物の方が大切なはずだ。だってさっきから本物の私の近くにずっと立っているから。
母は、ずっと本物の私から離れない。
きっと父も母も本物の私と居たいはずだ。
そんな本物の私と私が一緒に暮らすなんて、想像しただけで苦しそうだ。
どおりでこの前に病院に行ってから、少し私に対して冷たい感じがしたんだ。
「…もう、いいよ。私は。」
「もういい?どういうことだ?」
「もう私は生きるのはいい。父さんと母さんもそっちの私といた方がいいでしょ?」
私の言葉に、父も母も本物の私さえも目を見開いて驚いている。
「そ、そんなことはない。お前だって俺達の子供だ。」
「私を受け入れようとしてくれるのは嬉しい。でも、それはそう思いたいだけでしょ?本当はそっちの私の方が大切なんでしょ?」
父さんが何か言いたそうな感じを出しながら黙ってしまう。
そこで黙ったらダメじゃないか、っと思いながら私は死のうと思った。
その時、私の指先が消え出した。
「えっ?」っと思わず声を漏らしてしまう。
私はスキルブレイクによって生み出された存在。つまり私が消えるというのは、スキルブレイクが解除されるのと同義だ。スキルブレイクが解除されるのは稀中の稀と聞いていたが…
よく見ると足元も消え出している。
「アリスッッ!!」父と母が駆け寄ってくる。
そして父が私の頬に触れる。その頃には私の腕はほぼ消えていて、父の手を触ることは出来なかった。
父と母は本当に悲しそうにしていた。私はそれを見て少し後悔の念を浮かべるが、やはり決めたことは変わらなかった。
「最後にこれだけは言っておきます。今までありがとうございました。」
私はゆっくり目を閉じた。




