50,帰還
シトラはアイスルームを解除する。
するとアン達がやってきた。
「何したの?あの氷の部屋の中で。」
「企業秘密!!」シトラは人差し指を立てて口元へ持っていく。
「それであの男は?氷漬けになってるけど…殺したの…?」
シトラは人殺しの訓練を受けた貴族だ。もしかしたらやりかねないと思い、アンは聞いてみる。
「いや、死んではいないよ。体内までは凍らせてないからね。氷を溶かせば解放される。」
それを聞き、アンは少し安堵する。
「それで何者だったのこいつ?結構強かった?」
「まあ何者かは後から調べるとして、強いは強かったよ。軍で言えば中佐レベルかなぁ?」
「へぇ〜」
シトラはすでに、大佐レベル以上少将レベル未満ぐらいまでは強くなっている。
「そう言えばアリスちゃんは?」
「今はあそこの子供達と一緒に病院に行ってる。”洗脳”を解くんだって。」
少しすると、大人の人達が来た。
「今回はありがとう。君達がいなければアリスちゃんを助けることは出来なかっただろう。初めは子供を使うなんて、とか思っていたが、ルーグラン校の子供はやはり一際優秀なんだな。」
アンとシトラが相槌を打つ。
「君達は今日はもう帰ってもらって大丈夫だ。お疲れ様。今回のことは良いように伝えておくよ。」
そう言われたので、アンとシトラは孤児院でソラを回収してから列車に乗り込もうと、孤児院へ向かう。
すると孤児院の門に疲れた様子のソラが立っていた。
「はぁ…はぁ、待ってたよ。」
「どうしたの?そんなに疲れて?」
「いや…地下でずっと”バリア”を張るぐらいは余裕だったんだけどさ、上の階にいた子供達がもしかしたら逃げ出したりするかもしれないって理由で、孤児院の敷地全部に巨大な”バリア”をずっと張らされてたんだよ。柵があるんだから大丈夫だろ!!ってずっと思ってた…」
「ならそう言えば良かったじゃない?」
「いや…なんか忙しそうだったから…」
アンとシトラは、(そう言えばソラはこういう気弱な奴だった)と再認識した。
3人は駅に着くと、列車に乗り込む。そして荷物を置いて席に座り込んだ。
「そう言えばさ、今回必死になってアリスちゃん探したけど、見つけてどうするんだろうね?」
シトラがアンとソラに向けて質問する。
2人は顔を見合わせて、何を当たり前なことをというような顔を浮かべる。
「そりゃ、親と会わせるためでしょ?」
「…親にとってはかなり複雑じゃない?今まで2年間育ててきた自分の子供の”ドッペルゲンガー”と今までは認知すらしていなかった自分の本当の子供、どっちを愛するべきなのか?とかね。そりゃ本当の子供を選ぶだろうけど、親にとっては”ドッペルゲンガー”も自分の子供同然だろうからね。」
「確かに…」
「どっちも愛したらいいんじゃない?」
「”ドッペルゲンガー”だって意思を思ってる。それも他人の意思などではなく、アリスちゃん本人の意思。そんな2人が一緒に暮らせるとは思えないけどね。本物のアリスちゃんからすれば、今まで自分に代わって幸せに生きていた、とかで恨んだり、逆に”ドッペルゲンガー”からすれば今までずっと平穏に生きてきたのに突然自分は偽物とか言われて、本物と言われたもう1人の自分が現れてくる。嫉妬とか色々まずいんじゃない?」
「ていうか”ドッペルゲンガー”っと本人と会えば消えるんじゃなかったっけ?そんな話をどっかで聞いたことがあるけど…」
「消えてくれたら、残酷な言い方だけどそれが一番ありがたいのかもね。だけど今回はスキルブレイクによるものだから消えるとは限らない。むしろ消えない可能性の方が十分に高いと思う。」
「……まあなんとかなるでしょ。そんなことぐらいとりあえず今は仕事が終わったんだから楽しい雰囲気でいこう。」
「…そうだね。」
「…そうだね。」
だが、3人は仕事の疲れからか、この会話の後すぐに眠りについてしまった。




