49,シトラの戦い
父親を名乗る男は、右腕を異様に変形させてシトラに殴りかかる。シトラはかなり分厚い氷の盾を作り、その攻撃をガードしようとするが、男の攻撃はその氷を破りシトラの腹へと到達した。
「ッッ!!」
シトラはそのまま吹き飛び、後ろの壁へとぶつかると、シトラが血を吐いた。
その場にいた誰もがシトラを心配するして駆け寄るが、シトラは平然としていた。
「おじさん結構強いんだ。ただのモブかと思ってたよ。」
そう言いシトラは右手周りに多数の氷の礫を作り、それを男めがけて放つ。男は右手でその氷の礫を砕く。
シトラは軽く笑みを浮かべていた。
「何故、今のパンチをくらって平然としていられる。どんな小細工をした?」
「ああ凄いパンチだったね。多分おじさんの”スキル”が関係してるのかな?確かに痛かったよ。
でも、もっと痛いの知ってるからあんまり効かないんだよね。」
初めは強がりだと思っていた男だったが、シトラの顔を見てその判断を変える。
(こんなガキが…一体どんな過去を持ってるんだ?)
男の”スキル”は”パワー”。
自分の力を増大させる”スキル”である。
男は今まで幾千もの実戦をしてきたが、自分の全力の右ストレートをまともにくらって、立ち上がった者は数える程しかいない。なのに、目の前の少女が平然としているのに、驚きを隠せなかった。
(これは…マジになった方が良さそうだな。)
男は、氷の壁を破壊し、家の中へ入っていく。
逃げたのか、と思いすぐに追いかけようとしたシトラだったが、逃げるような雰囲気ではなかったため立ち止まる。
「あいつは私がやる。みんなは離れたところで見てて。あと、人払いをお願い。」
シトラがそうみんなに言う。
周りを見ると、騒ぎを駆けつけた人がたくさん来ていた。
この捜索隊に参加している大人のメンバーは全員捜索が専門であり、皆戦力は臨めない。そのため、シトラ達ルーグラン校生が最大戦力なのだ。だから大人達はすぐにそれに従う。
アンは「自分も戦う」と言ってきたが、アリスを守る必要があるので、渋々同意した。それと、シトラの戦闘を見てみたい気持ちもあった。
「1人で大丈夫なの?」
「問題ないよ。」
「じゃあ頼むね。」
アン達が離れたところへ移動する。
しばらくすると男が出てきた。右手に斧を持っている。
「何?その斧。」
「お前は全力で戦うべきだと思った。だから持ってきた。」
「そう。高い評価を感謝するよ。」
「悪いがあまり時間がない。行くぞ。」
男は足に”パワー”を送り、超スピードでシトラの前までやってきて、斧を振りかぶる。
シトラはそれを左に避け、左右の手に大量の氷の礫を作り、男の周囲を包囲すると、一斉に発射する。
男は一方向の氷の礫を壊し、回避に成功した。
「お前の攻撃はその氷の礫だけなのか?ならいくらでも対策がつくぞ。」
「もちろんそんなわけないでしょ?ただちょっと確かめてただけ?」
「確かめる?」
「あなたの”スキル”は力を増大させるだけで、防御までは無理なんでしょ?さっきの攻撃を避けたのが良い証拠。」
「さあな、分からんぜ?ただ”スキル”の体力使うのが嫌だっただけかもしれないだろ?実際、さっきの回避方法で俺は無傷だ。」
「忠告ありがとう。気持ちだけもらっておくわ。」
シトラは白い歯を見せ、地面に手をかざす。
すると次の瞬間、男とシトラを囲むような壁が出来上がり、屋根がつく。これは氷で出来た部屋だ。
縦15m横10m高さ4mの部屋である。
「なんだここは?」
「アイスルーム。私の必殺技の一つ。」
「俺が逃げるとでも思ったのか?生憎だが、俺は逃げるつもりはないし、仮に俺が逃げようとしてもこの程度では俺を閉じ込められない。」
男は右手に”パワー”を送り、斧で壁へと攻撃を繰り出す。
壁は壊れ、すぐに出ていける状態に…なったと思ったらすぐにまた氷で塞がった。
「そんなわけないでしょ?勝つ方法ならいくらでもあるんだけど、これが一番早く終わりそうだったからこれを選んだだけ。」
シトラは天井に手をかざす。すると天井から氷柱が生成される。しかもどこにも逃げ場がないように。
「どうしたの?何をそんなに焦っているの?やっぱり防御は強化出来ないんだ。」
「焦っている?俺のどこを見てそんな感想が出てくるんだ?」
「さっきからずっと天井見てんじゃん。」
「来ないのかと待っているだけだ。」
「ふーん。じゃあいくよ。」
シトラはもう一度天井に手を向けると、氷柱が降ってくる。
男は斧を構えて、氷柱を砕こうとする…が、男の背中と腹に激痛が走った。男はそれで気を失いそうになるが、なんとか上の氷柱を壊すことに成功したようだ。
男は自分の腹を確認する。
すると、尖った氷が自分の背後から突き刺さっていた。
その氷は、男の後ろにある壁から出ていた。
シトラを見ると、部屋の壁に手をかざしている。
「…お前…卑怯だぞ。」
「卑怯?それは悪役が使う言葉ではないよ。
それに、多方向からの攻撃はさっきもやったでしょ。むしろヒントを与えてあげて優しいと思うんだけど?」
シトラは男に刺さっている氷を消す。すると傷口から血が沢山噴き出る。
(くっ、いや…しかしこれは逆にチャンスだ。氷が消えたお陰で動きやすくなった。)
男は足に”パワー”を送り、シトラに向かって全力で向かおうとした。だが男は滑ってしまう。
よく見ると、床がカチカチに凍っていた。
「くそっ このっ!」
男は右手に”パワー”を送り、床を砕く。
しかし床はすぐに氷で直り、男の右腕を飲み込んだ。
男が今度は左手に”パワー”を送るが、近づいてくる足音が聞こえそれを中断する。シトラの足音だ。
「もう勝負ありだね。大人しく降参したら?」
「…ああ、そうだな。お前は一体何者なんだ…強すぎる…」
「じゃあ、大人しく凍ってね。」
シトラが近づく。やがて男の左手が届く範囲までくると、男は素早く左手に”パワー”を送り、シトラを攻撃するために後ろに拳を引く。
しかし、その瞬間左肩を細く鋭い氷が貫いた。シトラの氷だ。
それにより、男はシトラに攻撃することが出来なかった。
シトラはゆっくりと男の体に触れる。
「じゃあね。おそらくもう2度と会うことはないから。」
シトラがニコっと笑った瞬間、男は全身が凍った。




