48,訪問
「………アリスは…ツァンバルにある家に監禁している…」
「!!何だって!?」
「…だから、監禁してるんだって…誘拐したのは俺達だ…」
「どこに!?」シトラが男の胸ぐらを掴み、顔を近づけて大声で聞く。
「…4-2-2番地だ。」
「本当だね!?」
「……今更、こんな嘘つくわけないだろ。」
シトラは男の胸ぐらから手を離すと、ソラとアンの方に振り返る。
「ソラはここをお願い。この男が逃げないようにと、ここの子供達を抑えておいて。それと誰か来たら状況説明をお願い。ああそうだ、そいつの気を失わせといて。”洗脳”の効果が消えるもしくは薄まるかもしれないから。」
ソラが頷く。
「アンは私と来て。」
アンが頷くと同時に、2人は凄いスピードでアリスちゃんがいる家があるらしいところへ向かっていた。
向かう途中で、大人を2人ほど連れていく。その内の1人は”透視”の”スキル”を持つ人だ。
全力で走って5分ほど経つと、ようやく家に着く。
その家は、普通の家と何も変わらない感じだ。
赤色の屋根があり白い壁がある、まさに都市にある平凡な家だ。
早速、”透視”の人に見てもらう。
「中に女の子が1人、それと大人の大きい男が1人います…」
黒と決めつけんばかりに、アンが扉をぶち壊そうとする。
「ちょま、待ってください。様子が変なんです。いや…別に変じゃないんですけど、普通の親子同士に見えるというか、それに外見もアリスちゃんとは大分違うように感じます。」
「我々が強行したことがすでに連絡が入ってるかもしれません。今のアリスちゃんも”洗脳”されているでしょうから、親子のフリをするのは簡単かと。しかも、あの地下が”幻覚”であったためこの家にも”幻覚”がかけられている可能性は十分にあります。それに、あれから2年も月日が経っているのですから、容姿が変わるのは当然かと。」
子供に論破された気がして、少し情けなかったが、今はそんなことを思っている時ではない。すぐに扉を開けることに賛成の返事をする。
とはいえ、強行突破ではなくまずは平和的に訪問してみることにした。
“透視”の人とは別の大人の人が、呼び鈴を鳴らす。
しばらくすると扉が開いた。
中から出てきたのは、”透視”の人が言った通りの大きい男だった。体が大きいため、少し威圧される。
「はい、何でしょう?」声は特別低いということはなく、普通の高さで、口調も普通であった。少し身構えすぎたようだ。
「軍の者です。」そう言って証明書を見せる。
「? 軍の方が一体どのような御用件で?」男はまるで分からないというような態度を見せる。
「実はこのあたりで、新たな感染症が確認されてね。まだ特効薬も出来ていないから非常にまずい。この感染症は子供の方がかかりやすいそうなんだ。そして身近な大人へとゆっくり移してゆく…君にも子供はいるかね?いたら検査をさせてもらいたい。なに、すぐ終わる。」
これは、さっき家の前で即興で考えた理由だが、一応筋は通ってる。ちなみに、アンとシトラは病気がないことが確認された子供で、病気の有無の確認をしやすいために連れて来ているということになっている。
ここで子供がいないとは言えない。なぜならこっちは”透視”で見えているんだから。部屋の奥でただ黙って座っている女の子を。
それにもし本当にいないならいないで、この建物に”幻覚”が施されていることが確定となり、こちらも黒確定になる。
「ああいますよ、分かりました。すぐに連れてきましょう。」
そう言って男は扉を閉めて家の奥へと戻っていった。
その様子を”透視”で常に見ている。
「女の子と接触。何やら会話している…いや、一方的に話している模様。」
どんどんと怪しさが増していく。もうもはや強行突破でも良いと思うくらいだ。だが、まだ万が一にもあの管理人が嘘をついていた可能性があるので、まだそれを実行に移す時ではない。それに、もうすぐ連れてくるというのだから。
ようやく扉が開いた。
「さあ、リリア。まずは挨拶をしなさい。」
「こんにちは。皆さま。私はリリア・カッシュベルと申します。本日は私のために検査をしてくださるとお聞きしました。本当にありがとうございます。」
そう言ってリリアと呼ばれた女の子は深々とお辞儀をする。
まるでロボットのようなセリフと態度だ。口調こそ女の子のようだが…
「こんにちは。リリアちゃん。」そう言って次は父親の方を見る。
「少し我々の施設へ行っても良いか?検査をしっかりとしたくて。」
「聞いていた話と違うのですが?検査はすぐに終わるのでしょう?いくら軍の人とはいえ自分の娘を遠くへやるのは不安です。」
当然拒否された。普通の人でも拒否しそうではあるが、やはり連れていかれるのが嫌なのか?
「そうか…連れて行った方がより正確な検査が出来るのだがな。まあいい。では検査を始める。」
大人の人が膝を折り、リリアと目の高さを合わせる。
「では、いくつか質問する。それに正直に答えてくれるかい?」
リリアは頷く。
「まず、君の名前を教えてくれるか?」
「リリア・カッシュベルです。」
「君の生まれたところは?」
「…ライアスだったと思います…」
返事の反応が鈍い。下手に生まれた場所を言うと、そこから存在しないことが判明してしまうからだろう。だからおそらく”洗脳”していない。故に”洗脳”される前の記憶が出たのだろう。よって次の質問にも…
「君の育ったところは?」
「………ライアスです。」
「それは検査に関係があるのですか?」
慌てて横から父親が入る。
「はい。検査に必要なことです。
それで、いつぐらいにツァンバルに来たのかな?」
「………2年前…ぐらいだった…と思います。」
どんどんと”洗脳”しようのない記憶を突いていく。
「君の本当の名前は?」
「…? リリ——」
「———違う!!」と大人が大声で叫ぶ。
「2年前の君の名前だ。君の別の、本当の名前。」
「え、えっと…本当……の?」
明らかに異常な様子だ。このまま行けば”洗脳”も解けそうだ。というより、おそらく管理人の男が気絶したことで、効力が弱まっているのか?
「これはどういう検査なのですか?明らかにおかしい。さては軍の偽物ですか?」
父親が質問している大人の人の肩に手を置く。そのまま軽く突き飛ばす。
「さあリリア。こんな人達は放っておいて、奥でパパと遊ぼうか。」
「リリ…? リ…リア……」
「君の本当の名前は アリス だよ。」
初めてシトラが口を開いた。リリア——アリスはその名前を聞いて泣き出してしまった。
「…何? …これ? 知らない記憶が…」
「リリア。この人達に別れの挨拶を。」
父親を名乗る男がアリスの腕を掴む。その時、アリスの顔が引き攣る。おそらく、腕を強く握られたのだろう。何かトラウマがあるのか?っとシトラは推察する。
「さあリリア。最後に一言言ってあげなさい。」
「…たすけて…」
その瞬間、父親を名乗る男がアリスを強引に引っ張り家の中へ入ろうとする。それをシトラが氷の壁を作って阻止する。
すると、何を思ったのか隠し持っていたナイフをアリスに向けて刺そうとした。
それをアンが自分の腕で受け止める。ナイフはアンの腕を貫通したが、完全に貫通することなく止まった。
アンはアリスに手を回す。
「大丈夫だよ。私が必ず助けるから。」




