44,幻覚
アン達は孤児院から出ると、早速”透視”の”スキル”を持つ組との合流を目指す。外から孤児院を見てもらい、見られていないところで何か悪いことをしていないか探るためだ。
ただ”透視”組はかなり時間が掛かってるらしく、合流するのにそれなりに時間が掛かってしまった。
合流すると早速、外から孤児院の地下を見てもらう。
もしこの結果が、地下で子供が言っていた普段の生活と矛盾するところがあれば、怪しさが跳ね上がる。しかし、
「…特に変わった様子はないですね。仲良く遊んでいるようです。」
「ほんとに!!?」
「…ええまあ、はい。」
予想外の答えにシトラは敬語を使うのも忘れ、”透視”を持つ人に聞く。ただ、その人が嘘をついてるようにも見えないし、その必要が全くない。
「ということは白ですか、あの雰囲気はかなり異質なものを感じたんですが…」
孤児院に同伴した大人がそう言う。
「その異質な雰囲気はどこから感じるのですか?私には全く感じられませんが。少し仲が良すぎるように見えるくらいです。あ、いや、孤児院の子供達がどのくらい仲が良いのが普通なのかなどは知りませんが…」
その言葉は、孤児院に行った全員に違和感を与える。
すかさずシトラが質問をする。
「子供達は全員が仲が良いのですか?」
「まあそうですね。何人かのグループに分かれてはいますが、全員が仲が良いように見えますね。」
「今は何をしてます?」
「おもちゃで遊んでいますね。」
「全員がですか?」
「はい。」
シトラは分かったような分かっていないような顔を見せる。
「何か分かったの?」ソラがそう聞く。
「いや、分かったってわけではないんだけど、やっぱりおかしいかなって。」
「何が?」
「だって私達が地下に行った時、おもちゃは一点に集中して散らばってたでしょ?あれは全員がおもちゃで遊んでいたんじゃなくて、1グループだけが遊んでいた証拠。なのに全員がおもちゃで遊んでいたといわれて、少し悩んでいるだけよ。」
ソラは納得したのか、それ以上の質問をやめたように見えた。だが、彼は
(おもちゃって一点に散らばってたっけ?)
っと思って、同じ土俵で話すことは出来ないなと悟り、質問を控えたのだ…
「ただの偶然じゃないのか?あの時からもうすでにかなり時間が経ってるし、遊び方を変えたとしても何ら不思議はない。」
っと”透視”組だった大人の人が言う。
確かに普通に考えればそうだ。だが、あの雰囲気を見たシトラ達は、感覚が麻痺していた。
反論することも出来ず、話し合いはその場で終わってしまう。
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明かりがなく、カーテンをした部屋では、前に、話していた2人の男と、もう1人の男がいた。
「どうだった?上手くいったか?」
「ええ、おそらく。彼らには”洗脳”を施しているのでね。」
2人の男が話している。その2人の男とはツァンバル孤児院で、アン達を案内した管理人と奥でアン達の同伴の大人と話をした孤児院の偉いさんである。
「それでは、俺はそろそろ本国に帰らしてもらう。忙しいのでな。また緊急の用があれば呼んでくれ。」
もう1人の男は、どうやらその2人より偉いそうだ。
2人が感謝を口にして礼をする。
「本当に来ていただき助かりました。もし”幻覚”の超越者であるクリス様がいなければ、きっとバレていたに違いありません。」
「世辞はよせ。この程度なら超越者でなくても出来る。」
「いえいえ、例のあの任務をこなしながらされているのでしょう?それはまさしく超越者でないと不可能かと。」
その言葉に何も返すことなく、クリスと呼ばれた男は頭を下げている男を一瞥する。
「それより、本当に俺は帰って良いのだな?一応地下の”幻覚”はしばらく維持させるが、それでもまた地下に入られると”幻覚”を突破されるぞ。俺の”幻覚”は外から”透視”などで見た時限定のものにしているからな。」
「承知しております。今回は地下に入りたいなどと不意に言われ、少々不味かったですが、次からはしっかりと準備致しますので。」
「そうか、ならいい。それと、あのアリスという子を閉じ込めている家の”幻覚”はいつまで続ければ良いのだ?」
「あの家はもう調査されたでしょうから、おそらくもう”幻覚”をかける必要はないかと。後でアリスは回収に向かいますし。」
「では解除しておくぞ。」
そう言い、クリスは部屋を出る。
2人の男は、また深々と礼をした。




