19,入学試験(10)
最初のグループが登り始めた。
皆かなりスムーズに登っている。
「今回は目立てそうにないな。」
っとウェアが言っている。というのも、”スキル”こそ開きがあるが、身体能力の修行ならオレ達と同じぐらいからやってる人もかなり多いだろうからだ。
と言ってもオレ達と同じレベルはそんなにいないと思うが、
オレ達の番がやってきた。
とりあえずオレは、反射的に”スキル”を使わないように気をつけるだけだ。ちなみにこの崖だが、40mぐらいはある。
オレは崖を登った経験は、実はほぼないので上手く登れるか心配だ。
早速試験が始まった。
するといきなり、アンが凄い速さで登り始めた。
そう言えば、「私は試験の後で”再生”出来るから」という理由で、怪我覚悟で素早さ重視で登ると言っていたな。
ちなみにオレとウェアは慎重に登っている。アンは抜きに考えると、一応トップ層だ。だが、気を抜けばすぐにトップ層から外れそうである。
オレ達が25m地点ぐらいまで登ると、アンが頂上に着いた。するとすぐにバッジを取って、手を少し崖の壁にかけて、ズルズルと滑り降り、30m地点まで降るとそのまま飛び降りた。教師達が慌てて救助しようとするが、アンの、不要、という顔を見て止まる。
この試験はアンのぶっちぎりの一位で終わった。ちなみにアンが地上に着いた時、ちょうどオレ達は頂上に着いたぐらいであった。
アンの体のキズは、両手が血で真っ赤になっていて、腕や足にも複数の切り傷、しかも左足を骨折している。
それでもアンは、痛そうな顔一つしない。
「いつも思うけど……それ痛くねーの…?」っとウェアが聞く。確かに、アンの怪我は見てるこっちが痛くなる。
「痛いよ、泣きたいぐらい痛い。ただ慣れただけ。」っとアンが答える。
「おお…そうか…」っとどこかで聞いたことがある会話をアンとウェアが交わす。
ちなみに、アンの記録は13,8秒、オレは38,4秒で、ウェアは37,6秒だ。一応受験番号1501〜2000グループのトップ3はオレ達が取れたが、4位が39,2秒なので本当に僅差だった。
「それではこの試験を終わりにしたいと思います。それでは再度、最初の広場へ戻って下さい。」
教師が試験の終わりを告げる。
すると、アンがようやくか、と言わんばかりに体のキズを”再生”した。
さっきまでの怪我が嘘のように、綺麗な肌になっていく。
いつも思うが、アンの”再生”って実は割と便利な”スキル”なんじゃないか?
オレ達は最初の広場に戻った。流石に、さっきの試験はアンも疲れたらしく、オレ達3人は3人とも疲れている状態になったので、会話の数がかなり少なくなった。
次は、総合力(3)の試験らしいが、一体どんなものなのだろうか。
しばらくすると、試験会場に呼ばれた。
試験会場は、第五訓練所だ。外見は第四訓練所とほぼ同じで、内装も大体同じだが、中央に複数のリングがあった第四訓練所とは違い、中央に大きいリングが一つだけ置かれている。なんとなく試験の想像がついてしまったが、ひとまずは教師の説明に耳を傾ける。
「この試験では、皆さんに500人同時のバトルロワイヤルをしてもらいます。ルールにつきましては、第四訓練所の時と同じく、リングの場外に出たら失格となり、最後まで残った1名が勝者となります。攻撃は、相手に致命傷を負わせるようなものでなかったら、どんなものでもOKです。ちなみに、この試験の勝敗も、直接合格には影響されませんのでご注意下さい。」
やっぱりそういう形式か。おそらくは最終的にオレ達3人の三つ巴になるだろうな。この手の勝負は、昔から何回もやってきたが、アンは自身の”スキル”をあまり活かせずに場外へ行く場合が多く、大体がオレとウェアの一騎打ちになる。もちろんこれは、アンが弱いわけではなく、ただ単にアンの”スキル”がこのルールに向いていないだけだ。
横を見るとアンが嫌そうな顔をしていた。
「正々堂々と”スキル”無しの勝負で行かない?」
っとアンが聞いてくるが、オレ達は軽く相槌を打って中央のリングへ向かった。
ちなみに、この形式での勝率は、オレが4割、アンが2割、ウェアが4割と言った感じだ。
オレ達は、リングの上に立つと、バラバラに移動した。今回は本気で闘おう、という風な約束を交わしたからだ。
みんながリングの上に立つと、
「それでは、もうすぐ試験を始めたいと思います。」
っと教師が言った。
すると、他の受験生がオレ達の3人の周りから離れて行く。まあそりゃ、明らかにオレ達3人が規格外だから当然か…
リングには3つの大きい空白が出来た。
いよいよ、試験開始のゴングがなる。
五次試験開始!!!




