114,涙の別れ
ティアラがゆっくりと立ち上がる。
本来なら、まだ何事もないこの一瞬の時間でティアラもイドラも殺すべきだ。そんなことはリエルも分かっている、でも…
ティアラが突然叫んだ。
それと同時に、そこらの潰れている家などから何かが動くのを感じられた。数秒後その姿が顔を出す。
それは、人にも見えなくもないが、明らかに人出ないもの、しかも体長も3m以上はあった。それが周りに何体も。
リエルは咄嗟に”サイコキネシス”でそれら全ての動きを止める。
しかし、その間にもティアラは叫び続ける。
つまり、新たな化け物がそこら中に現れ続けるということだ。
「どうしたリエル!? 殺さないのか!?
殺したらこれがすぐに治るぞ!?」
イドラが笑いながら言う。
リエルだってそんなことは分かっていた。
早くも、リエルは化け物を押せつけるのがしんどくなってきていた。
その時、リエルの心の中には、かつてティアラとした会話が思い出されていた。
「おい! ティアラ!
お前今、どんな気持ちで死体操ってんだ!!?
操るときは必ず謝りながら操るって言ってたよな!?」
そしてさらに古い記憶も、
「お父さんを戻したかったんじゃなかったのか!?
今のお前なら、もしかしたら戻せるかもしれないぞ?
だから、おい、ティアラ! 正気に戻れよ!」
「ははははは、無駄だぞリエル!!!
こうなったら何を言っても戻せねぇよ!!」
イドラが大笑いながらそう言うが今のリエルには構ってる暇はない。
リエルの手から血が噴き出す。そして腕、肩と順に血が噴き出していく。それは”サイコキネシス”の限界を表していた。
そしてそれを知ってるアンは、リエルの元へ駆け寄る。
「リエル!!」
リエルに呼びかけたアンだったが、リエルからはなんの応答もない。聞こえなかったのか、あるいは何も答えられないほど集中しているのかと思ったアンだったが、そのどちらも違うとすぐに分かった。
「……………アン………確か…ナイフ持ってたよな?
貸してくれるか?」
恐ろしいほどか細い声でリエルがアンに言う。
アンはそれで全て理解した。だからアンはそっとナイフをリエルに差し出して、ゆっくりとリエルに抱きついた。
“スキル”との相性が良いからと、アンは普段からナイフを持っている。
アンからナイフを受け取ったリエルは、それを”サイコキネシス”で操り、ゆっくりとティアラの額へ突き刺した。出来るだけ外傷が残らないように。
次の瞬間、周りの化け物は止まり、元の大きさに戻っていく。
「殺した…殺したな!?
リエル!! お前!! ティアラを殺したな!?
信じられねぇぜ! あんなに仲良くしてたのによ!
お前には人の心があるのか!?」
イドラは笑ってリエルに問う。
「お前が言うな。」
リエルは短く答えると、家の瓦礫をイドラの頭部に素早くぶつける。そしてイドラは息絶えた。
「………それじゃあ、シーテンに向かおうか…アン。」
震えた声でアンにそう言うとリエルはシーテンのある方角へと向き直る。
つまりはアンからはリエルの顔が見えない角度だ。




