113,涙の再会
「ティアラ! イドラ! 生きてたの!?」
涙目になって近寄ろうとするアンを、リエルは手で制す。
「ここはツァンバル,さっきまで、いや今も暴動があったとこだ。こんなところで何してる?」
ツァンバルの端の方というのならまだ分からなくもないが、そういうわけでもない。それに様子が明らかに変だ。
ティアラが外傷も全く見られないのに、車椅子に乗って下を向いている。
それだけなら、まだいつくか状況を想像出来なくもないが、明らかに雰囲気が異質なのだ。
何がとは言えないが、悪い予感をリエルに与えたのだ。
「久しぶりだな、アンにリエル。
実はずっと敵地で隠れてたんだ。味方だったはずの人が急に裏切ってな、大変だったんだ。お前らは大丈夫だったのか?」
「それでなんで今ここにいる?」
リエルの目は未だ鋭いままだ。
「おいおいそんなに警戒しないでくれよ。
俺達の仲だろ?」
「悪いが簡単に信用は出来ない。
お前たちが操られている可能性も十分すぎるほどある。
ちょうど今そんなやつと相手していたところだ。」
すると、イドラは急に笑いだす。
「くくく、なるほど。操られている可能性か、」
「そうだ。操られていないという証拠はあるか?」
イドラはニヤリと笑って答える。
「ああ、あるぜ。」
「それはなんだ?」
「まあそう慌てるな。まずはいつくか説明しておきたいことがあるんだが、」
「悪いが急ぎの用を抱えててな。早く証拠だけ言ってくれ。」
「じゃあもっと大事な用を与えてやるよ。」
「ん?」
「俺はなぁ、元々アルタミラの人間なんだよ。」
まさかのカミングアウトにある程度予感はしていたがリエルの思考が数秒止まる。また、アンの衝撃はそれ以上だった。
「なに言ってるの? 嘘…ていうか操られてるんだよね…?」
イドラはさっきよりも笑みを強める。
「だからそんなに慌てるなって、操られてない証拠なら話すってさっき言っただろ?」
「え?」
「そうだなぁ何から話すか…
あ! あれが1番いいかなぁ。」
イドラはすごく楽しそうな顔をしている。
「前にヴァルランダとした戦争覚えてるだろ?
あの時、戦力が足りなくて俺達のような子供まで戦わされたよなぁ?」
「だから?」
リエルが訝しんでそう問う。
「その時、2人1組になってたよなぁ?
その組み合わせ覚えてるか?」
「……まさか!」
リエルが一瞬考えて…それに気づく。
「そう!ソラは俺が殺したんだ!!
しかもその死に様が面白いのなんのってwww
俺を”バリア”で守って、俺に内側から殺されたんだ!!」
イドラが思い出して大笑いしている。
「他にも教えてやろうか!?
例えば俺が———」
「———もういい喋るな。」
リエルが”サイコキネシス”でイドラの喋りを邪魔する。
イドラの笑みは消え、すぐに両手を上げる。
「ケホッケホッ リエル、やっぱり強くなったんだな。
そう聞いてたが正直なめてたぜ…」
リエルは一旦解放し、イドラの元へ近づく。
後ろではアンが涙を少し流して,口を手で覆っている。
「話せ。お前はどうしてここにいる。
そしてこのティアラはなんだ?」
リエルがイドラに迫る。
イドラは降参とばかりに話し始める。
「まずはティアラのことから話させてくれ。
リエル、お前はどうしてそんなに強くなった?」
「おい、何を言っている。さっさと話せ。」
「いいから答えろ。」
「…脳がダメージを受け、それで”スキル”が侵食したからだ。」
「そうだ。そして今、それと同じのをティアラに与えてある。」
「!」
同じのを、それはつまり脳がやられ、廃人同様になることを表していた。
「……ある程度話は聞いていたが、本当にそんな実験がされていたんだな。」
リエルはアルタミラで調べたこと、グラム大将から聞いた話を思い出す。
「ああ、今回の戦争にも何人か加わっているらしいぞ。」
ここでイドラが再びニヤリと笑った、そんな感じがした。
「ちなみにこれは、元々”スキル”に優れていたやつほど強く出来上がるらしい。つまり、分かるか?
お前と同じレベルということは、このティアラは”ネクロマンサー”の超越者クラスまで昇ったというわけだ!」
今度はイドラが笑みを浮かべたのがはっきりと分かった。
「さあここで2つ目の問いに答えよう。
なぜここにいるのか。
逆に聞くぞ。さっきまでここはどんな場所だった?」
リエルは悪寒がした。
「そう! ここは暴動の地!
人がいっぱい死ん———」
リエルは無意識にイドラの動きを止めた。
イドラが何かティアラを暴走させる手段があると思ったからだ。
が、イドラの全身に”サイコキネシス”を与えた瞬間、ティアラがピクリと動いた。
「ははははは、お前対策だよリエル!!」
イドラに“サイコキネシス”を与えた瞬間、ティアラがピクリと動いたためまた無意識にイドラの”サイコキネシス”を緩めてしまい、イドラが喋れるようになった。
ティアラは車椅子からゆっくりと立ち上がる。
アンにはその姿が、暴走したリエルと重なって見えた。




