105,説得
アンは一歩ずつリエルに向かって進んでいき、そして手が触れる距離まできた。
リエルはずっと、近づくなと言い続けている。
アンはそんなリエルを力いっぱい抱きしめた。
「だからどうして近づいちゃダメなの?」
「オレに近づくと不幸になるからだ!!
お前も…ウェアみたいに…」
リエルはアンの体を必死に引き剥がそうとかするが、寝起きで弱ったリエルの素の体では引き剥がせなかった。
「なんで?」
「なんでって…みんなそうだったから…」
「みんな?
みんなって誰?」
「えっ…」
そしてリエルはまた小さくブツブツ言った後に大きな声で言う。
「とにかくだ!
とにかくオレの側にいる人はみんな不幸になっちまうんだよ!
だからお前もオレから離れろ!!」
「私はリエルと一緒にいないと不幸になっちゃうよ!」
「…は?」
「そのままの意味だよ。
昔からずっとリエルとウェアと一緒にいたけど、2人のいない生活なんて考えられないくらい毎日が楽しかった。
それなのに、ウェアだけじゃなくて…リエルまでどっか行っちゃったら……私…」
「オレと一緒にいたら死ぬんだぞ?」
リエルの声は先程までの勢いは無くなっていて細くなっていた。
「リエルといれなかったら、私勝手に死んじゃうかもよ、」
アンの目は涙で覆われていた。
そしてリエルの頭の中では、どうやってアンを死なせないかを考えていた。しかしそれは、次のアンの言葉により払われる。
「だからさ、リエルが私を守ってよ。」
「…え?」
「リエルは私を死なせたくないんでしょ?
だったらリエルが私を守って、
誰がどこから私を殺しにきても大丈夫なようにさ。」
「いや…だから……」
「また、オレと一緒にいたら不幸になる、とか言い出す?
大丈夫だよ。さっきも言ったけど、リエルといたら私幸せだからさ。
それにさ、もしリエルと一緒にいて私が死んじゃったとしても、リエルの側で死ねるんなら幸せだよ。」
「…お前が死んだら、オレは悲しいぞ…」
アンはとびきりの笑顔でリエルに答える。
「あんたの幸せとかどうでもいいの、私の幸せ優先してくれるんじゃなかったの?
あと、それが嫌なら、私を全力で守ってね。
私が側にいる限り、絶対に幸せにしてあげる。」
それを聞いたリエルは少し吹き出した。
「むかしっから変わらないなお前は、
分かった。残りの人生全てかけてお前を守ってやる。」
リエルが初めて抱きしめ返した。




