第90話 道具屋クライゼの災難
作戦会議が終わり、オレとエアリスはクライゼの店へ向かった。
店に入って驚いた。元々、かなり細身の体のクライゼが。さらにげっそりとやせ細っていたからだ。
「い、いらっしゃいませ……ナリユキさん」
声もかなり弱々しい。目も虚ろで、焦点が定まっていない。
「あ、あの……新しい武器を調達しに来たんだけど……」
オレはそう言いかけて、ハッとした。レゼルブの発言を思い出したからだ。
「す、すみません。ナリユキさん。実は、陛下に将棋というゲームの盤と駒を大量に製造しまして、納品できたのはいいのですが、その時に高熱を出してしまって……まだ完全に熱が引いていないんです……」
「やっぱり……!」
いきなり、そんな無茶な発注を出されて、納品できただけでも奇跡の所業だ。そりゃ、体を壊すよなあ……。
「じゃあ、オレ専用の武器は……」
「すみません。何も作れませんでした。それどころか、楽しみにしていたベルファさんの人形作りも全く手つかずの状態で……」
いや、そこは人形より武器の方を優先してくれよ。
そうツッコみたかったが、今回の件はそもそも、オレが国王に将棋を教えてしまったことが原因なので、こらえることにした。国王からそれなりの報酬は受け取っただろうけど、今の弱々しい姿のクライゼには、ちょっと同情する。
「残念だなあ。ボクの新しい人形を作ってもらいたかったのに……カッコいいファイティングポーズも考えて来たのに……」
エアリス、お前の発言はダメだ。いい加減にしろ。
結局、オレとエアリスは手ぶらのまま。アジトへ戻って来た。これから、どう動くべきか……。
考えようと思ったが、やめることにした。あれこれ頭を使うのは、オレの性に合わない。こういう時は……。
「エアリス。この後、剣の修行に付き合ってくれないか?」
「えっ!? ナリユキが自分から修行したいって言ったの、初めてだよ!?」
オレの提案に、エアリスはぱあっと顔を輝かせた。うん、かわいらしい。
「今日こそは、一撃入れてやるからな!」
「フッ、ボクに勝とうなんて十年早いね!」
オレの挑発に、ニヤリと笑って答えるエアリス。修行を始めてから、オレはまだエアリスに一度も勝ったことが無い。しかし、初日は全て剣の攻撃をかわされていたのだが、少しずつエアリスが剣を使って受け止める回数が増えて来た。オレも、ちょっとは進歩しているらしい。
こうして、夜になるまでオレとエアリスによる剣の修行は続いた。まあ、今日の結果も全敗で、夜はエアリスのマッサージに付き合わされちゃったけどね……。
Xデーとなる翌日、オレは夕方まで寝た。
そして、18時。
オレたち4人は、レゼルブ邸に向かった。いよいよ、怪盗ダナシャスとの対決を迎える。