第65話 剣の修行
ウェルゼナ国王の返事を待つ間、オレは宿屋でのんびりと昼寝をするつもりだったのだが、そうは問屋がおろさなかった。
「ナリユキ! 怠けちゃダメだ! 剣の修行をするよ!」
革の鎧をまとったエアリスに、容赦なく叩き起こされた。
「ええ~? 面倒くさいよ。やりたくないって」
「ダメダメ! キミも刀を手に入れたんだから、練習しないと!」
オレは反論したけど全く聞いてもらえず、エアリスに無理やり連れられて、宿屋の近くの空き地へ引っ張り出された。後ろから、ユリカが木刀2本と名刀『鉄子』を抱えてトコトコとついて来る。
「そう言えばベルファがいないけど、どこへ行った?」
「彼女は独りで魔法の練習をしているよ。別の場所でね」
へえ……みんな、人知れず努力しているんだなあ……ちょっと感心した。
「さあ、木刀を持って! これは、キミだけのための修行じゃない。ボク自身の修行でもあるんだ!」
エアリスは気合満々で木刀を構える。オレも渋々ながらユリカに渡された木刀を構えた。
「それでは……始めっ!」
ユリカが大きな声で開始を宣言する。相手が騎士とはいえ、あまり女の子を叩きたくないんだけどな……。
「たあああっ!」
かけ声とともに、エアリスが木刀で襲いかかって来る。オレは、よけるので精一杯だ。だが、スキを見て反撃しなければ……よし、行ける!
「そこだ!」
エアリスが一瞬だけ体勢を崩した。オレは彼女の左腕を狙って木刀を振り下ろす!
「……あれっ?」
その瞬間、エアリスの姿は消えていた。まるで、最初からその場にいなかったかのように……。くそっ、体制を崩したように見えたのは、フェイクだったのか!
「甘い!」
エアリスが叫ぶ。次の一瞬で彼女の木刀がオレのわき腹に命中した……のだが。
パキィーン!
木刀が当たった箇所が見事に折れて、その切れ端はクルクルと空中で回転飛行して…………。
「ふぎゃっ!」
審判のユリカの頭へ見事に命中! ユリカは猫みたいな悲鳴をあげた。なんかマヌケっぽい。
「いったあ~い! ナリユキ君のバカ!」
「えええっ? 今のはオレが悪いの?」
頭を抱えて、頬をふくらませるユリカ。これは不可抗力だろ……?
「しょうがないなあ。ナリユキの体は硬すぎるから。ボクはいつもの剣を使おう。ハンデは無くなるけど」
エアリスはそう言いながら、背中に装着している剣を引き抜いた。そうか……真剣を背負った状態で戦っていながら、こんなに速いスピードで動いていたのか……とんでもないヤツだ。
その後、2時間ほどエアリスとの稽古が続いたが、一方的にオレがやられまくった。血は出ないものの、体中が猛烈に痛かった。つ、強すぎる……。
「まあ、毎日訓練すれば、そのうち一撃くらいは入れられるようになるよ。筋は悪くないから。明日もまたやろう」
エアリスが慰めの言葉をかけてくれた事だけが救いだった。とほほ……。
「あと、一回も当てられなかった罰として、ナリユキはボクの体をマッサージすること!」
エアリスが、倒れているオレのそばでしゃがんでそう言った。またやるんかい……。
「こんなボロボロの状態じゃ無理だよ。でも、お前のお尻は立派だから、お尻だけマッサージしてやるよ。柔らかそうだし」
「な、何を言ってるんだ! そんなのチカンじゃないか!」
オレの冗談にエアリスが真っ赤になって反論した……いや、本当に冗談だよ? しかし、マッサージはチカンとみなされないのか?
「お尻は、まあいいや。この前みたいに、オナラされても困るし」
「バ、バカッ! その話は忘れるって約束じゃないか!」
オレがからかうと、エアリスは耳まで真っ赤にして怒った。意外と、この表情がなかなかかわいいんだよなあ……。
しかし、このやり取りを見て、ユリカが割り込んできた。
「さっきから何を話してるの? お尻だとか、チカンだとか、オナラだとか言って。まさか、ベルファみたいに変なプレイを楽しむつもりじゃないでしょーね?」
「ちちち、違うよっ!」
全力で否定するオレとエアリスの声が、見事にハモった。