第39話 ベルファの過去
オレの問いに、ベルファはゆっくりと語り始めた。ユリカはベルファの左足にヒーリングをかけている。
「あたしは、周りの人間から『魔女』だと呼ばれて、危険視されて、嫌われて、相手にされずに生きて来たのよ……ずっと」
「女のウィザードって、他にもいるだろ? お前は他の人と何か違うのか?」
素朴な疑問だった。ベルファは特別な存在なのか?
「あたしは、ここから少し北にあるテムルという村で育ったの。両親もウィザードで、その血を引いたあたしも10歳までは親に魔法を教わっていたわ。あたしには、魔法の才能があったのかも知れない。10歳の時点で、既にあたしの実力は両親を超えていたわ。両親は、それをとても喜んでくれていたの」
「凄いな! それは天才じゃないのか!?」
オレは、思わず興奮して口をはさんだ。オレが10歳の時って、ただのアホだったからな。まあ、今も変わらないけど。
「だけど、そんな幸せな日々は続かなかった……魔物の大群がテムル村へ攻めて来たの。村人は次々と殺されたわ。そして、あたしの両親も。あたしの目の前でね」
「酷い…………そんなの…………酷すぎる…………」
ヒーリングを終えたユリカが呟いた。あまりにも悲しい出来事だ。
オレは、ベルファの両わきからゆっくりと自分の両腕を離して、ベルファの隣に座った。
「魔物は、あたしも殺そうとした。その時、あたしの中で何かがハジけたの。あたしの体内にある魔力が暴走して、襲いかかって来る魔物たちを次から次へと強力な魔法で殺していったのよ。大声で笑いながら、いたぶるようにして焼き尽くしたわ」
「狂っていた……という事なのか? その状態は?」
「わからない…………意識だけはあったけど、逃げ惑う村人たちを殺さないようにするので精一杯だったわ。気を抜いたら、たぶん村人も殺していたと思う。ギリギリの精神状態だったのよ、信じられないだろうけど」
「それで……魔物を全滅させたって事か…………」
「ええ。だけど、生き残った村人たちは、私を追い出したわ。この魔女は、危険すぎる存在だと言ってね。火あぶりにしようとした人もいたぐらいよ」
「その後、ずっと一人だったのか?」
「運良く、旅をしていたウィザードに拾われたの。私の体内には大量の魔力が蓄積されていて、それを感知したみたい。私は、彼女の下で5年間修業したわ。その時、このネックレスを貰ったの。魔力の暴走を防ぐ効果があるのよ。ナリユキの位置からでも見えるでしょ?」
「ああ。確かに」
本当だ。ベルファの首に、高価そうなネックレスがかかっている。
「あたしはその後、王都へ移り冒険者ギルドへ登録して働いたわ。だけど、テムル村の惨劇は王都にも伝わっていたのよ。しかも、あたしが村人を殺したという勝手な噂話までついてね。だから、あたしは街のどこへ行っても嫌われたわ。誰も私を理解しようとしない。私は決めたの。人間なんて信じない。仲間なんていらない。あたしは一人で生き抜いてみせるって」
「そんな事が…………本当は辛かったのね、ベルファ…………」
ユリカの瞳からは、今にも涙が溢れそうだった。オレは、何も言えなかった。
「そんなあたしの前にナリユキ、あんたが突然現れた。ゴブリンの群れを撃退した程度で英雄扱いまでされて。おまけに、あたしよりブスのユリカごときにデレデレしちゃって。心底、腹が立ったわ」
「ちょっ、ベルファ! 私ってブスなの!? ちょっと扱いがヒドくない!?」
同情していた相手にいきなりコケにされて怒るユリカ。まあ、気持ちはわからんでもない…………あの時のオレ、デレデレしてたっけ?
「でも安心して、ベルファ! ナリユキ君は救世主なんだから! ベルファの事も、絶対助けてくれるよ!」
「うおおおい! そこでオレに振るのか!? ベルファを助けるって、いったい何をすれば良いんだ!?」
そこで、ユリカは人差し指を立てて「チッチッチッ」と言いながら、横に振って見せた。いつものポーズだ。
「決まってるでしょ? ベルファもエアリスも私も、み~んな『チームナリユキ』のメンバーになって、仲間になるの!」