第35話 青い悪魔
それは、若い男の声だった。オレが声のする方を振り返ると、青い男が塔の壁際に立っていた…………いつの間に!?
その男は青いタキシードを着ており、髪の毛も、瞳も、靴も、かけている眼鏡のフレームまで全て青で統一されていた。
青でないのは、白っぽい肌くらいだ。
「その初期型ゴーレムは、我が魔王軍にて更なる改良を施し、実用化させねばなりません。まだ実験段階なのですよ。壊されては困るのです。」
若い男は眼鏡のフレームを人差し指でクイッと持ち上げながら、淡々とした口調で言った。イケメンだし、一見、本物の執事みたいだ。
だが、コイツは…………!
「お前、魔王軍の手先か!?」
思わず叫んでいた。そして身構えた。
「申し遅れました。私は魔王軍の四天王、ゼグロンと申します。今回の私の任務は、その実験体を回収して魔王城へ持ち帰る事なのですよ……しかし、まさか指揮官のレジックを倒され、実験体もここまで破壊されるとは……少々、人間を見くびりすぎていましたね」
「ま、魔王軍の四天王!? 幹部クラスじゃないの!」
ベルファが青ざめた。やはり、相当な使い手のようだ。
しかし、あの石像の代わりにコイツを倒してしまえば大手柄だ。そうすれば、姫様と今度こそ……。
「ナリユキ、行くぞ! この四天王を倒して、ボクは勇者になる!」
エアリスがゼグロンへ向かって走り出す。オレも後を追うように走るが、ゼグロンはふわりと宙に浮き、そのまま空中を移動して塔の外へ飛び出してしまった。
「バカな! 無詠唱で空を飛ぶなんて!」
再び、ベルファが驚愕する。普通のウィザードにはできない芸当なのだろう。
そこへ、バサバサと羽を羽ばたかせて何かが塔の中へ入り込んで来た。巨大なクチバシを持ち、ライオンのような肢体に鷲のような白く大きい翼を背中に生やした鳥獣……グリフォンか!
そのグリフォンの着地に呼応するかのように、石像がヨロヨロと歩き出した。グリフォンの背に乗るつもりだろうか。
「逃がさん!」
オレは石像の方へ走り出そうとするが、
「ナリユキ危ない! 後ろを向け!」
エアリスに呼び止められて、後ろを向いた。そこには……!
宙に浮いたゼグロンが両腕を掲げ、その両手の上にはバチバチと不気味な音を立てるサッカーボールくらいの青く光る玉があった。
「エネルギーボール!? あんなの食らったら、ひとたまりも無いわ!」
絶望の表情を浮かべるベルファ。そんなに強力なのか!?
「これは、あなたたちへのご褒美です。この爆発を味わって、もし生きていられたら、また会いましょう」
ゼグロンはニヤリと笑い、オレたち目がけて光の玉を投げつけて来た!
ヤバい、爆発したら塔が崩れる!
「ユリカ、伏せろ!」
オレはユリカの上へ覆い被さり、頭を抱えて目をつぶった。
ドガアアアン!
頭上で激しい爆発音が響き、頭上から大量の瓦礫が次から次へと落ちて来た。それらはオレの背中や足へと容赦なく降り注いで来て……そしてオレは何もわからなくなった。