第24話 道具屋の店主は叫ぶ!
オレとユリカは冒険者ギルドを出ると、デビルカタツムリ討伐の準備を始めた。
ユリカの方は、オレと出会う前まで住んでいた教会から自分の荷物を新しいアジトへ運ぶべく、教会へ戻って行った。
オレの方は、ユリカから銀貨3枚を受け取り、道具屋へロープを買いに行った。巨大なデビルカタツムリの殻を持って運ぶことはできない。ロープで殻を縛って、その先端を持って引きずって帰るしかないと考えたからだ。
本当は、武器などいろいろ購入したかったのだが、
「もう少しお金が貯まるまで武器はガマンするの~。倹約なの~」
というユリカの意見で潰されてしまった。世知辛いなあ……。
デビルカタツムリの棲む北の森は、歩いて半日近くかかる。夜戦は不利になると考えたので、午後を準備時間に回して出発は明日の早朝という事にしたのだ。
……という訳で、オレは道具屋に入ったのだが。
「いらっしゃいませ……おや、初めての方ですね? 私、店主のクライゼと申します」
現れたのは、ボサボサの黒髪に無精ひげといういで立ちの怪しげな男だった。なんと黒縁の眼鏡をかけていた。この異世界でも眼鏡が存在するのか……。
オレは店内でロープを見つけると、持ってきた銀貨3枚と一緒にクライゼへ差し出した。
「ああ、ロープは20エルドですよ。これはお返しします」
あっ、銀貨が1枚返ってきた。これはポケットに隠してユリカには黙っておこう。
しかし、さすがに道具屋だけあって、いろいろな品物が置いてあるな…………おや?
店内でオレの目に留まるモノがあった。
それは、女性の姿を模した木彫りの彫像だった。それぞれ、1メートルくらいの高さがあり、かなり大きい。しかも、ご丁寧に色付きで塗装されていた。それが10体もある。
さらによく見ると、その中にオレが知っている女性の彫像があった。これは間違いなくユリカだ。エアリスが剣を構えてポーズをキメている彫像まである。
「これは……いいモノだ……!」
思わず、ユリカの彫像をまじまじと眺めてしまった。ユリカは黙っていればかわいい。
そのかわいさが彫像に凝縮されていた。恐ろしくリアルな出来映えだ。
「この彫像、いくらぐらいの値段なんですか?」
つい、クライゼに尋ねてしまった。しかし、クライゼは申し訳なさそうに頭を下げた。
「これは、お客様にお売りしていないんです。手先が器用なのだけが取り柄の私の趣味でして。ここだけの話ですが、たまに国王がお忍びでこの店にいらして、高額で引き取ってくださることはありますけど」
あの国王! 政治ほっぽり投げてフィギュア集めなんかやってるのか!
……まあ、ここで怒っても仕方がない。
見事な彫像ではあったが、1つだけ惜しい点があった。
女性の彫像は上半身とお尻の部分までは作られていたが、全て足が作られていなかたのだ。
「素晴らしい作品だけど、惜しいなあ……ユリカの全身だったら良かったのに…………80パーセントの完成度だ」
オレが何気なく放った一言に、クライゼは過敏に反応した。
「冗談じゃありません! 現状でユリカの魅力は100パーセント出せてます!」
「足はついていない……」
「あんなの飾りです! 偉い人には、それがわからんのですよ!」
どうやら、国王も足がついていた方が好みらしい。ダメダメ国王らしいけど、初めてオレと意見が合ったな。
オレは頭を下げて店を出た。いつまでも油を売っているワケにはいかない。
アジトへ戻ると、ちょうどユリカが荷物を持って帰って来ていた。ユリカはオレを見つけると、
「荷物が多いから、もう一回教会へ行くの~。ナリユキ君も手伝って~!」
と泣きを入れて来た。やれやれ。オレは教会へ向かうユリカを追いかける……と、そこでユリカが振り返って、オレの手を握ってきた…………えっ!?
「ユ、ユリカ…………これは?」
うろたえるオレに、ユリカはニッコリと笑って言った。
「言いそびれていたけど、これはお礼! さっきベルファに襲われた私をナリユキ君が助けてくれたでしょ? ありがと~♪ あの時のナリユキ君、カッコ良かったよ~」
言いながら、握った手を前後にぶんぶんと振る。なんだこのかわいい生き物は……。
「じゃあ、お礼としてオレの財布を返してくれ、今すぐ!」
「う~ん、考えとくよ~」
まあ、フィギュアより本物の方が良いか……。