1 いよいよ始まります
「皆さんこんばんは!実況生中継のお時間がやってまいりました!
本日はここ、東丘桜団地四号棟、三〇三号室スタジオよりお送りして参ります。
実況はワタクシ、酒とパチンコが祟り、妻に逃げられ八年目の独身サラリーマン、妻木大二郎が務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。
そして解説はこちらの方をお呼びしております。自己紹介をお願いします」
「どうも、先月風俗に五回行った事が妻にバレて相当険悪な状態に陥っている、茲ノ(の)井十作と申します。
どうぞよろしく」
妻木「よろしくお願いします。
茲ノ井さんとは同じ団地に住んでいるという事で、一緒にお酒を飲みに行ったり、飲み屋のお姉ちゃんを口説きに行ったりする仲でございます」
茲ノ井「先週行ったバーのお姉ちゃん、もうひと押しで落とせそうだったんですがね、
財布の中身が続かなかったのが残念でした」
妻木「はい、あそこでボトルをもう一本下ろせればビッグチャンスが転がり込んで来たんですがねぇ、
あと一歩と言う所でした」
茲ノ井「次の試合に活かしたいですね」
妻木「まったくそのとおりです。
さて茲ノ井さん、本日の試合会場ですが、この東丘桜団地四号棟のちょうど向かいに位置します、
東丘桜団地二号棟の三〇五号室だそうですね?」
茲ノ井「はい。あの部屋には赤部敏郎という二十歳すぎの男が住んでいまして、
現在付き合いだして三ヶ月目の同い年の彼女が居るとの事です。
そしてその彼女を夜な夜な自分の部屋に連れ込み、
それはそれはいかがわしい行いをしているという情報をつかみました」
妻木「はい、実にうらやましい。
そしてこの赤部という男は金は大してないくせに女にはよくモテるようで、
今付き合っている彼女の他にも、何と人妻とも二股をかけているそうです」
茲ノ井「この辺りは金が無い分、ルックスと夜のテクニックでカバーしているという所でしょうか。
若さというステータスを存分に発揮していますね」
妻木「まさに夜のテクニカルヤングハンター。
狙った獲物を若さとテクニックで次々と狩りとっていきます。
さて、この赤部という選手、夜の行いをする時に、大きな特徴があるんだそうですね茲ノ井さん?」
茲ノ井「そうなんです。
この選手は夜の行いをする時に電気を消さず、なおかつ部屋のカーテンも閉めないんです。
だから外からはかなりよく見える状態なんですね」
妻木「俗に言うノーガード戦法ですね?
それだけ自分のプレイスタイルに自信があるという事でしょうか?」
茲ノ井「そうですね。そして覗かれる事で更に自分の興奮を高めるタイプの選手なのでしょう。
しかしこの戦法はパートナーの女性が嫌がる事が多いので、採用するのはとても難しい戦術でもあるのです。
それを彼は本命の彼女と、二股をかけている人妻の両方に採用しているので、どちらのパートナーともかなり信頼度が深いようです。
この辺りはプレイだけではなく、コミュニケーション能力も高いと見て間違いないでしょう」
妻木「なるほど。そしてそのおかげで我々はこうしてその試合の様子を覗き見・・・・・・
いえ、実況生中継できるという訳ですので、この辺りは赤部選手に感謝しないといけませんね」
茲ノ井「まことにごっつぁんです」
妻木「はい、という訳で今回の実況生中継はですね、向かいの東丘桜団地二号棟の三〇五号室で今から行われるであろう、赤部敏郎選手の夜の行いの様子を、ワタクシ妻木と解説の茲ノ井さんで、双眼鏡で観戦しながら実況中継して行こうという趣向でございます。
ちなみにこの部屋は解説の茲ノ井さんの住居なのですが、今夜奥様はどちらに?」
茲ノ井「はい、今夜は同窓会に出かけていて、明日になるまで帰りません」
妻木「正に実況生中継に相応しい夜ですね。
どうぞみなさん、試合終了までお付き合いくださいませ。
そして試合会場の隣に位置する三〇四号室には、その部屋の住人であり、今回現場リポーターを務めてくださる、独身歴=年齢の高田幸一さんが待機しています。
ちょっと中継をつないでみましょう。高田さん?聞こえますか?」
高田「はい、現場の高田です。
私は今、三〇四号室の壁に聞き耳を立て、隣の三〇五号室の物音や会話を聞き取ろうとしています」
妻木「試合会場の音声は、そこからよく聞こえますか?」
高田「この団地は壁が極めて薄いので、普通の会話も結構よく聞こえますね。
試合会場の音声を、できるだけ正確にお伝えして行こうと思います」
妻木「よろしくお願いします。ちなみに高田さん、試合開始時間は何時頃になりそうですか?」
高田「はい、現在二十時五十五分で、さきほど携帯電話であと少しで到着すると彼女から連絡があったようなので、もうすぐ彼女が到着するかと思われます」
妻木「なるほど、わかりました。
解説の茲ノ井さん、彼女の到着はもうすぐという高田レポーターからの報告でしたが、そうなると、彼女が到着してから晩御飯を食べ、お風呂に入って少しくつろぐという流れを考えますと、試合開始は早く見積もっても十時以降という事になりますでしょうか?」
茲ノ井「いえ、 赤部選手は若いという事もあり、まどろっこしい試合前のウォーミングアップを嫌う傾向にあります。
つまり『Dinner or Bath or Woman?』という選択肢が発生した場合、彼は即座に『Woman!』と答えるのです。
メシやフロよりもまず一発という事なんですね」
妻木「試合前にシャワーを浴びるという事もしないんですね?」
茲ノ井「そうですね。ですがこれは私的には非常に好ましいスタイルですね。
女性の旨味をそのまま味わうという点で、赤部選手のプレイスタイルは非常に私的に好ましいです。
はい、好ましいです」
妻木「解説の茲ノ井さんも非常にお気に入りの赤部選手のプレイスタイル。
これは彼女が到着次第試合開始という事も十分にありえるという事でしょう。
おっとここで、試合会場に動きがあったようです。現場レポーターの高田さん?」