Case.50『とあるお店の出来事』
車を走らせたどり着いた場所は、とあるクリーニング店。普通の衣類は勿論のこと、『スーツ』や『オブジェクター』の洗浄も行なっている……知る人ぞ知る隠れ家のようなお店。
「……『天羽洗店』」
「――すっごい嫌な顔してるわね、兎川さん」
「まぁ、やらかした事が事だからねぇ……」
そんなお店の前でウロウロする兎川。それを車内で見守っている僕達。側から見れば不審者一択なのだが、どういう訳か本人が一人で行くと希望して、現在に至っている。
「……本当に大丈夫なの? アレ」
「何かあったらすぐに出る。まぁ、本人と希望してたし、覚悟の上じゃないか?」
「それはそうなんだけど……兎川さん、何やらかしたの?」
「……本人の黒歴史を語っていいのか分からないけど、まぁ……尖った挙句に天羽を振ったというか……振られたというか……」
「え……? 兎川さんと栞がそんな仲だなんて……」
元々、あの二人は付き合っていた。と言っても、友達以上恋人未満ぐらいと本人達は言ってたが。
「お互い最後の一歩が踏み出せないまま、時間だけが過ぎていったんだけど……その一歩を――」
「盛大に踏み間違えた、と……」
「僕が巻き込まれたのは、アドバイスがほしいってアイツから相談を受けてな?」
「何て言ったの?」
「両方の事を知ってて両思いだったのは分かってたから、お前らしく飾らないで行け! って言ったら……まぁご覧の有様」
「あー……」
そして、当日に兎川が天羽へ告白……したらしいが、詳細は二人のみが知っている。でも、何かやらかして振られ、八つ当たり気味に僕へ抜き身の剣を振るい始めた。
「……と言うより、良く知ってたわね? あの二人が付き合ってたなんて」
「元々、劇団で色々やってたからな。こういう面倒見るのは、慣れてるんだ」
……まぁ、あの時は理不尽な先輩に嫌気が差していた劇団員をなだめていただけで、そんな大層な事をしたつもりは無いけど。
「それよりも――入るぞ?」
外を見ると、入り口でウロウロしていた兎川が意を決して店の扉を開く。覚悟は決まったのだろう。
「……思ったよりも静かね。栞の事だから、武器持って追い出すぐらいしそうだけど」
兎川がクリーニング店へ入り、暫く時間が経っても事が起こらない。彼女は兎川とは真逆だけど、同じ近接戦闘をこなす人間。そんな子がキレれば何かしら物音ぐらいは――
「……ん? 何か、おかしくないか?」
「どうかしたの?」
「いや、何というか……あそこから大量の『マテリアル』が集まっているような……」
建物の周囲から『オーグメンテッド・マテリアル』が募り出し、あの建物だけ禍々しいオーラを放っている。……もしかして、まずいのでは?。
「それって……彼女の違法パーツは――」
答えが揃ったかのように、お互いを見つめ……急いで車から降りる。アレは洒落にならない。
「――ストップ! 天羽ストップ!」
お店の中へ急いで入ると、そこには――
「――ね、言ったじゃないの。こうやったら簡単に出て来るって」
「本当、今更何しに来たの!」
「……えーっと、え?」
どういう訳かもう一人の同期と天羽が待機する中で、兎川だけが縄で縛り上げられている奇妙な状況が広がっていた――。
「――やだ、しばらく見ない間に……長通ちゃんも、いい男になったじゃない」
『家形 光亮』。黒い短髪の上から様々な色のウィッグを付けた、左目が黒で右目が茶色と、少しだけ左右の目の色が違う……セブンヴィランズ最後の一人だ。性別は不詳だが……まぁ、そういう人だ。女装好きの同性愛者だが、だからこそ両者の意見を知っている……頼れる年長者でもある。
「……何で、ここにいるんですか?」
「やぁねぇ、アタシはお手伝いしてるだけよ。たまーにだけど、ね?」
「そうでしたか……」
この人は正直何を考えているのか、分かりそうで分からない。掴み所が無くふざけているようで、全てを見通すかのように手を回す。……でも、その目的はまるで不明。何の為にこの場所へ来たのか、また何の為にこの場所を抜けたのか……知らない事が多すぎる。
「そ、れ、よ、り、も、問題はあっちよあっち。アタシは知らないからね?」
「……いい加減、栞も話したらどう?」
「嫌よ! どうして今更、こんな奴と話さないといけないのよ!」
「……こっちは全く変わって無いようで――」
「何か文句あるの!?」
「いいえ? 何も?」
そして縛り上げられた兎川の真ん前で、軽く腕を組んで怒った表情を作るのが『天羽 栞』。
少し赤っぽい地毛をシニオンのように纏めた、イギリス人とのクォーター。目の色が特に強く受け継がれ、緑っぽい瞳は……少しだけ近寄り難い、外国人の雰囲気を醸し出す。……クォーターで日本生まれだから全然普通と、本人は嘆いているが。
「あの時は、ごめんって――」
「じゃあ何で今まで謝りにこなかったの! ここでクリーニングやってる事、剣汰は知ってたじゃん!」
「……行ってないのか、兎川?」
無言で黙る兎川。これは……
「それは、お前が悪いな」
「な――!」
「ええ、二年間ずっと放置は私も弁護できないわ」
「仕方ないじゃないですか! あんな別れ方して、嫌われるのは当然ですし……顔も見たくないかなって……」
「……だ、そうよ? 栞、どうするの?」
まぁ、お互いの意見が分かる立場にいるから、ここは割って入るべきではないな。
「――いい加減、兎川ちゃんを許してあげたら?」
そんな中、スッと手を差し伸べるのは家形。
「家形さん?」
「天羽ちゃんは賢い子なの、アタシは知ってる。兎川ちゃんが本当は謝りたかった事、もう分かってるでしょう?」
「う……うぅ……」
「そんな子が、嫌われてるって顔を出さなかった事も……貴方達の仲なら、知ってるはずよ?」
結構容赦なく正論を立てる家形。……若干、天羽が何も言い返さずに吃ってしまっていたが。
「栞……本当、ごめん!」
「むぅ……。今回だけ、だからね?」
そう言って、縛り上げていた縄を解いていく。……何とか、仲違いは解けたようだ。
「それで、貴方達がいるのは……事件かしら?」
「……協力して欲しい事があります」
壊れた仲は多少元に戻り、話の本筋へ。……こうやって何年ぶりの話も積もりそうだが、今はまだ……取っておこう――。




