Case.04『違法パーツの行方』
家の内部に変わった所はなく、よくある一般家庭の印象。そして、リビングには打ちひしがれている女性。
「……『臼田 百合江』さん、ですね?」
「また、警察ですか」
兎川が話しかけ、振り向いた臼田は僕達の姿を見て若干呆れた顔を浮かべる。
「……もう一度お話を伺ってもよろしいですか?」
「何度も言ったでしょう! 大きな音がして、二階から確認したら倒れてて、急いで降りたら死んでたって!」
彼女の証言は変わらない。でも、そうなると矛盾が起こる。それは――
「被害者の視界を確認しましたが、彼は最後に二階を見ておりました。ですが、その際にカーテンは少しも動かなかった。それはつまり、二階で貴方が見ていない事を意味します」
日尾野が突くそれは、彼女の矛盾。二階で見ているのなら、視界を隠すカーテンを除く為に手で払い、それは動く。
「それは……軽く見たから見えなかっただけ――」
「それはおかしい。仮にも旦那さんが倒れているのを見かけて、わざわざカーテンの揺れを気にしつつ下に行くんですか?」
「――っ!?」
倒れている旦那を見つければ、それこそ動揺してカーテンは大きく揺れるだろう。なのに、それが無かった。彼女が二階で見ていたのが仮に真実だとしても、隠れるのを優先するのは人としておかしい点だ。
「でも、彼が先に倒れていたらおかしくないじゃない! コンダクターは意識を失えば――」
「残念ですが、鑑定の結果……意識を失う直前でドアの音が聞こえました。ここの玄関の扉と型番が一致、鑑識として貴方の言葉は矛盾しています」
鑑識の来栖がずっと残っていた理由。
この人は納得のいかない事は徹底的に調べ上げ、真実を探す人。今回の件も、鑑識が一人残っていたのはこの違和感を探す為。小さな音すら拾って無実を証明した事は何度かあったし。
「……動機は? 動機は無いじゃない!」
「……お隣である『川勝 悟』さんと共犯してたら、動機は存在していますよね?」
「共犯? な、何の為に」
神白が川勝の名前を出してから、臼田の声が明らかに震えて動揺している。
「……不倫、してましたよね?」
「――っ!?」
「貴方の証言していた大きな音、確かに映像にはその音は存在していました。ですが、それは彼が倒れた事による物。マイクを落とした際に意図しない大音量のノイズが入るのと同じ理屈です。ですが、お隣さんである川勝さんも、同じ事を言っていた……口裏を合わせていたんですよね」
冷静に詰める神白に、冷や汗が止まらない臼田。目はキョロキョロして目線を合わせず、手には若干の震えと自分の身体を軽く触る仕草。明らかな嘘を付いている物と同じだ。
「――証拠は!? 証拠が無いじゃない!」
「証拠なら隣の家にありますよ。違法パーツは簡単に手に入る物でも、簡単に捨てられる物でも無い。この家を見た時、何の変哲もなく鑑識も異常無しと判定された。凶器である違法パーツは、存在が犯罪……捨てる事は特定にも繋がる。だから、何処かへと隠した――違いますか?」
指紋特定等が発達した現在では、凶器を川などに捨ててもすぐに特定されてしまう。まぁ捨てる様そのものを誰かに見られていたら、の話だが。
「よし。兎川と長通は川勝の確保。神白は彼女を見て、怪しい行動があれば確保してくれ」
「日尾野警部補は?」
「僕は、少しばかりやる事が出来た。すぐに戻るよ」
日尾野はそう言って、急ぐように外へ向かう。そのすぐ後に車のエンジン音が鳴って、爆速で何処かへ向かった。
『あーそう言えば……限定的警察権を許可する!』
慌てるように無線が入り、胸元の手帳に名前が刻まれる。そして、各々が正体を隠すようにヘルメットを被り、僕から俺へ――
「……じゃあ行こうか、ラビット?」
「人いるのにコードネームを出すな」
ちょっとした茶化しを入れつつ、俺と兎川――ラビットは外へ。行き先は隣の家、この騒動でも無音なのが少し不気味な、共犯の疑いがある人物の確保へ。
「――周囲、異常無し。出入り口はここと玄関だけらしい」
『前々から思ってたけど、ヘルメット被ると性格変わるんだ、キング?』
「ヒーローショーって被り物して演技するだろ? それに、自分の顔を見られないから演技しやすいし」
『ヴィランは悪役って意味なんだけど?』
「うっせ」
万全の装備を付け、周囲の捜索も完了。武装は普段から持っており、何時でも取り出せるように身に付けている。まぁ許可が無いと銃は撃てず、剣は鞘から抜けないんだけど。
「ラビット、そっちの準備は?」
『何時でも平気だ。そっちこそ、前のようなヘマ起こすなよキング?』
「……あんま傷を抉るな、まだ反省はしてるんだから……」
人はいないから、中にいるのは確定として……後は違法パーツの対処だけだ。とりあえず、突撃前に――
「警察だ! 扉を開けて投降するなら何もしない! だが、だんまりを決め込むなら突撃も辞さない! 大人しく出て来い!」
一応、投降するかの確認。そして、
「警察からの家宅捜査許可よし、警察手帳の確認もよし、そして返事は無し!」
『こっちも完了だ、キング』
「よし、突撃!」
全ての確認を取り、扉を蹴飛ばす。鍵が掛かってるし、家宅捜査の許可はある。少しばかりの破損ぐらいなら大丈夫だ。
「ラビット、お前は先に二階を頼む」
『キングは?』
「罠を仕掛けるに決まってるだろ?」
家は一軒家で、広いとは言えないけど狭いとも言えない所。隠れる場所も多そうで、油断は決して出来ない。最悪の可能性は見落としからの逃走。それは流石にさせないように、出入り口に罠を仕掛けた。……周囲を捜索した際にも色々仕掛けたが。
「……やっぱり一階にはいな――」
確認を終え、少しだけ安心した瞬間に轟く爆音。それは空気が破裂したような、紙鉄砲によく似た音。
『キング、二階だ!』
ラビットの言葉を頼りに急ぐとそこには――
「クソが! お前も死ね!」
「犯罪者に分け与える命なんて無いんだよ!」
刀と剣で鍔迫り合いをする二人の姿が、窓からの夕焼けに照らされ、影を伸ばしていた。