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Case.47『装甲車爆走事件・解決編』

 瞼を開ければ、白い天井。周囲には、生命維持を促す装置と……腕に繋がれた多数の点滴。


「……ここ、は」


 直線のはずの点滴を支える鉄棒や管が歪む。未だに朧げで、頭もあまり回らない。


「――け、い……?」


 ふと左に目線を落とす。すると、僕の左手を握りながら眠る……神白がいた。


「どうやら、戻れた……かな……」

「――京!」


 強く握られる左手。暖かく柔らかな感触だけが、この場所が現実であると知らしめてくれる。そして、


「本当……馬鹿……っ!」


 視界が未だ晴れ切ってなく、ぼやけてあまり見えない瞳でも……手に伝わる水滴で、彼女の心が容易に分かってしまった――。




 僕が意識を取り戻して一週間。どうやら僕は二週間意識不明だったらしく……合わせてあの事件から一ヶ月過ぎた。


「――調子はどうだい、京君?」

「いやぁ、リハビリで殺陣はダメだって言われました……」

「……聞いた僕が馬鹿だった」


 意識以外はある程度手術を済ませており、意識不明から回復した僕はトントン拍子でリハビリとなった。


 両腕の火傷は重度の物だったがギリギリで炭化が無く、辛うじて両腕を残せた。だが神経はそう上手くはいかず、電気による火傷という事もあってリハビリで感覚を取り戻している真っ最中だ。

 瞳は酷い充血と、酷使による重度の眼精疲労が認められた。それでもまだ治せる範囲らしく、後遺症は無いとも言われた……このペースで使い続けたら失明とも言われたが。


 リハビリも本来ならもっと時間を掛けろと医者から言われ、身体を動かす事すらさせて貰えなかったが……刑事という役職と身体の調子が良い事もあって、渋々認めて貰った。……その初日に殺陣やって説教を食らったが。


「日尾野警部補!」

「……君も! 重傷だったんだから、少しは自覚をしてくれないかい、兎川君?」

「僕は止めろと言ったんですよ? ですが長通が――」

「僕のせいにすんなよ!」


 そして、兎川も重傷で同じ病院へ。特に酷かった両腕は『スーツ』の応急処置でギリギリだが繋がった。それでも、多数の傷跡は残るそうだ。

 あの時、ちょっとでも槍の反動を喰らっていたら二度と腕はくっつかないだろうと言われたが、それが却って兎川に火をつけ……あの感覚をもう一度と躍起にリハビリをこなしている。……ちなみに、殺陣を起こしたのは、兎川だ。


「……今回は真面目な話だ。場所を移すかい?」

「いや、このままで大丈夫です。もう……隠す必要もないので」

「兎川……」

「うわ、哀れんでますよこの人! クソ爺に喧嘩吹っかけたのは長通なのに!」

「お前なぁ……」


 結局、あのビルのオーナーは頂上にいた老人『朝烏 安行(あさがらす やすゆき)』は、一般的なARを出力する為に配置される『オブジェクター』を製造する大企業『黒衣(くろご)』の社長だった。

 『オブジェクター』は出力用の部品で『コンダクター』とは対を成す物だ。コンダクターだけ付けても、それを映すオブジェクターが無ければ意味はない。映像記録だけがあっても、それを出力し映し出す機材が無ければ無用と同じ。……これを違法に発展させて殺傷力を持たせた物が『違法パーツ』でもある。

 この企業『黒衣』はそんな『オブジェクター』を専門に成り上がった一大企業で、他の追随を許さない技術力と周りを飲み込む吸収力で財を築き上げた物。……内情を知った今思えば、ある種の洗脳で妄信的にひき込んだのだろう。


「――とりあえず、あの装甲車の犯人は全員保護した。全員、家族ないしは親族に『烏兎流』の人間が確認出来たから……ほぼ、君のお爺さんが起こした事で間違いは無いだろう」

「……でしょうね。でなければいきなりあんなテロ行為、通常では考えられません」

「続けるよ。兎川君を刺した男は『納村 真人(おさむら まさと)』……聞き覚えは?」

「知りません。その男は、僕に恨みがあったりしたんですか?」

「……君の兄に、親を殺されたと証言している。裏は取れて無い上に、辻褄が全く合わないから噓と断定しているが、一応ね?」


 そして、そんな社長である老人……朝烏は、兎川のお爺ちゃんにあたる人物だ。詳しい家庭事情は知らないが、確か『ARテロ』によって兄が犠牲になったはず。


「……お、やってんねぇ」

「汐華君か。そっちの裏は取れたのかい?」


 そう話をしていると、汐華が現れる。少し汗ばんだ額と、身体の線が如実に現れるスポーツ用のタイツとホットパンツ姿で……何をしていたのか分かりやすい。


「一応。まず『烏兎流』だけど……兎川には悪いが、アレは大概だね」

「良いんです汐華さん。それが嫌で抜け出したんですから」

「ま、あんなの私もごめんだ」

「……何を見たんです?」

「ん? ――武術名乗ってるだけの宗教。あそこの本質は、洗脳と人質で汚らしくライバルを潰していくクソ企業だ。だが、更にクソなのが――」

「あのジジィが手広く人脈を広げてしまっている……ですよね、汐華さん?」


 洗脳と侵食、見えない裏で悪をこなす人間。……バレなきゃ犯罪とは気付かないからこそ、証拠隠滅の為に複数の手を使ってくる。

 一ヶ月の間暇だから情報収集はしてきたが、この企業に関する事は一切報道されず、警察も事実上手を引き断念した、と……遠谷警部と畑島警視が見舞いに来た時教えて貰った。


「……結局、逮捕状も出ずに僕達は謹慎処分。皆に迷惑をかけて申し訳ございません」

「いいんだよ長通。私も、色々上には鬱憤が溜まってる」

「――だからと言って、上の命令無視するのは無しだからね、汐華君?」

「分かってるっての」


 汐華は元警察官で、辞めた理由は命令無視。だがその真実……その交番では度を越したセクハラやパワハラが多く、本人も嫌気が差していた所でとある事件が起き……犯人を射殺した。

 だが汐華は手を撃っており、頭を撃ち抜いたのは上司であるセクハラを起こした男だった。だが、その男は汐華が犯人を殺したと明言。同じ型の同じ銃だった事が災いし、犯人射殺で謹慎になるはずが……汐華はその判決に不服で暴れ、辞職した。


「後、悠奈には後で会っておきなよ? 長通が倒れた時、一番心配してたのはあの子だから」

「……知ってます。まだ病院から出られませんが、まず先に話を付けないと……」

「それよりも、汐華さんは何で神白さんと喧嘩したんですか? あの頃は姉妹みたいな関係だったのに」

「兎川……あまり、女の子のプライベートをほじくり返すのはダメだよ?」

「女……の子?」

「よーし、日尾野! お前を一発撃ってやる!」


 ニコニコ笑顔で銃を取り出し、日尾野を追いかけ回す汐華。そこで、


「……神白?」

「あっ……」


 リハビリ室の外で、入ろうか迷っている神白を見つける。


「……何だか、騒がしいわね?」

「何でかは知らないけど……神白は入らないのか?」

「……私は――」


 何かを言いかけるが、僕の背後を見て咄嗟に止める。それを見て僕も振り返ると――


「ほう?」


 少しニヤニヤした顔の日尾野が覗き込んでいた。更にその背後で、


「……日ー尾ー野ー?」


 凄まじい怒気を放つ汐華と、無言で呆れている兎川の姿。


「汐華君、君も気になら――」

「問答無用!」


 そして、さっきまでの続きと言わんばかりに日尾野の汐華の鬼ごっこ。


「……本当、騒がしいな」

「いつもの事じゃない?」

「そんなもんか。……神白」

「どうしたの?」

「ありがとうな。ずっと病院にいてくれて」


 そんな騒がしいからこそ言える、普通なら言えない言葉。


「……うん」

「じゃ、そろそろあの二人を止めようか。本気で危なそうだし」

「――そうね。行きましょう」


 少しだけ赤くなる神白の顔。そんな神白の手を握り向かう。……ほんの少しだけ高鳴る僕の鼓動を隠すように――。

 

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