表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/52

Case.45『絶望の一槍』

 自身の身体と心を剥離していく。ハッキングで作った電力の線を、精神に辿らせて――兎川の身体へ。


『……イメージは、あの老体』


 あの男の場合は、直接神経に何かを埋め込み完全憑依するような形を取っていたが、今回の場合は……あくまで『コンダクター』と『スーツ』の感覚と共有して結果身体を動かせるようになる物だ。だから――


「身体が勝手に動くんですが」

『心配すんな。僕だ』

「……半ば気持ち悪いですね、僕だけに見える霊のような物ですよ? 今の長通は」


 今は『コンダクター』の視界を借りながら、AR世界にダイブしている。所謂、今兎川が見ている世界に僕が存在している感じだ。


「それで? この後は?」

『……僕が見て、兎川が切る。簡単だろ?』

「――馬鹿じゃないんですか?」

『大丈夫……本気だ』


 遥か彼方に存在する素体は、未だに切っ先をこちらに向けたまま動かない。それなのに、電力だけは槍に溜まっている状況下だ。


「……ねぇ、兎川さん。そこに京がいるの?」


 周りから見れば、兎川にしか見えない亡霊。喋りも実際は骨伝導を用いて伝えているのもあり、独り言だ。


「彼女さんが心配してますよ?」

『お前の身体でぶん殴ってやろうか!?』

「冗談です。いますよ、この辺りに長通が」

「……そう。任せて良いのね?」

「――長通の見解は?」


 本当は、三割にも満たない作戦。この状態で僕の眼が正しく機能して、尚且つあれを目視出来る限界まで本気で見るのが第一段階。まず、見えない時点で詰みの眼力勝負。

 次に、初めての状態で起こす兎川との連携。僕が見えたとしても、身体が動かなければ意味は無い。だから身体を『スーツ』を用いて動かすのだが……最大の難点である、僕が『烏兎流』を知らない事が強く響いていしまう。なので――


『連携が大事かな。僕が見えても、僕は切る技術を知らない。逆に兎川は切る技術を持っていても、あの槍を見る術を知らない。……だから、兎川。ぶっつけ本番で阿吽の呼吸まで揃える事……出来るか?』

「……何も心配ない、完璧に出来るそうです――」

『おい、兎川!』

「なら、心配ない。兎川さんも、京も、気を付けて」

『おい! おいって!』


 僕の静止を完全に無視し、バンの上によじ登る兎川。


『おい兎――』

「いい加減うるさいです。聞こえてますよ」

『……良いのか? 噓ついて』

「どうせ、出来なきゃ死ぬだけなんですよね?」

『それは……そうだけど』

「なら、覚悟は決まってます」


 大剣を握りしめ、下段に構える兎川。それに呼応したのか、槍持ちの素体は槍を逆手に握り直し……投げる構え。


「よろしくお願いしますよ?」

『分かってるよ』


 今ある全てを視界へ向けて、限界まで視覚から――


『……いつもの身体じゃないから、やりづらいな』

「僕の視覚ですからね」


 いつもなら、この段階で周りの時がゆっくりになっていくが……今回は兎川の身体。僕は視覚を得ているだけなので時間が掛かる。


「……来た」


 でも、それが思わぬメリットに繋がる。意図的に視覚以外を断ち、脳の全てを眼に渡すやり方を――兎川の身体に染み込ませていた。早い話……この時間が止まった空間を――兎川も見ている。


『でも……僕の技と少し違う……?』


 だが、紙芝居のようにしか動かない僕の眼と違い……全体がまだある程度動いている。


「――後は、切る」


 遥か彼方から放たれる、瞬間の出来事。ゆっくりになると言っても、それは瞳と頭を直接繋いで一瞬の内に情報伝達が出来るからこそ、周りが付いてこれないだけ。現にあの時、身体を無理やり身体操作で動かして……一瞬だけ音速を超えるようにしたから動けた。

 だから、あの槍が音速を超えてしまえば――


「――っ!?」

『兎川!』


 それよりも先にある物を見据える事は出来ない。それが、人間の限界。僕の身体ならまだ見えたかもしれないけど、この光景は……それこそ閃光のように一瞬でバンまで飛んできていた。ギリギリ反応した兎川が褒められるレベル……だけど、


「大丈夫、逸らせました!」


 槍を切れないという事は、その威力を少なからず両腕に刻まれる事になり――


『逸らせたじゃねぇよ! お前、腕が――』


 兎川の両腕が布のように引き裂かれ……僕よりも酷い、裂傷と骨折だらけ。繋がってるのが不思議なぐらいの状態になってしまった。


『……失敗か』

「失敗じゃ……」


 何かを言おうとした途端に見える、()()()。手元まで戻ってきた槍を再度構え直す、化け物の姿。


「……切らなきゃ、負け」

『何を言って――』


 兎川はそう言うと『スーツ』を引き締め――無理やり腕を繋ぎ合わせ、


『お前! 腕が取れるぞ!?』

「……切れなきゃ負けなんです。もう一度だけ……力を貸して下さい」


 もう一度、下段に構え直す。見えないのに、勘だけで当てられる物でもないのに、この男は……愚直に構えを取った。……僕に、何か出来る事は――


『……なら、僕の眼()()借りるか?』


 無理を超えて無茶な作戦。……視覚共有や他人の身体操作を僕が頑なにしない理由でもある。

 人間一人に脳が一つ、その環境は絶対に揺るがない。だから――過多な情報は脳をパンクさせる危険性がある。

 複数の情報を処理するという次元を超え、複数の身体を操作しつつ正しい処理をしなければ……共有したどちらの脳もパンクしてしまう。

 だから僕が兎川の負担を取り除く為に、自身の脳で兎川の身体ごと全て処理しきらなければならない。

 例えるなら……右手の人差し指を動かしながら、義手として繋いだ同じ右手の人差し指は別の動作を起こすよう、脳から指示を出す。到底無理だが……覚悟は決まった。


「出来るんです?」

『無理……なんだけど、その腕で兎川はまた構え直した。死ぬ覚悟ぐらい……僕にも出来る』


 ……良くて廃人。脳を過ぎる言葉を飲み込みながら、僕は自身の身体へ戻っていった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ