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Case.43『全てを賭けて』

「プライドを壊す……やってみろ!」


 完全に勝つ勝算は無い。――()()()()()だけ……それでも、時間は作れる。


「まずは――」


 プライドを壊すと大口を叩いた。そして、相手も僕に一定の評価を下している。……なら、次に起こす行動は必ずと言っていいほど、真正面からの全力。自身の言葉を覆せという、一種の挑戦状だ。――だからこそ、読みやすい。

 次に行う相手の技は、背後に穴を開けた……あの槍投げ。僕が前に躱せなかったアレが、今度は心臓に狙いを定めて放たれるはずだ。

 速度はアレと同等と仮定、目視は無理。なら……発生源の手元を見ろ。知らない技で殺すなら、とっくの昔に僕は死んでいる。己の趣向を重視する人間なら、きっと――狙いは心臓。


「後は……見る!」


 幸い全裸で服を着る様子もない。なら筋肉の張りから足元まで――全てを見る。

 銃弾を躱すのと同じ理論だ。弾が見えないなら……放たれるまでの距離と指をみて、予め身体を範囲から逸らす。60フレームでしか動けないなら、それなりの立ち回りだ。


「――ほう!」


 槍は手元で弾け、心臓を穿つ線を辿る。ギリギリで皮膚を抉ったそれは、大量の鮮血となって背後まで突き刺さり、


「終わらせる!」


 武器を放った槍の素体へ走る。そして、同時に――仕込んでおいた、老体がいる装置の罠を作動させ爆破。


「……そんな物――」


 当然、見向きすらしないだろう。この老人は、精神を移し変えた後から背後を気にする素振りが一切無かった。僕の違法パーツを分かっていながら、無視したんだ。つまり……頑丈さは天下一品。弱点はあるはずだけど、この状況で探れるほど余裕も無い。だから――


「――引っかかった」


 これは、六人の素体へ向けた――指向性爆弾。そこに仕込んだ針と鉄線だ。


「多少驚いたが――」


 背面を襲う針。当たれば御の字だが、大剣の男が全てをなぎ払わんと剣を振るう。


「今、だ!」


 その瞬間、手元から放たれる――己の身体を度外視した雷鳴。直接ハッキングは時間が掛かるから、肉体を焼きながら……僕の手で。


「チィッ!」


 咄嗟に割り込んだ槌の男は、雷鳴を真正面から受けて倒れる。……本来ならこれで六人潰すつもりだったんだけど……。


「……っ!?」


 両腕から焼け焦げる匂いと鋭く走る痛み。僕に残された手段がほとんど無いとはいえ、ハッキング無しで電力叩き込むのはゴリ押しの無謀。バッテリー両手に握って敵へ通電させるような物だ。


「それが秘策か?」

「……舐め腐っていた人間に一本取られてるけど?」


 焼けた両腕は既に動かない。

 空気という絶縁体を貫く電力を直接放つには、腕という代償を払わなければならないのは知っていた。それでも、この時間で作れるものは他に無い……。


「たった一体を潰した所で、私が終わるとでも?」

「……何で、()()()()()()()()()()()()()?」

「……何?」

「余裕そうな言葉だけど、僕の事を見ているなら――」


 一時期の油断。腕を無くした罠使いに、残された手段が無いと思い込んでいる。


「――何考えているのか、想像出来るだろ?」


 なので、この手段は思いつかない。

 上から精製した水が、雨のように流れ……全員を濡らす。


「――お前、自らを巻き込む気か!?」

「お前に対抗する手段は、これしか思いつかないんでね!」


 そして、既に動かずダランと垂れ下がった両腕は……再度電撃を纏い――


「言っただろ、プライドを砕くって――」


 雷鳴が全員の身体に走った――




「……ぐぁっ!」


 ……相手は全員倒れ、中に絶縁体仕込んでいた僕は、何度も雷撃を受けながらも立ち続けられている。それでも、傷は深い……。両腕は焼きつき、感覚は既に無い。胸元を掠めた槍は、避けたとはいえ肉は少し抉れている。


「……まさか、ここまでやるとは」


 それでも、本体である老体は倒せていない。


「……プライド、砕けたか?」

「そうだな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして、再度湧き出る素体。しかも、それは今まで倒した素体とはまるで別の……服や装備を着込んだ六体の素体。


「下らないプライドは捨て去るべきだったな」

「やっぱり、そうなるよねぇ」


 ……何となく分かっていた。素体にこだわる割には、違法パーツも何もない六体。だから、裏に本命が隠されているとは思った。


「……もう一度だけ聞こう。お前の事を認める、だから……私の下へ来い」

「……断る。味方を投げ捨てる奴に下る心は無い」


 記録、六体か……。まぁ、この間にきっと――


「だから、分からん。何故だ……何故、お前はそこまでやる?」

「そこまで? 何の事だ?」

「……その武装も、その眼も、その思考も、全て――殺せば済むと言う発想にならんのか?」


 ――下らない。そんな事を聞くのか……。


「……ヒーローが、人を殺すのか?」

「ヒーロー?」

「あぁそうだ。それに、お前を倒すのは俺じゃない、兎川だ。こういう戦隊モノには、成長がつき物だろ?」

「……聞いた私が馬鹿だったよ」


 もう動けない僕に向けて、大剣の男から振り下ろされる斬撃。


「――意思って言ったろ?」

「な――」


 それを、()()が防ぐ。


「……意思って言うのは、引き継がれるものだよ?」


 ――そう言葉を放つ男の背中は少しだけ大きく、安心感を覚えた。


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