Case.42『六対一』
「……君の行動、見ていたよ」
開口一番、監視していた事実を告げる男。そして、座りっぱなしで少し埃被った部屋は……一歩も動いていない真実を意味した。自身の息子が刺されても、門下生である人が爆破されそうになっても、コイツは――
「だから、何だ?」
「単刀直入に言おう。君は――私の下に就くつもりは無いかい?」
『烏兎流』への勧誘……正直、そんな気はしていた。だけど、
「味方に爆弾括り付けて投げ飛ばす上司に、僕はつきたくないな」
「ほう?」
「平気な顔して味方切り捨てた現場を見せた後に勧誘は……三流が過ぎないか?」
「……なら、お前を斬り伏せるだけだ」
僕の言葉を聞いているようで全く聞いていない。何と言うか、自身の結果前提で話す……始めから思い通りになると思っている、典型的な力という物で祀られた……上で腐ったタイプだ。
「斬り伏せる……その身体で?」
だが、老人の身体は既に限界のように見える。高そうな毛皮のコートから覗かせる四肢は、服の上からでも分かる程に衰弱していた。
そして、椅子のそばにある点滴。おそらくこの男は……まともに身体を動かす事が出来ないはずだ。
「この身体で戦うとは一言も言っていないがな?」
そんな男が指を鳴らすと、待ってましたかと言わんばかりの人間が下から生えてきた。
「……代用品、ね」
意識が無く目を瞑る、下から生えてきた男。同時に背後の老体が少し引っ込み、椅子が変形していく。
それは……何とも言えないカプセルの筒となり、老体の全身が包み込まれた。
「……随分とまぁ、分かりやすい弱点な事で」
「――一人だけならそうだろうな」
続けて生えてくる人間、その合計は六人。全員が目を瞑り、まるで死んでいるように黙り込んだまま動かない。表情も、性別も、筋肉のつき方も違う六人。
……ようやく、兎川を狙った理由が理解出来た。
「――前言撤回するわ」
「ほう? 何をどう撤回するんだ? 土下座でもしてみせるか――」
「クソ野郎って部分だ。お前は、クソ野郎じゃない、クソ以下の最低野郎だ……!」
筋肉のつき方が見えた時点で察するべきだった。全裸の六人、こいつらは――老体のスペア候補だ。門下生から拾い、才能だけで剪定した……人間を道具としか思っていない、最低の人間だ。
「全く、良い素体は威勢が良い。いるのは身体だけだ、お前には退場してもらおうか」
言葉と共に目覚める六人の素体。
「最後に聞くが、あんた……人間を何だと思ってるんだ」
「意思という下らない物を引っ提げた駒だ」
既に素体へ意識を移したのか、中央にいるスキンヘッドの男が老体のように答える。
「……自己中サイコパステストなら満点の答えだな。意思を下らないと言うお前の首元に引っ提げたプライドって物、砕いてやる」
「私の思考を理解出来ない……残念だ。死を持って教えてやろう――!」
六人はそれぞれ、手元に握られた武器の構えを取る。居合い、大剣、槍、無手、短刀、大槌の六つ。居合いと大剣、そして大槌は何となく理解出来るが……それ以外は初見。
槍は上段の構えかつ典型的な槍術に該当しやすい為に予測しやすいが……問題は無手と短刀だ。
「――ほう、これも避けるか」
相手はまだ動作確認のように、大剣持ちを動かし一つ一つの技を噛み締めている……切ると言うより確かめる感覚だ。
それでも技の速度と繋ぎは……化け物だ。複数の技の組み合わせが一つの技のように流れ、キレも速度も他の誰より早い。これでまだ動作確認なのが少し恐ろしいな……。
なので、今のうちに色々と分析しないと――初見技で死ぬ。
「――これも躱すか! やはり、良い素体は違う!」
おおよそ本気のほの字すら出していない……本人にとっては児戯レベル。それですら耐えられず、何人もの奴を屠ってきたのだろう。一つ技を躱せば、目の前の男は歓喜の声を上げる。
「……よし」
何とか相手が舐め腐っている間に、筋肉のつき方や俊敏さ加減で調整は出来た。仕込みも大丈夫、後は――
「――下の者が気になるか?」
「っ!?」
心を読むかのように呟かれる言葉。
「お前が本気を出していないのも、何かを考えて動くのも知っている。行動は見たからな?」
即座に走る悪寒。目付きは本気かつ、心臓を握られたかのように殺意が空間に染み込んでいく。
「――では、そろそろ準備体操を終えようか」
相手の手元から空気が弾け、耳元を掠める一撃。反応すら許さない槍は、背後にある扉に音もなく穴を穿ち……新たに手元へ精製される。
「……準備体操が足りなかったようだ。頭を吹き飛ばしてしまえば、素体としての価値が無くなる。心臓を的確に狙ったはずなのだがな?」
体も、頭も、心も、全力で赤信号を灯す。この男と戦うには早いと、全力が逃走を促している。でも、
「……生憎、まだ逃げられない」
冷や汗と鳥肌で震える身体へ鞭を打ち、構える。明らかに格上で違法パーツではない、身体能力だけであらゆる違法を凌駕する……正真正銘の化け物が、目の前に立ち塞がっている。
「ほう、逃げないか……お前の慧眼なら、この実力差を理解出来ているはずだが?」
「理解した上で、譲れない物がある」
「……つまらんな。お前もまた、意思と言うか」
……今のうちに考えろ、仕込みを生かせ。今はまだ死ねないが、今消えたらコイツは兎川へ向かう。そうなれば……確実に兎川はこの素体の仲間入りだろう。それだけは――させない。
「あぁ、何度も言ってやる。自分以外の意思を蔑ろにするプライドは、僕が壊してやるよ」
ハッタリも嘘も効かないだろうが、一瞬だけなら――あの男を超えてやる。




