Case.39『中断』
一時休戦の談義が進む中、全くと言っていいほど動かない二人。時間が停止したかのような空間、それでもラビットの足元に広がる赤だけは……この息詰まる部屋が正常だと告げている。
「……動かすか」
お互いに全力。だからこそ、踏み込むきっかけが無ければ――絶対に動かない。なので、今からそれを作る。まぁ、隣の人間が許してくれるかは別の話だが。
「何をしている!?」
「この睨み合いも飽きてきたろ? だから、おまじない――」
掃除用品のワゴンから取り出す箒。それを、睨み合う二人の中心へ投げる。
回転しながら飛ぶ箒が地面に触れ、コツンと音を出した瞬間に動き出す二人。
そして、箒が倒れる頃にはもう……勝負は終わっていた。
「……何故だ――」
目に追える限り、勝ったのは――ラビット。だが最後の最後で峰に変え、結局は刀を折った上で相手を気絶させた。
「殺すなって、上から言われてますからね」
激しく動いた結果、ラビットは血を吐き出して倒れる。
「ラビット!」
「大丈夫です……今から止血を最大限にしますから……」
すると『スーツ』が引き締まり、傷口を盛る形で止血。……そんな機能入ってるなんて、知らなかったが。
「それで……キングは何で眺めてたんですか?」
「話聞いてなかったのか……まぁ、お前ら待ちだった事だけは確かだ」
「そう……ですか……」
だが、止血するには少し遅かった事もあり……ラビットはフラフラだ。
「んじゃ、選手交代って事で――」
「あぁ……そういう事でしたか……」
本音の休戦理由。電力という強さの根幹が無い以上、ラビットから借りようと思っていた。まぁ、ラビットはあまり『オーグメンテッド・マテリアル』を使わないので、持ち運んでる電力が最も少ないが……無いよりマシだ。
「……終わったか?」
「わざわざ待つなんて、律儀だねぇ」
「変身中に襲う怪人なんていないだろ?」
「悪役の自覚あり……良い役者になれるぞ」
「お前がヒーローと名乗ったからな。こういうノリには付き合うぞ? 勝利までは、渡さないがな」
ラビットは無事に相手を倒した。今度は……俺の番。
「……まぁ、これくらいあれば良いか」
「何の計算だ?」
「鉄パイプ筋肉野郎を倒す計算だ」
「……その数式、叩き壊してやるよ!」
そして、何度目か分からない戦闘が始ま――
『ストーップ! 両者ストーップ!』
――らず、突然無線から放たれる大声によって中断された。
「……そっちは終わったんですか?」
『終わったよ。キングが待てって言ったからね。予想通り――余計な事を喋らせないように、暗殺部隊みたいなのが来た』
やっぱり……嫌な予感は当たる物だ。
「おいお前! 暗殺部隊って――」
『とりあえずこっちは終わったよ。自殺させないように気絶も終えた』
「何を言って――」
「やっぱり、あんたらは知らなかったんだな」
ずっと違和感を覚えていた血痕。小さな跡だったとはいえ、ビルから地下へ止まっていないのだ。戦闘からどれだけの時間が掛かったかは知らない、だけど……小さな傷なら止血されるはずだ。それが無いって事は、同時にある点が浮かぶ。
それは、ラビットの怪我。血が続くって事は止血が出来ていない……つまりは、大怪我という事になる。だが……ラビットが腹部を刺された後に倒れている。……逆を言えば、それまで平然としていたんだ。
「……いい加減に教えてくれ。何が起こっている?」
「……俺らはまんまと誘導されたって事だ」
ラビットが平然と動けていた、それは……大怪我への否定に繋がる。だが、そうなれば血痕という矛盾が生まれてしまう。
「は? どういう事だ?」
「俺が勝とうが、ラビットが勝とうが、お前らが勝とうが関係ない。消耗が目的だとしたら……所謂、漁夫の利って奴さ」
初めは、この二人のどちらかが黒幕だと思っていた。だから、こんな無茶して乗り込んだんだけど……本当はもっと別にいる。
『今から急いでそっちへ向かう! だから――死ぬなよ』
無線は大急ぎのブレイブの声で切れた。
「……だってさ?」
「……これを予期していたのか?」
「半分はね? もう半分は、お前らが黒幕って可能性だったんだけど……聞く必要無いだろ?」
二つの可能性。ラビット敵対かお荷物かの先……準備はしているが、正直原始的過ぎて、起動するか心配だ。
「最後に聞くけど、何でここを選んだ?」
この事件が完全に仕組まれた物なのは分かったが、なら何故まわりくどい手段を取ったのかだけ分からない。
「……ここに連れてこいと言われた。相手は知らない」
「……分かった」
……ようやく分かった、事件の黒幕。確か――
「このビルは、よく使うのか?」
「――あぁ、よく使う。特に……こういった時にはな」
ここのビル、チラホラ見えた会社員。……それが全員敵だ。
「鉄パイプ! 死にたくないなら、この二人を守ってくれないか?」
「……お前はどうする?」
「兎川の父親をブン殴る!」
地下の次は上――目的地は、社長室だ。




