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Case.03『臼田家殺人未遂事件』

「……気持ち悪い……」


 短時間で現場に到着したが、地面の感覚があまり無い。フワフワと宙に浮いたような状態と、胃が締め上がるような気持ち悪さ。……やっぱり『嘔吐ロード』は苦手だ。


「日尾野警部補! お疲れ様で――」


 おぼつかない足取りのまま現場の家へ足を踏み入れると、既にある程度の現場保存が完了し鑑識が撤収している最中だった。


「長通さん!? 大丈夫ですか!?」

「大丈夫――うぇ……」


 僕の事を心配するこの男性、来栖 辰一(くるす しんいち)は唯一ARに精通する鑑識係。僕がよく現場へ赴く際に、鑑識として呼ばれている。送られた情報を解析する他のAR鑑識とは違い彼は現場主義なので、ARに精通しながらも現場に赴く。唯一と呼ばれる点はそこだ。


「日尾野警部補? また、飛ばされたんですか?」

「ほんの少しだけ、ね?」

「……全く、長通さん。これを」


 渡されたのは良く冷やされた水、それを少し口に含みながら壁にもたれ掛かる。


「兎川君と神白君は?」

「私はこちらにいますよ、警部補」


 僕が休憩している傍ら、日尾野は神白と合流し現場の報告。


「まず、第一発見者の『臼田 百合江(うすだ ゆりえ)』さんですが、彼女の証言によると『大きな物音がしたから何事かと思い、外を見たら腕を切られていた旦那がいた』だそうです」

「時間は?」

「犯行時刻は丁度午後1時。被害者の網膜に貼ってある『コンダクター』の映像では、犯人の姿が映し出されてます」


 コンダクター……ARの技術を安価にした、大発明の一つ。今までARを用いた映像を見る為には、特殊なカメラが必要だった。それが小型化され始め、常在で映像を見る為に進化していった。コンダクターはコンタクトレンズのように網膜へ貼り付ける事で、ARの世界へ入れる安価かつ複雑な手術を必要としない現在の技術の到達点だ。


「そして、こちらは送られてきた……被害者が倒れるまでの映像です。各種いつもの場所に映し出しますね」

「――これは」


 手の平に映し出される、被害者が倒れるまでの映像。そこには仮面のような物で顔を隠し、フードで髪を隠した人物の姿が写されていた。コンダクターはドライブレコーダーのように、寸前の記録を残し続けている。ただ、それが永続だと記憶媒体がパンクしてしまうので、大体1分前後の記録を取っては破棄するを繰り返す。

 問題の映像は刺された後も続き、地面に突っ伏せた後……綺麗なカーテンが写る窓ガラスを最後に暗くなった。


「……来栖さん、水ありがとう。……それで、被害者の身長は?」

「いえいえ、どういたしまして。176.3cmです」

「そうなると、仮面を真正面で捉えられているから……」

「大体同身長の線が高い……ですか」


 刺された瞬間、仮面は同じ身長で――逃げ出すまで身長が低いという点は無かった。つまり、身長を偽装する線も無し。


「絞られた被疑者は三名。一人目『川勝 悟(かわかつ さとる)』は隣の住人の男で、大きな音を聞いていたそうです。身長は被害者とほとんど変わらず、事件当時も目撃者はいません」


 事件現場を確認していると、家の門を潜った最後の一人が現れ被疑者の情報を喋る。兎川 剣汰(とがわ けんた)、現在学生でセブンヴィランズの同僚。成績も優秀で、学業と警察の両方の切り替えも素早い。ただ――


「兎川、聞き込み終わりか?」

「……無能な長通とは違うので」


 物凄く口が悪い。それ以外は実際優秀で、自分のミスなら素直に謝罪、そして英才教育なのか基礎知識も豊富、礼儀も良いと優秀すぎる完璧人間。この余計な一言で心を突き刺してこなければ、だけど。


「うっせ。それで兎川、残りの被疑者は?」

「……二人目『一戸 七実(いちのへ ななみ)』は被害者のいた会社で部下の女性。被害者とはプライベートな相談もする関係で、会社の同僚からは不倫疑惑が持ち上がっていたりしていますが、本人は否認しています。彼女の身長は低めで、目線の話になると外れてしまいますが……丁度昨日に喧嘩をしていたと目撃情報がありますので、被疑者候補です」

「喧嘩……それが不倫疑惑と合わさると、痴情のもつれ……動機は十分だな兎川」


 片方は動機十分だが身長が足りない。もう片方は動機が分からない。最後の被疑者を聞かないと分からないが、今の所……この二人は白に見える。


「三人目は『水端 莉子(みずばた りこ)』……被害者の元妻です。身長も女性にしては高く、被害者と同じぐらいですね。どうやら交際後も会っていたそうで、一戸と喧嘩別れをした後に出会っていたそうです。その後はカフェで話し合いをしていたようですが、会話は不明。本人によれば『昔話をしていただけ』だそうです。事件当日は共通の友人と食事を楽しんでいたそうで、言質も取っております」

「……今度は、アリバイ有り……」


 最後の人物はアリバイがある。……中々、絞りきれそうにない。


「……うーん?」

「日尾野警部補? どうかしましたか?」

「あーいや、神白君……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「えーっと、2階に洗濯物を干している最中だったらしいので、窓から覗いたようで――あれ?」

「え……それっておかしくないですか?」

「そうだね、長通君。君の疑問は正しいよ」


 納得したかのように日尾野は歩き出す。まぁ、もう既に全員気付いているようだけど。


「奥さんに聞き込みをし直すぞ。多分――何か隠してる」

「そうですね日尾野警部補。映像との差異を問い詰めないと」

「長通! お前が見つけたみたいに言ってるけど、あの映像が来たのは、あんたらが来た後だ。あの映像があったら僕だって気付いてたからな!」

「そんな競わなくても……同じ班なのに……」

「神白君……ライバルってああいう物なんだよ」

「「ライバルじゃない!」」


 仲違いのような喧嘩をしながら、家の中に入る。……被害者の奥さんで第一発見者『臼田 百合江』の元へ。

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