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Case.38『烏兎流』

 飛び交う無数の斬撃――瞬間的に弾ける鉄の火花は、両者が本気になった証だ。


「……お前は、加勢しないんだな?」

「俺は、あんたを危険因子と見た。放置すれば、こちらが確実に敗北するよう立ち回る指揮官……それがあんただろ?」


 想定外の評価。まさか、ここまで高い評価を鉄パイプマンから受けているなんて……()()()()()()()。嘗めてかかられた方が都合良いんだけどなぁ……。


「いやぁ、褒めても何も出ないぞ?」

「あからさまな油断に乗るほど、俺も馬鹿じゃない。……慎重に詰めてやる」


 困った。結構――いや、相当困った。ジリジリと詰めてくるすり足に、どんな動きすら見逃さない目線。地力もばっちりなご様子で、もう隠しすらしない『烏兎流』の構え。こういう時は罠で距離を取りたいが、電力は無いし……仕方ない。


()()()()()()か……」


 問われるのは、()()()。油断をしないのなら、油断を促す。……それまでに、何本持っていかれるだろうか、骨。




 太刀筋は鋭さを増し、隠すのを辞めた事であらゆるステータスが向上している。……振ってるの鉄パイプだけど。


「――クソ! 当たらない!」


 だが『烏兎流』の技はある程度知っている……と言うより、隣で同じ技を使う奴がいる。ラビットはこちらを軽く見て、これから鉄パイプが使うであろう技を俺の目視出来る範囲で放ち、それを一発勝負で目の前の人間へトレースして頭にインプット。

 後は身長と振りの速度から大体の位置を予測して、己の出来る限界の身体能力で躱せる範囲に留まり、タイミングさえ伺えば躱せる。


「何故だ!」


 だが、これも長くは続かない。ラビットの読み違い、トレース、そこからの予測、タイミング……そのどこか一つでも掛け違いを起こせば、俺はあの全力の鈍器を貰う。『スーツ』は防御に寄せてない以上、完璧な受身を取れてギリギリ一撃……それ以上は持たない。だけど――


「硬い! 何だその筋肉スーツ!」


 その為には、銃弾すら通さないあの男のスーツを攻略する必要がある。今の所、スタンガンも実弾も効かない。服で隠されているので、実際にダメージを受けているのかすら分からない状態だ。


「じゃあ――」


 振りの隙間へ潜り込み、足払い。だが――


「……効かないな」

「ですよねぇ!」


 バランス崩して倒れるかと思ったけど、平然としていた。……まぁ当然なんだけど、微かな希望にも縋りたい心持ちだ。


「……こんな事なら、合気道でも習っておけば良かった」

「ほう? 習う時間があると?」


 攻撃が効かず、絡め手も技術も無い。そうなると、残された手段は……ラビットの救援。だが、見た感じお互いの装備を不本意ながら交換した上で……押されているのは、今吹き飛ばされたラビットの方だ。


「――『烏兎流』……当主の息子だか知らないが、途中で逃げ出したお前より上だ」

「逃げ出したんじゃない! 逃げ出したんじゃ――」

「その中途半端な『烏兎流』がそうだろうが!」


 獲物を選ばない男の一撃。峰打ち何かとは違う、明らかに殺意ある突きは――ラビットの腹部を刺し穿つ。


「ラビット!」

「通さない」

「クソッ――」


 何とか救援へ行こうにも、放っておけば勝ちになると悟った鈍器男が、壁として立ち塞がる。ハンドガンの弾も撃ち返されるし……割と洒落にならなくなってきた。


「……キング。手伝いはいらない」


 かっこいい台詞だが……腹を刺され、蹴り飛ばされた後に言う物ではない。それは、ただの強がりだ。


「手伝いがいらない……この実力差が分からないのか?」

「言ったでしょう。『烏兎流』の全てを見せるって」


 口から血を流しながらも立ち上がり、ラビットは刀を構える。


「全て……お前が全てを語るのか? 何もかもが中途半端なお前が?」

「……御託はいい。さっさと構えろ」


 ――雰囲気が変わった。


「何だその構えは」

「だから言っただろう。御託はいい」


 構えも違う。上段でも下段でも無い、中段の構え。


「……おい、そこの鈍器マン!」

「鈍器マンというあだ名は少し不快だが、何だ?」

「少し、休戦だ。アレを見届けた後でも良いだろ?」


 本当は、相手を止める手段が無い状態なのを隠す為の提案。こちらを脅威として感じているなら、考えているはずだ――この提案による、奥の手を。


「……それに乗る利点は?」

「さぁ? 俺が何考えているのか、察する事が出来たなら……提案に乗る利点が見つかるかもな?」


 ここからは、嘘だけで相手を納得させる技がいる。


「お前に手は残されていないはずだが?」

「見せてないだけの間違いだろ?」

「ほう……」


 ()()()。今までからずっと余裕が無いのを隠して、遊べるだけの余力を見せつけて来た。

 本当はもうちょっと余裕な感じを出し続けて、相手へ疑心が生まれ始めてから動きたかったが……ラビットが本当に危ない今、リスクはある程度覚悟の上。


「別にやり合っても構わないが、巻き込まれるアッチも考えものだな?」

「……ふむ」


 ここはあえて、ワザと情報を出す。そうすれば、深読みを支える。今渡した巻き込むという情報から、相手は範囲攻撃を想定したはずだ。

 そして、違法パーツの電力不足もあえて出した情報の一つ。つまり、鈍器男は――


「……毒、か」

「さぁ? もっと危ない物かもしれないかもよ? ()()()()()()()()()()()()()()()


 現状だけで範囲攻撃が出来る手段を模索するはずだ。そうなれば、必然的にとある場所へ視線が向く。……それは、()()()()。ここを塞ぐ際に借りたであろう、清掃員が使うワゴン。そこには、色々と悪い使い方が出来る品物がある。

 正直何も仕込んでいないので、何を使って何を起こすのかという過程はいらない。それを向こうがリスクと考えるか否かだ。


「……分かった。ここを爆破されても困るからな。だが――」

「分かってるよ、俺も手を出さない」


 どうやら、嘘は通ったようだ。後は――ラビットの勝負を見守るだけ。ここからは、アイツの問題だ。

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