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Case.37『庇い合う』

 鈍器男の連打は鋭く、鉄パイプの振りに容赦が一切ない。一応躱す事は可能だが、それで手一杯になり一歩を踏み出せずにいる。


「こんな物騒な奴と知り合いだったなんてな!」

「うるさい! 僕はどっちも知りませんし後入りです!」


 だが、相手も相手で俺の銃を警戒し、思った以上の踏み込みは無い。……そして、振り方がラビットと同じ。これは、明らかに同門だ。


「遅い――」


 後方は後方で、お互いの剣がぶつかり合う音で満たされていく。そして、僅かながらの隙を突けたのか――ラビットが背中合わせから動いた。


「させるか!」


 すると目の前の男は手に持った鈍器を投げ、今まで来なかった俺に対して一歩踏み込んで来る。それだけ、背後の人間が大事とみた。そして、ラビットと似た構えなら……弟子か。まぁ、それよりも先に突っ込んでくる男の対処が先。

 今まで無意識感覚でやってたけど、改めて一つ一つ凝視。瞬間、動きがスローモーションになっていく――。


 男の左手は何も持っていない。だが、手首がほんの少し内側に向いて……中指を袖の中へ入れようとする動き。

 武器の長さは、今までの動きにぎこちなさは感じなかった所を見ると、肘まで伸びている訳ではない。つまり、ナイフが妥当。

 次に右手。コートで手元を隠しているが、腕の長さと方向から……手があるのは、左腰のベルト辺りか。あそこに隠された武器……は多そうだし、絞らずに腕をみて決めよう。


 同時期に飛んでくるのは鉄パイプ。錆でボロボロの棒だ。あの場で拾ったような見た目の鈍器は、流石に武器とは思えない。拾い物だし、弾く程度で良いか。本命の違法パーツは、多分暗器だと思うし。

 足元の踏み込みは右。暗器の場所は左手首と左腰で、左足を前に踏み込むのは少し妙だ。考えられる可能性は――


「これをどう避ける――」


 左手から現れたナイフ。それは確実に命を狙う……とは思えない、胴体への大きな横振り。これ単体だと問題は無いが、同時に飛んでくる鈍器が厄介だ。

 一歩下がれば相手の思惑通り、更に一歩踏み込んだ後の一撃が飛んでくる。射程も威力も分からない上に、最悪ラビットにも被害が行く。

 逆に一歩踏み込んだとして、その後この男との力勝負に勝てるとは思えない。

 それに、踏み込めば鈍器を止める手段が無くなる。目視せずに背後を撃つのは良いが、ラビットがいなければの話。味方いる中で目隠しして銃撃つのは流石に馬鹿が過ぎる。なら――


「下に避けつつ――鈍器撃ち!」


 ナイフを潜るように足を畳み、同時に右上へ飛ぶ鉄パイプに狙いを定め――放つ。


「後は――」


 鈍器のその後よりも先に、この先を見ろ。相手の踏み込みは半歩ほど足りない。なのでベルトにある何かも威力は出ないはず。

 後は新しく現れる選択肢……今まさに男が行動を起こしている、俺への蹴りをどう受けるかが問題だ――


「――っつぅ!」


 強烈な一撃。ギリギリで間に合った両手が痺れ、ショットガンが少し曲がる。アイツ……鈍器の時もそうだが、筋力が異常過ぎる。コンクリートを何度もぶん殴り、頑丈そうなケヤキのテーブルを叩き壊してなお痛そうな表情を見せず……何も感じていない。


「化け物揃いかよ……!」


 だが、とりあえず向こうを止める因子は潰した。これで――いや、違う!。


「今更気付いたか!」


 コイツの違法パーツは暗器ではなく、あの鉄パイプだ。ボロそうな見た目と錆で、適当に拾った物を使っていると思ったが……それなら、()()()()()()()()()()()。暗器という別武器を握っていた状態で、後生大事に持って来る訳が無いんだ――


「ラビット! それ躱せ!」


 完全に見落としていた違和感。ラビットへ飛んでいくそれは、銃弾を受けたとは思わない程にブレも無く真っ直ぐに飛ぶ。


「そんな物、弾けば――」


 だが、そんな事前情報を知らないラビットは、自らの剣で鉄パイプを弾こうと腕を振るう。


「馬鹿! それは相手の思う壺――」

「重っ!?」


 当然、受け止めた瞬間に鈍すぎる音が響く。そして、重さに耐えきれずに手放された大剣は……けたたましい音と共に地面へ叩きつけられた。


「――取った!」


 武装が無くなるラビットの首元へ、鋭く光る刀。振り抜かれたそれは、ラビットの皮一枚だけを切り――少しだけ赤い物が滴り落ちる。


「ギリギリ!」


 そのまま後方へ飛び、一度距離を取ろうとするラビット。……でも、()()()()()()は――


「キング!」


 丸腰のラビットがこちらへのアイコンタクトを取る。……全く、今()()()()()()()()、世話が焼ける。


「――ハッキング」


 少ない電力では、ハッキングは出来ない……という訳ではない。瞬間的にデータを大量に通信するなんて、人体で行えば脳が死ぬからだ。

 だからこそ、持続的に繋ぎ続ける為の電力と、最初に繋ぐ為の電力が必要……。でも、逆に言えば――それを省略すれば燃費は少ない。


「一瞬だけ、炎!」


 持続させる訳じゃない、一瞬の目眩し。同じ部屋で一瞬だけ、そして()()()()()なら――今の電力でも可能。

 ラビットの違法パーツの構造は知らないが、規格が同じという事はある程度型番は同じ。


「今だ!」


 タイミングはバッチリ。瞬間的に出た炎は想定外の動揺を誘い、二人の時だけが一瞬止まった。

 その一瞬があれば、相手の刀を奪い取れる。


「……まぁ、これで完全に電力切れたけどな!」

「ドヤ顔でピンチを伝えないで下さい!」


 相手の刀を奪い取り、距離を空ける……と言っても、ピンチなのは変わらない。むしろ、悪化したと言った方が良い。

 あの蹴りで俺のショットガンはヒビが入り、銃身は少し曲がった。これだと暴発でこちらが死ぬ可能性が高く、実質使用不可だ。俺に残されたのはハンドガンだけ、電力も失った。

 ラビットもラビットで、本来の獲物とは違う武器。そして、怪我。どこまで動けるかは未だに不明だが、あの痕跡が残る程の出血は……そろそろ危ない時間帯だ。


 怪我の場所は隠され、表面上では無傷な所を見ると、一応処置はされたようだ。会話の限り、殺すとは思えない。……あの、元刀野郎は大分殺すつもりで刀を振るってそうだが。


「キング……冷静に教えてください。今の状況は?」

「……大ピンチぐらいだな」


 ここまでこちらが消耗してなお、鉄パイプ男の全てを見ていないのが最大の懸念材料だ。今の所、筋力異常と鉄パイプが重いぐらいしか分かっていない。でも、


「まぁ、ここから勝つのが――」

「ヒーロー。って言いたいんですか?」

「そういう事。行けるか、ラビット?」

「……『烏兎流』の全てを見せてあげます」


 諦めない。ここから、第二ラウンドだ。

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