Case.32『暗黙のルール』
道路を滑りながら一軒家へ突っ込む装甲車。衝突によって火を吹き始めたそれは『オーグメンテッド・マテリアル』が剥がれた事によって、普通の車へと姿を戻していく。
「アハハハハ!」
それでも銃座から引っこ抜いたガトリングを抱え、こちら側へ射撃を繰り返す違法パーツ所持者の女。
「遅かったね、京君」
だが巨大な盾によって阻まれ、一つも通す事を許されない弾丸。止めている本人は事も無げにこちらへ振り向いている。……一応殺傷用の銃弾だから、結構腕に来るはずなんだけどなぁ。
「あれ、珍しい人が乗ってる」
「あんな狙撃する奴一人しかいないだろ兎川……」
「ニュース見て現場に向かったら、丁度転がってるパトカーがあってね? 乗っけてもらったのよ」
汐華をマジマジと見ながら話す兎川。ここの二人に因縁は何も無いが、まぁ僕もこの人の顔見るのは久しぶりなので気持ちは少し分かる。
「……それで、何が目的?」
「一応、ここの班所属なんだけど?」
「違う。貴方が急に顔を出した目的、それは何?」
「何だって良いでしょ? 遠谷警部ならともかく、悠奈に何か言われる筋合いは無いわ」
お互いに下で呼び合っているのは、過去の名残。昔は姉妹のように仲が良かったものの、今じゃ顔を合わせるだけでこれだ。
「二人とも喧嘩は後だ。そろそろ、向こうも動き出す」
そんな喧嘩を日尾野が仲裁し、視線を犯罪者へ向けさせる。銃弾の音はいつの間にか無くなり、大人しくなる盾の向こう側。各々は既に準備完了のようで、僕も――準備完了を告げるようにヘルメットを被った。
「――来るよ」
同時に聞こえる、小さな爆発音と――巨大な風。僕達の車を吹き飛ばした物と同一の……シャボン玉。
「……やってくれたな」
「警察だ、お前達を逮捕する。抵抗するなら――怪我ぐらいはして貰うんだけど」
瞬時に小さく格納された盾によって、ブレイブへの被害は無い。だが、盾で塞がれていた犯罪者達の面が見える。人数は五人、俺達と同じ……という事は、
「さて、誰が誰をやる?」
「俺は余り物で良いぞ、ブレイブ」
「私も」
「同じく」
「……決めてくれないと困るなぁ」
「じゃあ俺は、剣を防いだ右端の刀持ち」
セブンヴィランズ内であるルール。人数が同数なら一人一逮捕。……作戦とかで別行動をして大体破綻する、形しか残ってないルールだが……たまにあるこういう時は便利なので残している決まりだ。
「『セブンヴィランズ』の『ラビット』ってのはお前か」
「有名人になったつもりは無いけど」
「お前に実践を教えてやるよ、ゲーム上とは違うってなぁ!」
……どうやらラビットの示した相手も、ラビットへ恨みがあるらしい。詳しい事情は全く知らないけど。
「……じゃあ、私はあの頭トリガーハッピーを拾おうか」
「良いねぇ! 弾は数なんだよ、アハハ!」
汐華――ゼロはガトリングを抱えた女を、
「僕は、そこの運転手で良いかな」
「余り物扱いはムカつくなぁ……」
ブレイブは、装甲車の運転手らしき男。
「シャボン玉野郎はキングだから、私は残りを貰うわ?」
「勝手に決めるのな、ホワイト……」
「……女か」
ホワイトは、コートで身を包んだ正体不明の大柄を拾う。
「……俺の相手はアイツか」
そして、俺の相手は――シャボン玉を出していた謎の男。仮面を付けて顔は分からず、コートで身を隠した背丈は小柄なのか大柄なのか分かりづらい。やたらと猫背過ぎるせいでぱっと見一番身長が小さそうだが、背を伸ばせば……普通ぐらいか?。
「とりあえず……速攻!」
左手に握られたハンドガンを、とりあえず顔面へ一発。動きを読もうにも、相手が正体不明過ぎるので分かりづらい。顔面への弾丸で沈み、そのまま逮捕出来たなら御の字。それが無くても、せめて何かの動きでもあれば良いが……。
「……!」
弾丸が眉間へ入る直前、文字通り水玉が包み込み止める。ノーモーションで発動したそれが弾丸を止めると、紐が切れたかのように落下し床で弾けた。
筋肉も何も動かない行動は、先読みしようが無い……これは相性的に、ハズレを引いてそうだ。
「――甘いねぇ」
「うわっ喋った」
突如として口を開く声質は、声変わりすら起こしていない子供のようで……身長と合っていない。
「『セブンヴィランズ』ってそんな物なの?」
「さぁ? 俺は別に名前で売ってる訳じゃないし」
子供の声色で放たれる言葉……なるほど。興味本位で戦いたかった、自分が強いと思い込んでる子供タイプか。
「……ここまで雑魚とは思わなかったよ」
「あー……手加減を本気と勘違いする可哀想なタイプだ、君は」
「は?」
このタイプは煽れば煽るだけすぐに手の内を見せてくれる、精神的には楽なタイプだ。……あのシャボン玉の謎が全く解けないというのを抜きにすれば、だけど。
「言葉通りの意味だよ、少年?」
「雑魚が粋がるな!」
すぐに顔を真っ赤にして放たれる、例の攻撃。とりあえず、一撃は受ける前提で――
「一発で殺してやるよ!」
前回の二回では聞かなかった、モーターの駆動音が聞こえ出す。……一撃、耐えられるかな。急いで準備しないと。
「消し飛べぇ!」
瞬きした瞬間に一瞬の浮遊感、その後に背中から走る痛み。どうやら、瞬間的に直線上の建物へぶつけられたようだ。まぁ、シャボン玉で想定していたいくつかの仕込みが上手くいって、今回は打撲程度で済んだが……これ準備無しで受けたら死ぬな。
「ハ、ハハ! 結局まともに受けただけじゃないか!」
遠くから聞こえる笑い声。でも、身体で受け切った事で色々分かった。後は、
「……人間の身体は案外頑丈な物だよ」
「無傷……!?」
「内臓はすぐに死ぬけどね?」
「何で――」
「さて、そろそろお仕置きの時間だ、少年。 科学には、同じ科学が丁度良い」
彼が起こした事の種明かしをするだけだ。




