Case.31『装甲車爆走事件』
規定速度を全く守らず走り回る、一台の車。上部に機関銃を備え、巨大な防弾タイヤがコンクリートを少し抉る重量。そして――
「アハハハハ!!」
上に乗ってるトリガーハッピー。無作為に乱射される銃弾は、周囲の建設物を削っていく。人は事前に避難、こういう突発的なテロ行為はたまに起きてしまうが故に学んだ、警察側の知識だ。
『そっちは大丈夫かい?』
「……こっちが狙われないように祈っておいてください……」
『珍しく自信無さげだね、京君?』
「ペーパーに自信なんてありませんよ!」
そんな町中を走る装甲車を前後に挟むよう――僕達の車も走り出した。
『そこの車! 止まりなさい!』
背後からは兎川、日尾野コンビ。兎川の機動力は車が無くても装甲車の速度を越せる点と、銃弾や暴れる装甲車が生み出す障害物の影響で後ろの方が操縦難易度が高くなる点でこうなった。
「――とりあえず、タイヤをパンクさせる」
逆に装甲車の前方を走るのは、僕と神白の車。罠という障害物を前から撒いて動きを止められる点と、運転技術の点で僕達が装甲車の先。当然、
「邪魔だよ!」
銃弾の雨はこちら側へ向く。と言うより――
「馬鹿みたいに銃座乗っけてるな、あれ!」
前方用の銃座は無人の高火力が一門。当然口径は大きく、装甲車から閣下する薬莢だけで止まっている車のフロントガラスにヒビを入れる程、威力の高い物だ。
後方には銃架を取り付けた機関銃による、有人の銃座が一門。これは建物を抉る程の連射力を持つガトリングで、口径は小さいが威力は折り紙付き。つまり、どういう事かと言うと――
「アババババババ――」
「京は黙ってハンドル握る! 弾は止めておくから!」
「後ろから化け物みたいな銃撃音が聞こえる中でまともに走れるか!」
一撃で車程度は容易に貫通しうる弾丸を、音の振動で止める。それでも、音の層へぶつかり飛ぶ金属の破裂音は――中々洒落になったもんじゃない。
「そっちはどうなんですか!」
『いやぁこっちも――大変だ!』
僕自身後ろを見る余裕もなく、今背後がどうなっているのか分からない。だけど、そろそろ痺れを切らした兎川が――
『って、ちょっと兎川君!?』
『埒が開かない! だから、あの銃座だけを切る!』
背後から動きをはじめるはずだ。暫くすれば、この銃撃もきっと止む……はずだった。
『チィ! こいつら全員違法パーツ持ちかよ!』
「京! 危ない!」
中々止まない銃弾の雨に加えて――違法パーツ持ちの一撃によって、僕達の乗る車ごと視界が跳ね上がる。空中で回転し、落下して行く車内。
「――不味い、エアバック!」
何とか車外へ生成し、クッションのように車全てを包み込む。それによって車は無傷で着地できたが……。
「……くそ、離された」
弾かれたようにコースから外された車と装甲車の差は、当然作られてしまう。
『京君! 大丈夫かい!?』
「こっちは何とか……」
「こちらも怪我はありません」
『……兎川君も抵抗しているようだけど、僕じゃ届かない。遠距離手段も無い以上……一度追うのを諦めた方が――』
「乗せて、そこの車!」
日尾野の声を遮る女性の声。……この声は、
「汐華さん!?」
黒い長髪を一つに束ねて靡かせている彼女は、汐華 麗香。一応『セブンヴィランズ』の同期だけど、現在来ていない三名の内の一人だ。大方原因は左にいる灰色っぽい短髪の音楽家が原因なんだけど。
「話は後! 乗せ――長通君!?」
そして、僕の顔を見て驚いた表情。そのまま、
「なら話は早い! 乗せて!」
後部座席へ乗り込む汐華、前方にいる喧嘩相手にも気付かずに……。
「貴方が来てるって事は、あの装甲車ってやっぱり――」
『その声、汐華君かい?』
「日尾野警部補! どういう状況なの!?」
『兎川君が対応してるけど、装甲車から複数の違法パーツ所持者が確認された。近づけない上に距離を取れば銃座。京君の罠も防弾タイヤで防がれて、速度的に神白君の音も聞こえ辛い。僕は完全に戦力外状態、正直いって手詰まりだ』
タイヤを取れる程の威力を出す事は可能だが、そうなれば必然的に周囲への被害も出てしまう。こういったテロ行為に対しては、無茶しても大丈夫ではあるが……それでもやり過ぎは懲罰物だ。その上、ただでさえ上に怪しまれている人物が建物ぶっ壊したとなれば――存続すら危ぶまれる可能性もある。
「なるほど――長通君、運転は任せるけど……暫くはハンドルをあまり切らないでね?」
そう言うと後部座席からかなり身を乗り出し、窓枠に座るような姿勢で巨大な狙撃銃を構えだす。
「えーっと……距離遠すぎません?」
「大丈夫よ。……そのまま真っ直ぐお願い」
ゆったりと構える先に、確かに装甲車は存在している。だけど――吹き飛ばされた後なので、僕達から見える装甲車はかなり遠い。
「……見えた」
放たれる弾丸。反動でブレーキが自然と掛かり、車は一瞬前輪だけで浮く。
『おっと、当たったぞ』
弾丸は真っ直ぐ導かれるように伸び、タイヤの接続部位の根本へ穴を開けた。一瞬にして一つのタイヤを外された装甲車はすぐにバランスを崩し、火花を上げながら地面をスライドしていく。
『止まった! 助かったよ、汐華君』
「本番はこれからでしょ?」
中から降りてくる違法パーツ所持者達。そのどれも、武器を手に取り話し合うつもりは無さそうだ。そして、
「……何でこっちにいるのよ」
「私の台詞。今更顔出して、何のつもり?」
神白に気付いた汐華は、一気に不機嫌となり険悪な空気が車内を漂う。……こっちも、話し合うつもりは無さそうだ――。




