Case.30『アフタートーク』
鼓膜が戻り耳が戻った頃、僕は再びここを訪れる。いつもの場所、警察署――
「……肋骨の時とは違って、無茶出来る物じゃなかったからなぁ」
肋骨はある程度動けるし五感に変わりは無いが、聴覚が失われるのは重大なミスを産む可能性があると――一時期捜査から外されている。
「――やぁ。退院したのかい京君?」
「退院はとっくの昔にしてますよ。分かってるでしょう?」
署に入ると、日尾野が兎川と共に現れる。一応唯一の未成年協力者だから、警察も扱いが丁重になってるらしい。
「耳、大丈夫なのかい?」
「大丈夫ですよ日尾野警部補」
「肋骨の次は耳……怪我しすぎだろ?」
「隠密役に先頭張れって言うのか?」
「お前が前線出るからだろ」
耳が痛い……。ここの所、罠を使って戦うだけで戦場は思いっきり最前線だ。後方に行きたいものだが……そうとも行かないのが問題だ。それは、
「……罠張れないじゃんか!」
「だろうね」
「だろうな」
「冷たくない?」
そんな不必要な談義の中、いつもの部屋まで行くと――
「遅かったわね? 復帰するの」
いつものように書類作業を終わらせていく、神白の姿があった。
「神白さん。それ、警察の仕事じゃ?」
「遠谷警部が権限の一部を渡すから、代わりにやってくれって」
「……当の本人は?」
「畑島警視にお呼ばれ中。怒られてるんじゃない?」
神白は若干呆れつつ、辛辣な口調。……あれ、こんな感じだったか? この人。
「――あぁ、みんな来たようだね」
「遠谷警部、また何か怒られるような事をしたんですか?」
「いやいや、今回は君達が悪いというより……事情聴取かな?」
事情聴取……?。僕がいない間に何かあったのか……?。
「長通君。……戸内が奪われた」
「――は?」
「私も、詳しい状況は分からない。だけど……戸内は重要な『スモーク』の幹部らしい」
「……誰が、襲ったんですか?」
「リーダーが直接、全滅させた」
……丞が全部潰したのか。でも、
「情報は? 警察の輸送って――」
「事情聴取はその点だ。長通君……あの場で怪しかった人物はいなかったかい?」
「あの場で……?」
思い出す光景。あの時……怪しいと思った人物は誰もいなかった。なら、一体誰が……。
「遠谷警部が呼ばれたという事は……京君が疑われていますか?」
「その通りだ、日尾野君。私自身は長通君は白だと思うけど、上はそう思っていないらしい」
「でしょうね。僕も分かっています、あの場で怪しい人物はいなかった。それは……僕の疑惑へと繋がるんですよね?」
怪しい人物はいなかった。警備員と従業員だけで、あそこに異常は無い。あるとすれば、僕達の方だ。事件性有りで警察手帳を出して、結果事件は解決している。だけど、その動機自体は警察側に伝わってない。何故そこで事件があったと分かったのか、それを説明できなければ僕達への疑いになってしまう。
「ふざけないで、京は――」
「落ち着け落ち着け。遠谷警部も、僕の事を疑ってる訳じゃないんだし、神白さんが怒る事無いですよ」
助けられた本人は、かなり怒り心頭で遠谷へ詰め寄る。
「当然、畑島警視も白と見ている。だから、暫くは大丈夫だよ。いざとなったら……私のコネを使う」
「コネ?」
「こちらの話。それよりも、長通君と神白君……いつの間に仲良くなったのかい?」
仲良く……。あれ、そう言えば僕の呼び方――
「ほう?」
「へぇ?」
「日尾野警部補? 兎川? 何か、目付きが気持ち悪いんだけど?」
「いやぁ……青春だねぇ……」
「そういう仲ではありません。それよりも、仕事して貰えませんか、日尾野警部補?」
茶化す二人を神白は軽くあしらい、仕事の束を日尾野へ渡す。
「……消化しないとなぁ」
「全く、本当に――」
溜まった書類を消化しようとした途端、入る一本の無線。
「――殺人です。違法パーツ込みの」
「分かった。総員、移動だ」
合図一つで頭を切り替えるのは、全員の十八番だ。
「……今回は車が2台いるらしい。装甲車みたいなのが、走り回ってるという通報だが……どうする?」
「運転出来るのは、僕と京君だけど……」
「俺は日尾野警部補と行くぞ? 運転技術と機動力が必要そうだしな」
「何か、本人無視で話進んでない? まぁ、良いけど」
「私も構わないわ」
何故か本人を無視して自然と決まっていく作戦。……これは、嵌められたか。
でも、決まった物は仕方ないし、素直に二人で配給された車へ乗り込んでいく。
『聞こえるかい、京君?』
「日尾野警部補?」
『今、君にだけ通信をしている。僕からのプレゼントさ?』
物凄いドヤ顔だと思うと、上司といえど顔面を殴りたくなってくる。
「そんな人の恋事情を楽しみたいんです?」
『恋路には背中は押しておきたい物だよ、京君? まぁ、冗談はさておくけど……一度神白君ともちゃんと話した方が良いのは本音だ。恋じゃないにしろ、恩義は感じている。それに、君の怪我について自責の念もある。だから、ね?』
……少しばかり余計なお世話なようにも感じるが、まぁ話さないといけない気はしてたのは確かだ。
「……ねぇ、耳は大丈夫なの?」
「平気ですよ。普通に聞こえてます」
「……その、巻き込んで――」
「謝らないで良いです。僕が助けたくて勝手に受けた傷なので。神白さんは関係ない」
僕の一言によって、何故か少しシュンとした表情になる神白。……あれ、別に気にしなくて良いと言ったんだけど、何か地雷を踏んだか……?。
「……怒ってる?」
「怒ってませんよ。怒る要素なんて何処にも――」
「なら、敬語をやめて欲しい。……何か、敬語だと壁みたいなのを感じるから……」
敬語……。
「――分かった。これで良い?」
「うん、京はそっちの方が良い……」
その一言を最後に何故か変な空気になる車内。……えーっと、何だこれ。
『聞こえてるんだけどなぁ、お二人さん?』
「日尾野警部補!?」
『……青春だねぇ……』
「神白、僕が許す。あの車を爆破して良いよ」
「分かったわ」
『ちょっと!?』
変な空気を壊すように流れる日尾野の無線。……空気が読めるのか読めないのか、よく分からない人だ――。




