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Case.29『神白悠奈失踪事件・解決編』

「……あぁ、終わった……」


 気絶した戸内を回収し、壇上で倒れ込む。耳と目を事前に塞いでいたとはいえ、3発はしんどい……。耳からはドロっとした液体を指で少し取り、赤色なのを確認して鼓膜が破れた確証を得る。


「――!」


 横には既に神白を保護していた日尾野が何やら言っている。だが、まだ耳栓やら大音量やら鼓膜やらでまだ何を言っているのか分からない。


「あの、日尾野警部補……大音量やらで耳がやられて聞こえないんで……暫く筆談お願い出来ますか?」


 日尾野は軽く頷き、データファイルから手書きで文字を書いていく。


『大丈夫かい、京君?』

「……五体満足ではありますけど、神白さんは?」

『未だに倒れている。あのヘッドホンのせいだ』


そう言って見せられる耳当てには、色々とおかしなパーツが複数装着されていた。所謂、これも違法パーツ。音関連は理解出来ないが、まず間違いなく聞いた人間へ悪影響を及ぼす物だとは理解出来る。


「……日尾野警部補、少し警戒を。これが洗脳装置で、既に済んでいたとしたら――色々と不味い事態が起こりえます」

『大丈夫、拘束は一部外さずに置いている』

「……しっかり見てるなら、大丈夫そうですね」

『君の準備力には驚くよ。音が聞こえないからってワイヤー出した時は真似事かと思ったけど、神白君が目覚めた際の準備も進めているなんてね』


 ……いくつも考えていた準備。神白がもし途中で目覚めていたのなら、尚且つ正気だったら音の相殺が比較的容易になる。だからこそ、天井に付いていた違法パーツ人形の一つへワイヤーを通していた。

 そして、万が一負けそうになった際に逃走経路も用意。違法パーツへの銃弾が防がれた際に、簡易的なくくり罠を仕掛けていた。と言っても、吊るす訳ではなく手錠のように座席と足を固めのワイヤーで繋ぐだけの罠だが。


「……あらゆる一手へ対応し、行動を制限させていく。……罠使いの戦い方は、大体こんな感じですよ。兎川みたいなスピードと近接技術は無いですし、神白さんみたいな特殊な違法パーツを扱っている訳でもない。そして、日尾野警部補のような高水準で纏まってもいません。……そんな奴が一つだけの武器で戦っているんです、準備を敷かなければやってられませんよ」

『自分を卑下しすぎじゃないかい? さっきの戦いでもそうだけど、君は眼が良いみたいだ』

「眼? 視力も反射神経も普通ですよ?」

『多分君の本業が影響してそうだけど、動きを読む力がとんでもないかな。視線の動き、筋肉の動き、指の動きを無意識に察知して、相手の行動を先に読む。口では言っているが、鍛えるととんでもない武器になると思うよ?』


 言われた事が無かった視点。もはや無意識として行っていた、殺陣での対応力が今に繋がっているようだ。……まぁ、殺陣でブレてNGなんて一定の数はある以上、武器が変に当たって骨折等の怪我して演技力を鍛えられないのは嫌な一心だったんだけど。

 今は代理とはいえ座長だけど、昔は末端の末端で代わりはいる、そんな中で上へのし上がる為の技術がまさかこんな所で芽吹いていたなんて。


「……日尾野警部補。後で、お願いしたい事があります」

『何となく想定してる。君の仕事が落ち着き次第、やろうか』

「ありがとうございます」


 どうやら、見透かされていたようだ。この眼を鍛えれば、もしかしたら丞へ届く一手へと繋がるかもしれない。


『おっと、どうやら神白君が目覚めたようだ』


 警察を待っている中そんな事をしていると、眠っていた神白が目を覚ました。


「――!?」


 そして、目覚めて直後に色々喋り散らしている。……聴こえないのだが。


「――!」

「――?」


 向こうで話し合う二人。……言葉を聞けない動物の気持ちが、今はよく分かる気がする。


『京君。彼女、洗脳されてないみたいだ』

「でしょうね。後、何話してたんですか?」

『事情聴取、かな?』


 筆談と耳からの血を見た神白は、拘束から解除された手で何かを書き始める。


『耳、大丈夫なの?』

「大丈夫ですよ。デカイ音と鼓膜破れただけで、そろそろ少しずつ聴こえてきましたので」


 今までは口を塞がれた状態で喋ってるような、呻き声しか聞こえなかった。だけど、今は水中にいるような状態で、よく聞けば何となく分かりそうなぐらいまで回復はしてる。それでも、神白は筆談を続けていた。


『どうして、ここまで?』

「言ったでしょ? 絶対に助けるからって」

『あの言葉を本気でやるの!?』


 ひどく驚きながら、神白は書く。


『聞かないの? 私の事』

「……多分、神白さんは『私が寄神を壊した』と自責の念を感じてたんですよね?」

『知ってたの?』

「当時の監視カメラをハッキングして、色々と見て回ったんです。そしたら、ピアノ以外に心を閉ざした神白さんがいた」


 あの時、三人の原石がいた。神白、寄神、戸内の三名。

 神白は、ピアノ以外に心を閉ざす事でその才能を磨いた。

 寄神は、神白という才能にぶつかる事で才能を磨いた。

 戸内は、神白と寄神という原石に憧れて、才能を磨いた。

 そして、あの事件。神白という存在をライバルとした寄神は、そのあまりにも孤独で磨かれ続ける才能に打ちひしがれ、自らの心を折った。指を壊す事で、その証明をしたかったんだろう。

 寄神の火傷跡も、親という支えが無くなっている証明。寄神は、神白と戦う事で……同時に生きる支えにもなっていたんだ。

 でも、あの真新しい包帯――火傷を負って初めてのコンクール……彼は壊れてしまった。


「……あの時、神白さんは寄神の言葉の意味を知る為に――少しばかり抜け出した。その時の演奏者は、戸内」

『寄神の音楽、本当は好きだった。挑むように一歩一歩踏み締める、力強い音。……その先に、私がいたなんて思っても無かった』


 そして、全てを知った神白もまた――音楽を辞めた。監視カメラに神白が映らなくなって以降、ここでのコンクール全てで……姿を見せていない。寄神の才能を壊したのは自分と知ったからだ。


「神白さんは、あの事件の後に音楽を辞めて、寄神もピアノを一時断念せざるを得なかった。残ったのは戸内。……そこだけは、わからない」

『簡単よ。戸内は私と寄神の音楽に近づこうとした天才。だけど、二人とも辞めてしまえば、登る山は無くなる。どちらかと言えば、戸内が目指したかったのは寄神だとは思うけど。彼女も才能に溢れた人物なのに、私達なんて目指さなくても良いのに』


 二人とも辞めてしまえば、戸内の音楽に先が無くなる。……そして、三人は音楽を辞めてしまった。


「……どうして、寄神は殺されたんです?」

『私が隠れて裏で弾いていた事に、戸内も気付いたみたい』

「戸内も? という事は、寄神のピアニストじゃ無くなる発言は……神白さんが弾いていたのを、彼が聞いていた?」

『そんな事言ってたの? それは知らないけど、多分そうだと思う』


 程なくしてリハビリを終えた寄神が復帰、才能は世界へと響く音色に成長していった。……それでも、倒せなかった才能――神白という存在は大きく、どうしても引っかかっていた。


「神白さん。寄神は呼んだんですか?」

『全くの偶然。私はこの場所しか知らないし、全員が居なくなった夜に侵入して、ただ弾いていただけよ?』

「不法侵入……」

『バレてないから、立証出来ないけど?』


 そして、偶然にも通りかかったこの場所の近く。流れてくる、懐かしい音色に釣られて――二人は再会を果たす。


「寄神が殺されたのは、戸内からのリーク……」

『彼女もここに勤めて、気付いたんでしょうね』

「そして、現在に至る……と」


 月日は流れ、戸内が寄神と神白の存在に気付いた頃。あの計画は始まり、寄神は殺された。……後は分かるか。


「神白さん、二つだけ疑問があります。何で、戸内は寄神を殺したんでしょうか?」

『彼女の事はよく知らないけど、多分嫉妬じゃないかな? 目指す先が塞がってピアノを辞めたのに、残った二人は再度ピアノを始めた。追いつこうにも、戸内は他人の模倣で自分が無い。彼女自身、もう弾けなくなってたのかもしれない』

「……あー! やっぱり、芸術って分からねぇ!」


 どうしても殺人動機が理解出来ず、僕は寝転がって不貞腐れる。


『ねぇ、二つ目は?』

「……どうして、言ってくれなかったんですか。苦しい時は絶対助けに行くって言ったじゃないですか」

『本当に、あの言葉を本気で守るつもりなの?』

「当たり前です。僕は、もう二度と守れないのは嫌だから」


 苦い記憶。目の前で親友が建物を爆破し、犠牲となった……親代わりに慕っていた女性。その亡骸を抱え、腕の中で命が失われていく感覚を――もう二度と起こさせない。だから、馬鹿な夢を追い続けてきた。ヒーローという、子供の夢を。


「――本当、大馬鹿」

「え? 何か言いました?」

『何でもないわよ』


 そんな文字を描く神白は、少しだけ嬉しそうに笑っていた――。

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