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Case.02『限定警察の仕事』

 殺陣のリハーサル。それはアクション物において、一番大切な物。ARによって映像技術も発展し、リハーサルを3D化する事によって自身の動きをより客観的に改善できる。

 だが最終的に演じるのは人間で、元が改善しなければ宝の持ち腐れだ。


「――はい、OK!」


 そして僕の相手もまた、改善をあまりしない人物。殺陣の動きは良いのだが、時折ブレが生じて怪人役と息が合わず、よく怪我をさせてしまう。

 だがこの男、四ッ谷 正嗣(よつや まさつぐ)は座長の子で、次期スター確定とまで言われた存在。顔も良く身長も高い為、ヒーローのスーツアクターやスタントマンとして既に活動している。そんな相手に誰も口を出せず、現在は――


「いやーお前みたいな下手な演技を、俺が隠してるんだ。良く思えよ?」


 典型的な天狗として、問題児と化していた。


「なぁ皆! こいつの演技、下手だよなあ!」


 そうなるともう誰もこの人を止める事は出来ず、相手を蔑み、自身が天才だと信じ込む。

 まぁ口封じの為か給料の払いは良いし、コイツの言葉を無視さえすれば良い職場。逆に口裏を合わせないといけない他の役者には同情するが。


「おい長通! 何とか――」

「長通さん、電話が鳴ってました」


 何も反応を示さない僕に痺れを切らしたのか、詰め寄る直前で割り込む四ッ谷のマネージャーの声。


「あー……その電話は用事でしょうし、ここらで失礼しますね?」

「おい!」


 呼びかけを無視し、外へ向かう。このマネージャーが呼びかける時は大体、事件関係の事だ。


『――仕事中ごめんね、事件だ』


 渡された特殊な携帯電話に出ると、向こう側からいつもの声。日尾野警部補だ。


「大丈夫です。丁度終わったので」

『そうか、なら良かった。外で待ってるから、車に乗ってね』


 そう言って切れると、携帯電話は霧散して何もなくなる。これも、ARに質量を持たせた結果の物だ。何も無い空間から電話が湧き出て、用事が終われば消えていく。

 この手段は警察や弁護士等、機密情報のやり取りに役立つ。そして本人が電話に出られない時に限り、信頼された人に電話が現れる仕組みだ。


 外へ出ると、丁度赤黒い高級車が道路に止まっていた。


「お待たせしました、日尾野警部補」

「大丈夫、事件現場には既に二人を送らせているから」


 二人……と言っても、ほとんどは神白と兎川。一応『セブンヴィランズ』のセブンは七班という意味もあるが、所属が七人という二つの意味を持っている。……残り三人は滅多に顔を出さないレアキャラみたいな扱いだ。


「それで、事前情報はありますか?」

「後部座席に資料があるから、目を通しといて」


 日尾野から言われ後ろに目線を移動させると、そこには黒いファイル。


「えーっと……」


 それを手に取り、最新のページまで開く。これもリアルタイムで資料と現場に情報が入るので、このファイルを開けばすぐに最新の言質等が入ってくる。


「被害者は『臼田 大喜(うすだ たいき)』45歳・男。現在は病院で手術を受けている」

「……殺人未遂ですか?」

「そうだ。片腕が鋭利な物で両断され、胸には数ヵ所の刺し傷。心臓はギリギリで避けられたそうだが、それでも今日が峠のようだ」


 片腕を切断……それだけで、こちら側の管轄だと考えられた。包丁やナイフで片腕を両断出来るほど、人体は柔らかくない。仮にそれが出来たとしたら、その人物はある程度刃物に精通した剣術か、違法パーツ所持者かの二択だ。


「それで、他には何か?」

「それを見つける為の現場、だろ?」

「……それもそうですね」


 証拠や指紋等は後から判明するとして……今知るべきは、


「被疑者は何名ですか?」

「一応、第一発見者は『臼田 百合江(うすだ ゆりえ)』21歳・女。彼女は今現場にいるが、被害者の――」

「娘?」

「いや、奥さんだ」


 二倍以上の差がある者の結婚。そこまで珍しいとは思わないが、こういった時に良くあるの遺産目当ての殺人だったり、元妻とのこじれだったりで……あまり良い事では無いが疑ってしまう。


「言質はまだ更新されてない……?」

「そういった時は大体――」

「向こうでトラブルが起きている。ですよね、警部補」

「分かっているなら良い。少しばかり急ごうか」


 ファイルから新しい情報が来ない。つまり捜査の停滞、それが言質だとすると……第一発見者の奥さんがパニックで正しい言動が取れないか、反抗的で答えてくれないか。どちらにしても、最終的には現場に行けという結論に至りそうだ。


「あまり飛ばさないで下さいよ? 交通安全、ですからね?」

「分かってるよ。()()()()無茶はしないって――」


 言葉とは裏腹に、日尾野の口元はニヤつき――今にも飛ばしたくてウズウズしている。これは……車酔いに注意しないと。


「じゃあ、行くよ!」


 そんなにと言いつつ、アクセルをベタ踏みして一気に加速していく車。警察の車は全自動の車と違って、犯人を追いかける緊急性等から未だに手動になっている。なので――


「緊急車両入ります! 緊急車両入ります!」


 警察や救急車等が通る、専門の道が存在している。そこは大体真っ直ぐの整備された――飛ばしても咎められない、見かけ上得しかない道。


「――良し、飛ばそうか!」


 ただし、中の人がその速度について行けず、運転手以外が大体吐いてしまう事から、別名『嘔吐ロード』と呼ばれているんだけど――。

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