Case.28『絡め手とハッタリと』
指先のワイヤーから奏でられる振動。それは先にある違法パーツへ伝わり、音として周囲へ響かせた。
「――っ!?」
だが、その音は酷く悲しい音色で――頭が割れる悲壮感に襲われる。音を放つ対策として音響手榴弾を裏で作っているが、まさか一瞬でここまで精神汚染が入るとは思わなかった。
「対策無しで喧嘩を売ったのかしら?」
「勿論、ある、よ――!」
背後で生成していた物を投げ飛ばしながら、次の一手。
彼女の言い方から察するに、このタイプの手榴弾は初見。殺傷ではなく音だけで気絶させる兵器、それは彼女へ対する天敵と1回目で理解出来たはず。実際最初に投げた際に、何もせずピアノ線を切られて正体がバレるという最悪な手を打った事からの推測だ。
「愚直過ぎないかしら?」
投げたそれを、ワイヤーのような物で起爆前に切り裂かれる。だがこれは予測済み、本命は床に投げて座席に隠した――視界外からの音と光だ。
「――へぇ?」
正しい対処を知っていた日尾野は目と耳を塞ぎ、音が脅威の物と知っていた僕は耳を塞いでいた。だけど、戸内はそんな素振りすら見せず……ただ座っていた。バレてしまえば拠点となる場所を失うはずなのに、ただ座っていたのは音と知らなかったから。じゃあ、何で彼女は気絶しなかったのか。ここまで揃えば答えは簡単――
「でも、私には――」
音による相殺。あの時彼女は自身が動かないように貼っていた、音の壁だ。そして、その音の壁を今は確かめるターン。
「今音を出しているのは――あれだ!」
二度目の爆音が会場を震わせる。耳を塞ぐだけで2発は、流石に三半規管がしんどくなってきたが――それでも、上空で音を出し続けている違法パーツの一つを撃ち抜く。
「……今のうちに耳栓を」
戸内が倒れていたら御の字、出来なければ何かしらの妨害。それはこの閃光と煙が晴れてから分かる。なら、今は当たっていない事を想定して事前準備。素早く動けない分、1秒も無駄にしない。
「全く、音だけと思わせて目潰しの光を紛れ込ませるなんて……でも、惜しかったわね。座席へ隠した事で直接光が飛んでくる事は無かった。貴方の勝機は失われたのよ?」
自慢げに語りながら、いなくなった僕の姿を出させようと再度音は奏でられる。
「……倒れていない。分かっていたけど、ちょっと厄介だなぁ」
次の手を考えるにも、3度同じ武器は対策される。絡め手も考えているが、音の防壁は思ったよりも厄介。全く、まだなのか。
「勝機ならありますよ――」
弾がダメなら近接戦。あまり得意では無いが、彼女の腕力だけなら捌ける程度には出来る。
「接近戦なら勝てると思ったのかしら?」
体勢を極限まで低くとり、突っ込んでいく。あの違法パーツは、目に映る限り上空。攻撃に対して最大限の猶予と、姿勢を低く取る事で出来る――一度限りのハッタリ。
「でも、女の子には優しくしないと!」
彼女は攻撃という攻撃をしていない。少なくとも僕の見た中で、の話だが。だからこそ推測。
さっき違法パーツへと射撃した際、弾は壁によって阻まれたのは容易に理解できる。その瞳に映して無い以上確定ではないが、ほぼ確定程度には確率は上がっているはずだ。
銃は物理。音という遠隔という訳ではなく、あくまで火薬によって発射された鉄塊だ。威力や材質を変えようとも、本質は変わらない。つまり、あの音は物理的にも作用してくるはずだ。早い話、銃を防御出来るなら――
「それを、攻撃へ変える事も可能!」
指が動いた瞬間、袖から抜いていた上着を浮かせて目隠し。
「な――!?」
身体を下に落としていたもう一つの理由。上着の袖から片腕だけを抜き、もう片腕はそのまま。その状態で脱いだ袖を手で掴んでショットガンを待てば、ぱっと見は銃を持ちながら姿勢を低くした人間に見える。
後はネタバラシの瞬間、手を離し――袖を入れた側の腕を振るえば自然に上着は目隠しのように飛んでいく。
「――高かったんだけどね!」
袖は目眩しと同時に僕の銃を隠し、見えない場所からの発砲。威力を絞らずに放つ弾丸は上着を貫き、その奥にある戸内へ。あーあ、この上着……高かったのに。
「そんな物!」
その瞬間、最大限に音が響き――耳が潰れるほどの痛みと、耳から漏れ出る液体。まぁ、鼓膜ぐらいくれてやる。
弾丸は戸内の眼前で止まり、震えながら落ちていく。
「残念だったわねぇ! 最後の作戦も失敗に終わっちゃって!」
勝ち誇るように高笑いを上げる戸内。……これで、詰みだ。
「可哀想だから――!?」
今更気付いても、もう遅い。既に僕は気絶しないように、破れた上着を壁にしている。だから彼女しか食らわない、防御姿勢も間に合わない。
「……音楽家には、スポットライトを当てないとね!」
ショットガンと共に手で抱え、上着で目眩しの際に上へ投げ、最後に降ってくるとある物。絡め手で使い油断を誘った、閃光で気絶させる――スタングレネードだ。




