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Case.27『三人の音楽家』

「ちょっと京君!? どこへ行くんだい!?」


 まだ確信ではない、だけど色々と分かった事がある。だから――もう一度コンサートホールへ。


「ここって――」

「ちょっと! 何をするつもりですか!」


 無理やり中へ入ろうとすると、当然警備員の手が退けようと立ち塞がる。……これで、()()()()()()()


「……警察です。少しばかり、内部の調査をしてもよろしいでしょうか?」

「京君!? それは――」

「警察……あぁ、寄神さんの事件でしたか。申し訳ありません」

「いえいえ、こちらこそ突然押しかける形になってしまって。コンサートホールの方を拝見しても?」

「えぇ、大丈夫です」


 確信に変わったのなら、もう――隠す必要は無い。


「……本当に良いのかい? それを出して不発なら、君が処分を受ける事に――」

「大丈夫です。もう……分かりましたから」


 そうして中に入っていく。会場を正面から見れば、広く並ぶ座席と――中央にピアノだけが残る場所だ。


「――京君、何をする気だい?」

「……今から日尾野警部補の倫理観から外れた行動を取るんですけど、止めないでくださいね」

「えーっと……それは、時と場合によるかなぁ」


 事前に許可も取ったし――


「じゃあ、行きますね!」


 手袋から形成していくのは、罠の源として良く使う――光と音で相手を気絶させる物。僕の場合、()()()()()()()()()()()()()()()()……神白に教わった物だ。


「――っ!」


 輝く目潰しと音の振動、その間に次なる物を生成していく。


「――急げ」


 それは、()()()使()()()()()()。罠用で使う起爆装置を、少しだけ弄って作った物。精度も感度も彼女には及ばないけど、今だけは――細かな動きすら逃さない。


「……あの時、神白は――」


 隣で違法パーツを操っていた時を思い出せ。あの時、学校で起きた音をワイヤーから感じ取り、繊細に音を変えて()()()()()()()()()()()、あれを……。詳細までは出来なくていいから、あの時の揺れを――思い出せ。


「……見えた!」


 音響手榴弾の残滓が未だにコンサートホールへ響き渡る中、微かに揺れた違う音。指先から感じ取れたそれは――中央のピアノ。


「京君!? それは――」


 狙うのはピアノ線、本体を極力傷つけないように工面しつつ発砲。


「……そういう事」


 プツンと切れたピアノ線の不協和音が響き、コンサートホールは真実の姿を見せる。そこには――腕と足を縛られた状態でピアノの椅子に座らされ、口と目は塞がれて何かの音楽をヘッドホンから通され続ける神白の姿があった。


「……バレてしまいましたか」


 そして、そんな姿を座席から見つめる――戸内の姿も。


「全く、洗脳しても警備員は無能のままですね?」

「良く言うよ、コンサートホールへ()()()()()()()

「警察のお墨付きを貰って、暫く拠点として使おうかと思ったんですが……何事も想定外は起きる物ですね」


 警備員の不在。よくよく考えたらおかしすぎる点。

 私立の音楽会場。芸術家の手によって作られた、建物として経費が高い類の代物だ。当然、維持費も掛かるだろうし、私立なのでダイレクトにオーナーへダメージが行く。寄神はそんな中でもこの建物を贔屓にする有名人――つまり、維持費に関する太いパイプ。

 そんな人間がついニ週間前に殺され、まだ未解決のはずなのに、どうして()()()が出来る?。

 物音を出したはずなのに、どうして無警戒に元の場所へ戻れる?。

 そして、どうして――徘徊という今までと同じスタイルを取っている?。

 どれもこれも、殺人事件という大事に似合わない状況だ。証拠を隠滅させに犯人が来るかもしれないのに、その警戒を怠って挙句に物音を放置するのは……絶対にあり得ない。


「外の警備員に音を使って操っていた。僕が動けるよう――わざとコンサートホールの舞台袖を開けて」

「……どういう事だい、京君?」

「警察の『コンダクター』には、骨格や瞳の色等から本人を割り出す機能が備わっていますよね」

「まぁ、そうだね。監視カメラや過去の写真を見る事が特段に多い僕達は、人探しの為にそういった機能が――あれ? そうなると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。京君はあの時、学校で彼女の顔を見たのに」


 ……あの時、戸内は変装をしていなかった。それは、鑑識の来栖が証明済み。

 彼もあの事件を知っており、鑑識のデータ内に保管されている。じゃなきゃ、あの時来栖が大慌てで戸内の事を言わない。そうなると――戸内が分からない原因は僕側の異常へと繋がる。機械の障害となれば、寄神の少年時代すら読み解けないので違うし、送る際に何度も映像を撮る為に順番待ち周囲を見ていたから見逃すのも考え辛い。

 そうして考えた時、来栖と僕の違う点が一つ存在していた。それは、音声。

 視覚による障害なら、僕の映像が乱れるか変な場所を取っているか、もしくは正確な認識を止める為にブラすか。そのどれも、データとして送った時に来栖からの指摘が入るはずだ。

 同じような理由で、聴覚以外の感覚は――理論的にもっとおかしな点が現れてしまう。そうなると、異常部位は耳。


「戸内が音を利用して、この場所を異常無しにした。だけど、音が届かない人間には通用しなかった」

「……鑑識って、思ったより厄介ね?」


 戸内はゆっくりと座席から立ち上がり、此方側へと身体を向ける。服は演奏家のようなドレスを着込み、指先にはワイヤー……違法パーツは神白と同じような物か。


「日尾野警部補! 神白をお願いしても良いですか?」

「……一人でやるつもりかしら? 舐められた物ね」


 挑発するように指先を動かしていく戸内。それに合わせるかのように、コンサートホールから音楽が響き始めた。

 そしてそれは、神白を苦しめているのか――塞がれた口から漏れる叫び声が曲のアクセントとなっていく。


「倒すよりも、殺させない主義なんでね!」

「嘘を付くのね――!?」


 隠していた銃。彼女の隙を突くように放たれた弾丸は、戸内の頬を掠め跳弾し――的確にヘッドホンを射抜く。そして、電源が切れたかのように神白は倒れ込んだ。


「殺させない主義と、言ったはずです」

「……前言撤回するわ? 舐めてたのは私みたいね」


 余裕そうな言葉の反面、表情は相当な怒りに包まれている。神白を奪われたのが、よっぽど逆鱗に触れたらしい。


「抵抗するなら、相手をしてあげます」

「へぇ? 君みたいな人が、私の相手を? 良いわね、簡単に倒れないで頂戴?」

「……君みたいな、ですか。なら、同じ事を言いましょう。――アンタみたいな人間は、僕ぐらいが丁度いい」

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