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Case.24『神白を追って』

 車を走らせ、暫くすると――音楽会場らしい建物が見えてくる。外からだけでも芸術家が立てたのが分かる、奇抜な屋根と柱で構成された建造物。芸術分野らしいと言えばらしいのだが、過ぎた芸術で安全性が損なわれているのは少し疑問を感じるなぁ……。


「……京君、分かってるよね? 警察手帳は無しだよ?」

「分かっていますよ。あくまで一般人ですよね」


 そんな中で再度確認する、僕達の立場。今は捜査ではなく、あくまで観光に来た一般人。幸いにも現在は絵画展が行われており、コンサートホールの中には入れないが外はうろついても疑いは無い。


「さて、飛ばすよ!」

「……それ、もう慣れましたよ」


 目標が近くなり、アクセル全開で唸りを上げる日尾野の車。何度か乗った事で、酔わなくはなったが……まぁ、一応交通安全は守っているから良いか。



「――さて、ここから別行動をしようか。一般人だからね」

「……芸術は分からないので、絵画側は日尾野警部補で」

「はいはい。京君は裏手に回って調べるって事で」


 会場に着くと、ある程度栄えるように人は動いている。


『とりあえず、いつ何が起こっても良いように限定権はこっちで解除するよ』

「それ、怒られないんです?」

『バレなきゃ平気なの。怒られたとしても、私の独断って事も出来るしね?』


 手帳へ光が灯り、本当に解除はされたけど……これは本当に大丈夫なのだろうか。


「まぁ……良いか」

「それじゃ、また後で。ある程度情報が集まったらこの車に再度集合で」

「了解」


 そして僕と日尾野は別れ、僕は会場の裏手へ足を運ばせる――隠された真実を追う為に。



「……関係者以外立ち入り禁止」


 裏手に回ると、当然立ち入り禁止の立て看板と共に、カラーコーンと紐で線が引かれている。


「まぁ、通るんだけど」


 それを気付かれないように乗り越え、先へ向かう。バレた時の為の言い訳を考えながら。


「……さてと、情報集め」


 網膜に映し出される、立体化されたこの建物の歴史。これは、周囲全てをハッキングして断片情報を照らし合わせ作った、この場所で起こった全て。記録に無い場所や音声は無いが、それでも監視カメラ等の映像から身長等を推測しリアルタイムのARとして映されている物だ。


「――あった」


 僕以外の風景は早送りされ、どんどんと過ぎ去る時間。その中で一つ――急に大量の人間が走り去る映像が映された。日時も丁度、神白の年齢と合う。……これを追えば、何かが分かるかもしれない。


「……よし、位置も何となく把握したし――」


 扉をハッキングし、走り去る映像の先へ向かって歩き出す。見つからないよう、慎重に。


「――ん?」

「やば」


 やはり警備員は巡回しており、物音を立てればこちらへ振り向いてくる。


「……どうした?」

「あぁ、いや……何でもない」


 今回は警備の相方によって事なきを得たが、これは骨が折れる作業だ――


「……とりあえず辿り着いたけど、ここは」


 警備の目を掻い潜り、辿り着いたそこは男子トイレの窓だった。


「――ここで、あの傷が起こった」


 映像には――窓ガラスへ思い切り拳をぶつけている少年の姿があった。その人物の骨格から、幼少期の『寄神 智弘(よせがみ ともひろ)』だと確定。少年の彼の瞳は狂気が宿っており、少なくともまともでは無い事は確か。


「前後の映像は……」


 巻き戻してきっかけを探る。少年の寄神は男子トイレへと入った後、用を足さずに洗面台の鏡を暫く見つめている。

 音声記録は無いので、何を喋っているのか分からないが独り言のように口を動かしている事から、何かしらの自己暗示か何かをやっているのか……?。


「そして、何かに気付いたのかトイレの外へ向かった」


 そこから大体10分後。再度姿を見せた寄神の瞳には既に狂気が芽生えており、そのまま窓ガラスまで歩いて……拳をぶつけた。


「この10分の間に何があったのか……」


 映像はまだ続き、物音に気付いた男が急いだ様子で現れ、大量の出血を目視し大慌てで電話を掛けている。指の動きから119……救急車を呼んでいたので、この男の動きに違和感は無い。


「……騒ぎがどんどん大きくなり、男子トイレの入り口には多数の人……」


 男達は手の傷を必死に止血し、救急車が来るのを待っている。外には野次馬、その中で――一人の少女を見つけた。


「……神白さんは、ここで彼を見た」


 その瞳と表情は驚愕と絶望。まるで、この事件は自分の責任と思っているような……そんな顔だ。


「自分の責任……何があった?」


 そこからは救急隊員が急いで寄神を連れて行き、残された神白は……壊れたように笑っていた。


「ここは、これで全部」


 映像はこれで一段落。再びこの場所へ人が現れるのは、この一件から大体三ヶ月後の映像だから関係なさそうだ。


「来栖さん。鑑識依頼しても大丈夫です?」

『何でしょう! こちらはいつでも大丈夫です』


 気になる点である寄神の独り言について口元を拡大し、鑑識である来栖へ送る。


「これなんだけど……読唇術とかで何を言ってるか分かったり出来ない?」

『うーん……正直言うと無理ですね。寄神さんの口調等が分かればすぐに済みますが、これだと候補が多くて判別が難しいです。何か他に情報はありませんか?』

「……まだ、無いかなぁ」


 流石にこれだけだと、判断が難しいか。


「分かった。引き続き調査を続けるよ」

『はい! また何かあれば、こちらへデータを飛ばしてください!』

「……もっと、情報を集めるか」


 切れる通信と共に、男子トイレから外へ向かう。少年の寄神を追うように。


「……ここは」


 追った先にはコンサートホールの脇。そこには誰も眼中にない様子で、さっきの表情とはまるで違う――神白が座っていた。

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