Case.23『神白悠奈失踪事件』
一人居なくなり、少しだけ広く感じる空間。僕が来るのと同時期に再度汐華も来なくなり、結局三人になってしまった。
「……今日も、来ない」
「ほら、京君。コーヒー」
兎川も学業に専念するようで、あまり来なくなり始めた。それでも全く音沙汰無くなった二人より、ちょこちょこ顔を出す程度に留まっているが。
「……原因と考えられるのは、あの死体」
「だろうね。あれを見て以降、二人とも様子がおかしかった」
「そして、汐華さんが現れて――」
「何かした後に音沙汰なし……全く、皆自由すぎて困るなぁ」
「遠谷警部!」
遅れて現れた遠谷は後頭部を掻き、若干やりきれないような表情。
「……悪い情報が入ってきたよ。『神白 悠奈』が行方不明として届出が来た」
「――は?」
「勿論、彼女に現在――親は居ないはず。だから異常すぎる事態だ」
通常、行方不明は親や親族等が扶養者捜索の為に出す物。でも、神白は――ARテロ事件によって家族を失っている。そして、現在は一人暮らしで行方不明と処理される訳が無い。
「……誰が出したんですか?」
「宛名不明。いたずらかと処理されたが、この状況……少しばかり、怖いねぇ」
いたずらと称されたデータには、神白の詳細がビッシリと書き連なっており――警察が知りえない事すら書かれている。
「いたずらで済ませるか、動くかは――二人が決めなよ?」
「ですが、警察の仕事は――」
「あー急に日数制限が掛かっちゃったなー」
「……えーっと?」
「あー警察は公共なのに、労働基準を上回る働き方は良くないと思うなー?」
安っぽい演技。あからさまに棒読みの遠谷は、まるで周りに聞こえるように大声で話続ける。
「ちゃんと部下を休ませないと、怒られるんだよなー」
「……どうするんだい、京君?」
「ここまで煽られて、動かないは噓でしょ?」
「――そうだね。こっちも動かないとね」
上着に腕を通し、未だに寒さの抜けない中――署の外へ向かう。目的は、神白の捜索。
「それで京君、どこから向かうんだい?」
「……考えて無かったけど、少しばかり聞きたい事を聞いてから動く」
「聞きたい事?」
「まだ、繋がってますよね。遠谷警部?」
まずは、署にある情報を纏めて行き先を定めていく。日尾野の車の中、後ろに搭載されているファイルから今回の情報へ繋がる物を検索しながら、遠谷警部に話を伺う。
『やっぱりバレちゃうか』
「聞いてたんですね、遠谷警部」
『まぁ、今回は前回とは違い――隠れた調査だ。通信は常に入れておいてくれ日尾野君』
前回――僕と日尾野が謎の爆発に巻き込まれた事件。あの時は爆破という緊急事態だったので、僕達があの場に居たとしてもお咎めは無く、寧ろ同情される立場だった。
だけど今回は意図的に休みを取り、裏で捜査する形。警察権限は使えず、バレたら大目玉どころの騒ぎじゃない。権力の私的利用は――一発退場物だ。
『と言っても、私の部下が危険な目に遭うかもしれないんだ。それに、元々公に出来ない組織、ある程度は目を瞑って貰える。だが、あまり派手な事は出来ない事は留意しておいて欲しい』
「分かりました。それで――」
『あぁ、来栖君ならもう呼んでいるよ。事情も、彼には説明してある』
明らかに鍵となるのは、あの時の死体。その為に来栖に頼もうかと思っていたが、もう必要ないみたいだ。
『……特殊事件捜査係第七班・電脳科ってこうなってるんですね』
通信に入ってくる別の声。来栖だ。
『もう、通信入ってるよ来栖君』
『あ、もう入ってるんですか!? すみませんお二方!』
「大丈夫だよ来栖さん。それで、前の工場できっかけとなったあの死体、あれについて聞きたいんです」
『話は予め伺っております。なので、基本情報を転送致しますね。後は、口頭で説明します』
そう言われて送られてきたデータはあの死体を解剖した詳細。胴体、腕、足という五つのパーツはそれぞれ別人の肉体のようで、無理やり縫った跡が繋ぎ目に痛々しく残っている。実際にはその上から傷口を覆い隠すように、例の煙で作った皮膚で隠されていたようだ。
顔は全く関係無い一般人。ここは本当にホームレスの男を使って、顔面を粉々に砕いている。素性はあれから懸命に探し、正体はあの錆の工場で働いていた男『二藤部 恒和』だと分かった。働いていた上で実験素体でもあった彼は、工場の廃棄に伴ってリストラ。薬を大量に使った人間は不必要と切り捨てられた。そして、ホームレスと化して――最終的に殺された。
『神白さんと関係があるのは、右腕です。この持ち主も、長通さんと顔見知りであるマネージャー九町 夏見さんと同じく、殺されています』
「……この右腕。やたらと傷跡が残っているけど、何かあったのかい?」
『そうです日尾野警部補。この傷の治療痕跡と時期、そして――そこに神白さんが関わっている事から身元が特定出来ました。名前は寄神 智弘、ピアニストです』
右腕に残る傷。それは、リストカットではなく……ガラスを殴って出来たような痕。ピアニストなら指を守るはずだし、自ら傷を付ける……?。少しばかり、考え辛い。そして、神白はその現場に関わっている。神白がいなくなった事も考えて――
「――後は、現場に行くしか分からない……かな」
「最初に行く場所は決まったね、京君」
『念のため、通信は繋いでおきます。また何かあれば鑑識にご連絡を!』
『私も、通信は繋いだままでいるよ。来栖君はこの場所に長時間いられないけど、ここからでも探せる物はあるからねぇ。でも、忘れないでよ? 君達は今――』
「非番だから、派手に動くな。ですよね」
『分かればよろしい』
そうして走り出す日尾野の車。行く場所は――指を傷つけたという記録が残る、ピアノコンクール会場だ。




