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Case.22『嫌な予感』

「――はーい、OK!」


 あの事件から数日後、四ッ谷は予想通り――凄惨な死体となって発見された。手に持っていた金槌からマネージャーの血痕が見つかり、DNAが一致した事から殺した後に苦脳し自殺と表面上は処理され、通夜も行われた。


「……大丈夫なんですか?」

「大丈夫、今は休んでいられないから」


 その後、有名人だった座長を失った事は大きなニュースとして報じられ、連日関係者に報道の人間が詰め寄っていた。実は誰かが殺していた説、マネージャーが追い詰めていた説、座長をいじめていた説等、そのどれもが四ッ谷を庇うような論調。少なすぎる情報だけで、全てを知った気になって平気に無関係な人間を追い詰めていく……そんな物、反吐が出る。


「……今日はもう上がろうか」


 だから、自ら新しい座長へ頼み込み……代理として今は取り仕切るようにさせてもらった。そうすれば動きで得をした僕にヘイトが向き――他の劇団員は守れる。


「お疲れ様です!」


 ただ、思ったよりも座長の仕事は多く、時間調整や予約取りまで全部を自分でこなさないといけない。


「……今なら、遠谷警部の気持ちが分かるなぁ」


 雑務の多さに頭を抱えながら、騒動が終わるまでは代理として守らないと……余計な犠牲者は生ませたくない。


「うーん……一応警察の時間を減らしてもらったけど、向こうに一度も行けてないしなぁ」


 最初は業務との両立を目指していたが、チラシ製作の段階で頭を抱えて今はこっちに集中させて貰っている。


「全く、慣れない事はするもんじゃない」


 業務が一段落つき、背もたれに合わせて背伸び。ヒーローショーだったり、スタントマンだったりで身体を動かす自分にとって、こういう作業の方がきつく感じてしまう。今日で代理が終わりだから、せめて溜まっていた仕事は全部終わらせないと――


「――全く、仕事を溜めすぎです。長通さん?」


 聞き慣れた声が響き、ふと横に目線を落とすと――そこには、同期で未だに慣れない女性が台本を見つめながら呆れていた。


「神白さん!?」

「はぁ……やりますよ。何をすればいいんですか?」


 ため息を吐きながら仕事の紙を取って、開いた適当な椅子に腰掛ける。


「何で――」

「何でって……暇になったので」


 さも当然かのように言われ、若干の沈黙が流れる。……気まずい。日尾野とは、前の事件からある程度仲が良くはなった。兎川は……アイツから突っかかってくるからこっちが答えてるだけだけ、だけど仲が悪いかと言えばそうでは無い部類。でも、神白は――あまり何を考えているのか分からず、どうしても距離を取ってしまう。


「……じゃあ、これを頼める?」


 そして渡す仕事は、経費の類。


「分かりました」


 それを嫌な顔せず受け入れ、仕事を始めた――


 仕事を続け、無言になる空間。ARで作られたキーボードを模した、テーブルを叩く音だけが響く。そんな無言を先に終わらせたのは――神白だった。


「……大丈夫なんですか?」

「何がです?」

「その……ニュースで見たから……」


 ……何となく来た理由が分かった。四ッ谷が人気だった事で、ニュースが大々的に報道されている。それで、こっちへ来てくれたのか。


「……ありがとう、神白さん」

「いきなり何ですか」

「いや、来てくれたと思って……」

「死んでないか確認しただけです」


 感謝をしたら、物凄い冷たい返事を貰う。本当、何考えているのやら。


「――終わりましたよ」

「早くないです?」

「長通さんが遅いだけです」


 着々と資料を終わらせていく神白。その速度は一人で三人分ぐらいやっているようだ。


「次は何です?」

「あ、えーっと……次は――」


 次の仕事を渡せば、すぐに終わらせまた次――渡す方のこちらが疲れてしまう。


「……それで、聞かないんですか?」

「何がです?」

「署の近況」


 希望の質問が来なくて若干イライラしていたのか、神白から答えとなる模範を質問される。聞かれたかったのは、どうやら署の今らしい。


「署の近況……何かあったんです?」

「まずは、汐華(しおばな)さんが最近、顔を出し始めました」

「……一応、同期ですけどね。ですが、一番来なさそうな人が何でまた……」

「知りませんよ、そんな事」


 『汐華 麗香(しおばな れいか)』。喧嘩して別れた三人の中の一人。狙撃の名手で、僕の弾であるスタンガン内臓弾は彼女が元だ。喧嘩の理由は不明だが、喧嘩相手は――目の前で少し不機嫌にキーボードを叩く女性。何かしらの言い争いの後、汐華は来なくなった。


「それで、こっちに来たんですか?」

「……兎川さんは、いつもと変わらない様子で――」


 話題を逸らすように兎川へと変える。……どうやら、こっちが本命のようだ。


「……終わりましたよ。全部」

「ありがとう神白さん。助かりました」


 そうこうしている内に、溜まっていた仕事が全部終わる。


「それじゃ――」


 でも、その様子が少しだけおかしくて、


「神白さん!」


 つい、呼び止めてしまう。


「何ですか?」

「……あー、えーっと……」


 普段と変わらないように見えて、少しおかしい様子のようにも見えてしまう。正体の分からない、嫌な予感。何かは分からないけど、このまま行かせたら取り返しの付かなくなるような気がする。


『僕が全部変えてやる!』


 ――全く、自らが言った大口に背中を押されるなんて。


「――何かあったら、絶対に言って欲しい。絶対、助けに行くから」

「……は?」

「……あれ? 違った?」

「口説いてるつもりです?」


 嫌な予感を信じるように、手を伸ばす覚悟をしたけど――傍から見たら口説いてる馬鹿だ。言った後に気付いてしまって、もう取り返しの付かない状態なのだが。


「それじゃ、私はここで」


 完全にあしらわれ、神白は去っていく。……やっぱり、勘違いだったのかな。そんな心のまま、僕は帰路に付く。

 ――そして、次の日から神白が署に来る事は無かった。

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