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Case.21『血塗れの正義』

「何だおま――」


 背後の人間が喋るよりも早く、糸のように細く伸ばした剣を振るう。壊れる事前提で生成した特殊な剣は、建物ごと周囲の悪をバラバラに引き裂いていく。


「――は?」

「……ほら、逃げなよ。崩れるよ?」


 衝撃と風は、出来事の一瞬後に吹き荒れる。崩れ行く工場跡、流石に正気へ戻ったのか四ッ谷は最速で壊れた天井から空へ。……でも、もう終わりだ。僕が殺そうと逃げ切ろうと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……まぁ、どっちでもいいや」


 一薙ぎで敵は半壊し、残された者は目の前の僕に対して恐怖心を浮かべていた。今殺すべき相手は、こっち。


「何なんだよ、お前!?」

「何って、言ったじゃないですか。僕の中には、悪が住んでいるって」


 手袋から作り出す――一つの銃。


「――それは!?」

「……やっぱり『スモーク』でも、これを使ってるんだ」


 これは、ゲーム内で丞と一緒にクランを組んでいた際、全職業が扱える銃として持たされた『誓いの短銃』。能力は、クラン内の成績や態度の悪い人間を処罰するプログラムを仕込んだ――味方殺しの銃。

 と言ってもあのゲームじゃ人殺しなんて出来ないから、繋がりを断ち切ると称してクラン脱退とフレンドの削除、そして強制ブロックされる機能程度だが。


「何で、それを――」


 そんな言葉が聞こえる前に、口を開いた男の頭を撃ち抜く。


「完全実力主義。『スモーク』のリーダーが口にしたの、聞いた事ない?」

「それは――」

「冥土の土産に教えてあげるよ。これは、()()()()使()()()()()()()


 この手袋は、元々VRMMO『エルドラド・クロニクル』で僕が作った唯一無二の武器だった。それを――丞が現実で再現して……あのテロ事件が起きてしまった。


「元々使っていた罠使い……まさか、『メンタルハッカー』!?」

「二つ名で呼ぶのは勘弁してくれない? 一応、警察なんだよ?」


 最初は倉庫にストックした罠を取り出すだけの手袋だった。それが次第に武器を取り出せるようになり、アイテム消費で罠を作り出す物になっていき――最終的にこうなった。


「クソ! リーダーに――」

「報告……させる訳ないでしょ?」


 逃げ惑う下っ端は仕掛け返した罠によって身体を燃やしていく。元々は電撃で気絶させる罠だったけど、機能が解除されたから少し弄って電力を上げた。元より、逃すつもりは毛頭ない。


「何で、こんな奴が――」

「警察にいるのか、でしょ? 言っておくけど、利害関係を結んでいるだけだよ」


 僕達は警察という権力を使い、目的を果たす為。警察はそれによって生まれた名誉を得る為。利害関係が一致したから、限定的警察権に選ばれた人間として僕はここにいる。


「利害関係……? お前は秩序と安全を守る、正義の味方なんじゃ――」

「大昔の本に合った……正義の反対は別の正義……だっけ? それって、全員が自身にとって正しい行動を取っている。そう思っているから皆が正義と言えるんだ」

「何を言って――」

「じゃあ、悪って言葉は何なんだろうね? 正義の反対が正義なら……全員が正義と言うのなら――()()()()って事も言えるだろ? なのに、どうして皆()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()? その言葉を使った時点で、自分も悪なのに」


 全てが正義なら、全てが悪でもある。正義が無ければ悪は生まれない、悪が無ければ正義も生まれない。

 なら、この正義と言われた警察は――悪を生み出しているのだろうか。

 正義を語る人間の中にも、悪が蠢いているのだろうか。

 人間が悪に染まるように……僕の中に潜む悪――どうしようもない感情に、僕はいずれ飲まれるのだろうか。

 そんな悪を断罪する正義は、本当に正義と呼んでいいのか。

 こんな人殺しを繰り返す人間を、正義と呼んで良いのか。

 悪を罵る人間の枷が外れるように……どうしようもない感情を殺人としてぶつける正義は、本当に正義なのか。

 ……そして、僕はその感情を(ヴィラン)と呼べるのだろうか。


「お前は、何を言っているんだ」

「理解しなくて良いよ。独り言だから、さ?」


 そして、最後の一人を撃ち抜く。この辺りに、人の姿は感知出来ない。ウォールハックで全体を見通しても、もう僕達『セブンヴィランズ』しか存在していない。


「――戻ろう」


 崩れ切った工場跡は、僕が帰る道だけを残し――全壊していた。



「キング……」


 外に出ると、既に大量の死体が転がっていた。傷は刀傷――付けられるのは一人。


「遅かったな、キング」

「ラビット、そっちはどうなった?」

「見ての通りだ」


 案の定、血だらけのラビットが上から降りてきた。飛んで行ったのは、おそらく……四ッ谷の事だろう。


「それよりも、キング。お前重要な奴を逃してんじゃねぇよ!」


 胸倉を捕まれ、キレ気味のラビット。この様子だと、四ッ谷に逃げられたか。


「……あぁ、アイツ? 無視して良いよ」

「どうしてだ?」

「『スモーク』って名乗ってこの戦績、この大量の死骸はスモークの兵だ。それを消費してこちら側の戦力も削れず、本人がのうのうと逃げて――それで済むと思う?」


 完全実力主義。僕達を一人も殺せないどころか怪我も作れず、兵を死なせる無能を――丞は放っておかない。


「……あのガスマスク、殺されるのか?」

「薬で無理やりラビットと同程度まで引き上げられていたし、あそこまでだと……多分今は逃げ切る為に更に無茶をして内臓がボロボロかな。殺されなかったとしても、永くない」


 結末が変わらない理由がこれだ。僕から逃げられても、ラビットから逃げられても、丞から逃げられても、その代償が身体な以上……限界が近い。


「……そうか。やっぱり、クソだな『スモーク』の奴ら!」


 納得したかのように帰っていく三人。でも、僕には――クソと罵れるだけの口をしていなかった。

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