Case.19『身元不明の逃走犯』
とある兵器から受けた傷も治り、肋骨を締め付けるギプスが外れた頃。僕は――現在逃走中の犯人を追っていた。
「――現在逃走中の犯人の身元は?」
『顔全部をフルフェイスのようなガスマスクで埋めてる! みえねぇぞこれ!』
『機動力がラビットと同じ。違法パーツ所持者だと思われます』
身元不明の遺体、推定1週間前後と見られる。頭部や四肢が砕け散り、苦手な人間にはひとたまりも無いぐらいのグチャグチャ加減。残された歯や血液を鑑識が調べたが、住所不定かつ身元も不明で――住人登録されていない人間だった。
『キング! コイツ、早い!』
「お前も十分早いんだよラビット! 追い付けるか!」
そこで捜査が手詰まり、地道に身元特定の為に聞き込みを行っていたら……ガスマスクを付けた男が現れ、手元には大量の血の付いた金槌。バレたと思われたのか、即座に逃走し現在に至る。
『キング。こっちは車で追いかけているんだけど、結構不味いよ。誘われてる』
「誘われてる? どこへ向かうつもりなんだあのクソガスマスク!」
『……疲れてるんだね、キング』
『気にしないでおきましょうか……』
「ホワイトはまだしも、ブレイブは前衛だろ!?」
聞き込みは四箇所で行い、それぞれが一人だった。ラビットが最初に見つけ、追跡。近場にいた僕が援護に走っている形だ。一方ブレイブとホワイトは逃走方向とは逆の方向にいた為、車で回り込みつつホワイトの援護が出来るように立ち回っている。
『話は戻すけど――キング、ラビット。今君達が追いかけている地点は工場地帯。ARの技術を生産して形を作る反面、黒い噂も多い場所だ!』
「……戦争兵器製作所」
『キング、それ何だ!?』
「工場地帯……聞こえは良いけど、大体の工場は製作所としての側面も兼ね備えている。ARで拡張したとしても、大陸が拡張された訳じゃない。だから余計な場所として工場を圧縮した結果……工場地帯に研究者が入り込み過ぎて、何を研究しているのか分からなくなってしまった」
『……上の考えって、本当馬鹿よね。こうなる事ぐらい予期出来たはずなのに、研究者を一纏めにしたら――新しい悪の開発も多数出てきてしまう事ぐらい』
……珍しい。怒る所は良く見るけど、ホワイトがここまで恨み口調を出すなんて。研究者気質に触れたのだろうか。
「――と言うより、ラビットみたいな装備してないからしんどい!」
ビルとビルの間を飛び越えながら、どんどんと点になっていくラビットに追いつこうと走る。ただ、性能面を隠密へ尖らせ過ぎた代償で、基本性能は誰よりも下なので追いつく訳が無い。
「こういう時に嫌になるんだよおおおおおおお!!」
『キングが発狂した!?』
『こういう時、いつもじゃない?』
だからいつもはブレイブとラビットに追い込みを任せて、僕はその先で予め罠を仕掛けているんだ。なのにどうして、俺がこんな隠密用の『スーツ』でマラソンをしなければならないんだ。
「――とんでもない距離逃げやがって、もうあのクソマスク潰してやる!」
大人しく捕まれば、こんな辛い思いをしなくて良かったはずなのに。あのガスマスク逃走犯……絶対捕まえてやる。
『……八つ当たりがすごくないかい?』
耳から流れる正論を無視して、疲れた身体に鞭を打つ。絶対に許さないという気力だけを頼りに――。
「やっと来たか……って死にかけてねぇかキング?」
「今、話、かけない、で」
ようやく合流出来た頃には息が出来ない程に肺が酸素を欲し、汗が滝のように流れる。側から見たら、水責めの拷問後のようだ。ついでに――
「頑張ったね、キング」
「多分ホワイトのその慰めは逆効果かな……」
車で回り込んでいた二人も先に到着している。……ラビットを一人にした際、何か起こっては不味いと走っていたけど……俺の苦労って一体何だったんだろうか。
「キング、一旦そのヘルメット脱げば?」
「無理。顔、見られたら、ダメだろ」
「でも、それしんどくないのか?」
「一応、中に、酸素吸入、ある」
ラビットはそれを聞き、納得いかない顔をしながらもヘルメットから手を引く。これが無いと強気に行けないから、一ヶ月被り続けてもいい様に色々備えた甲斐があった……。
「それにしても、これは……ごちゃごちゃの塊みたいな場所だね」
工場地帯の一角、ここは工場地帯の中でも圧縮によって廃棄された方の場所。多数の管と鉄だらけの、排ガスと石油の匂いがこびりつく所だ。
「ガスマスクの奴はこの中に入って行ったが……明らかに罠だよな」
「だろう、ねぇ」
息を整えながら、ガスマスク逃走犯の入って行った建物を見つめる。全体的に錆びて赤く染まった外見、それでも全体的に形は保っている工場跡だ。
こういった場所はゲームでも良くあるが、廃材に紛れたクレイモアや廃材と火薬を合わせた即席の罠が多い。
一見するとガラクタだらけの場所に隠し階段だったり、ともかく廃材は何にでもなるから……攻め込む側は細心の注意を払いながら進まないといけない。
「……どうする、キング?」
「俺は一応、色々持ってるから良いけど……この場所はラビットの方がヤバいと思うぞ?」
罠を扱う以上、罠に掛からない術を持ってはいる。また隠密用の『スーツ』は罠にも有効で、感知式ならすり抜けられる。
逆に廃材のせいで満足に大剣を振り回せず、機動力に尖らせたせいで防御も無いラビットには天敵のような土地だ。
「……分かった。どうせ中でこの剣は無理そうだし、今回は大人しくホワイトの援護しとく」
とりあえず、入るのは俺とブレイブに決まった。後は、
「キング、君が上からで良いかい?」
「……下の方から入るのを想定してるからそっちの方が罠多いと思うけど、ブレイブは良いの?」
「その為の盾だからね」
警察が持つような盾を改造した物。それを取り出し、見せつけるように表を軽く叩く。……まぁ、ブレイブなら平気か。
「分かった。じゃあ、乗り込むか」
上へ飛び、屋上を確認しつつ中に入っていく。
全く、あのガスマスク……面倒な所へ逃げやがって。走らせた恨みは重いぞ。




