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Case.01『特殊事件捜査係第七班・電脳科』

「こっの、大馬鹿者!!!!」


 怒りの声が響く一室。頭を掻きながら般若のような表情を浮かべる目の前の人物。隣には、僕の他にもう一人――僕の上司が頭を下げていた。


「申し訳ございません畑島(はたじま)警視! うちの長通君が――」

「申し訳ございませんで済むなら、こんなに何度も君達を呼んで無いんだよ!」


 そう、これが1度目じゃない。数え切れないほど呼び出しを食らいすぎて、もはや恒例行事になり始めた程だ。


「今回は、僕のミスです――」

「今回()? 今回も含め、全部君達『セブンヴィランズ』が出した損失だろう!」


 出された紙の山は全部、僕達が壊した物。と言っても、全部が全部故意という訳では無い。


「畑島警視、何度も言ったじゃないですか! 違法パーツ所持者は――」

「そんな事は分かっているんだよ長通君! 違法パーツ所持者同士が戦えば、周囲の被害は免れないのは!」

「なら――」

「でも、君達は公に立てない影の組織だ! そうなると、責任を取るのは私達上の人間なんだぞ!」


 やり場の無い畑島の怒りが部屋を木霊する。上も上で、色々と大変そうだ。


「もう良い! 遠谷(とおたに)君、君が何とかしてくれ! ()()()()()()()()()!?」


 そんな感情のまま、畑島は部屋を出る。乱雑に閉じられた扉が大きな音を立て――少しの沈黙が作られた。


「……長通君、気にしないでくれよ? あの人も、板挟みで怒りを吐き出すしか出来ないんだ」

「……本当に申し訳ございません、遠谷警部。今回の一件は、明らかな僕のミスです」

「知っている。君は、嘘が付けそうに無いからね。君が謝るという事は、大体そういう事なんだろうさ」


 落ち込む僕を慰めるように、肩を軽く叩く遠谷。そのまま部屋の扉に手を掛け、


「戻ろうか。事後処理を神白(かみしろ)君に任せちゃったから早くいかないと、またどやされてしまう」

「そう……ですね」


 僕と遠谷は、この部屋を後にした――。




「遅い!」


 階段を降り、通路の先にある隅の一室。そこに腕を組んで待っていた一人の女性。神白 悠奈(かみしろ ゆうな)、主に無線を取って周囲を索敵する――セブンヴィランズの同僚だ。


「申し訳ない神白君。少し、長引いてしまってねぇ」

「全く、遠谷警部は普段から仕事を溜めすぎです! どれだけ怠けてるんですか!」


 僕達が所属する第七班は、隠された存在という事もあって地下に存在している。まぁ、この警察署内では周知の事実になっているんだけど。


「いやぁ中々、忙しくてね?」

「忙しい? 最近外出が多いと、別の班から目撃情報がありましたよ?」

「あー……えーっと……」


 神白が詰め寄り、上司のはずの遠谷が狼狽える。この第七班で良く見る光景だ。


「大体、長通さんも長通さんです! あんな爆発起こして――」

「ちょーっと待った。今回の長通君は本気のミスだから、あまり責めないで欲しいかな」


 僕に飛び火する怒りを、それだけは――と遠谷が抑える。ある程度の喧嘩は良いが、本当に仲違いを起こしそうな時はいつも遠谷が止めてくれる……だから、仕事はしないけれどあまり憎めない上司。


「――こっちも戻りましたよー……って皆さんお揃いで、何かあったんです?」

日尾野(ひびの)警部補! 聞いてくださいよ! また遠谷警部が――」


 入ってすぐに、神白の愚痴を聞いてあげているこの人は日尾野 勇人(ひびの ゆうと)。この七班の実質的なリーダーで、副職として限定的な警察権を持つ僕達とは違い、唯一現役の警察官。


「――あれ、兎川(とがわ)さんは?」

「彼は学校だよ長通君。僕が送り届けて、丁度戻ってきた所」

「――聞いてますか日尾野警部補!」

「あーごめんごめん。……長通君も仕事だろ? 僕に任せて先に抜けて良いよ。お疲れ様!」

「はい、お疲れ様でした」


 暫く怒りが収まりそうのない神白を残し、警察署の外へ赴く。事件解決後は大体、こんな感じだ。

 僕達は限定的な警察権という物を持っているだけで、実際の所はただの一般人とさほど変わらない。なので、基本的に事後処理等は警察の皆さんに任せている。


「――急がないと」


 責任能力が無い――と言えば聞こえは良いが、本当は煙たがられている。まぁ警察からしたら、部外者が勝手に仕事を増やして帰っていくんだ、良い印象は無いだろう。


「……僕達は結局、警察に利用されているだけ……」


 雇われアルバイト――最初にここへ来た時、署内の人達はそう言って僕達を嘲笑っていた。『セブンヴィランズ』も、蔑称として最初は言われ続けた。現に、未だ『現実保護法』というARを取り締まる法はあまり浸透していってない。あの『テロ』が起きた後だとしても、だ。


「――記者会見で警察は止められたと言うけど、本当に止められるのなら、僕達は存在していない。あの凄惨な現場を、僕達は許さない……」


 手の平に映す、人が死に行く瞬間。目の前で建物が爆破され、抱えた腕の中で助けたかった人が命を散らした、あの光景を――握り締める事で、絶対に忘れない決意に変える。


「寒……」


 外へ出ると少しばかり白く染まる道路。積もりはしないが降り始めた雪の中、急ぎ足で仕事へ向かう。今日も今日とてヒーローショーのリハーサルだ。……悪役だけど。

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