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Case.18『村門俊輔刺殺事件・解決編』

 死者が名前を変えて教師をしていた……その事実は、通信を通して一瞬の内に疑惑として広がっていく。


「……これは、この人が犯人……?」

『決め付けるにはまだ早いけど、何かしらの事実が隠されているとは思うね』

『職員室の三名が動いた。どうする?』

「……まだ、確証は持てない。とりあえず一番疑惑のある人物、稲宮を追え」

『了解』


 ともかく、裏サイトで暴言を放っていた三人は判明した。後は、裏を取れば行ける。だけど、もし真犯人なら……もう動きを見せているはず。


「長通さん、何が分かったか教えてください」

「……それで間違っていた時に、止める人間がいなくなります。だから、まだ言えません」


 まだ、証拠が浮き出ていない。その上、これは僕の中で作り上げただけの仮説。他の三人が気付くのなら、それは同じ疑いを持っていたとして怪しむ点にはなる。だけど、僕一人だと見間違いや……間違った推理になってしまう。だから、余計な揺さぶりはまだ言えない。


「それなら良いですけど」

『……それにしても、あれから兎川君の声が聞こえな――』

『きゃああああああ』

「何だ!? 何があった兎川!?」


 突然の叫び声。その声質は女性で、兎川の物ではない。まさか、()()()()()()()()()()

 暫く沈黙が流れた後、兎川からの通信――


『……死体が出た。被害者は……稲宮』

「稲宮!? 兎川が追っかけていたんだろ!?」

『女子トイレ、男が入る訳にはいかんだろ。それで待機していたら声が聞こえて、何事かと思ったら死体が発見されていた。傷は()()()()()()

「――殺し方が同じ……村門は、どこにいる?」


 ここでこの人が殺されるのなら、もう四の五も言っていられない。


『村門千尋は……いない。この場にいない』

「こっちでも探す。彼女を追ってくれ!」


 真犯人が動くかもしれないと思っていたが、まさか殺人事件を起こすとは思わなかった。せめて、何か事件に関する事を聞いたりするのかもしれないと、そう思っていたんだけど……。


『京君、僕も乗り込むよ。殺人事件が起こったのなら、僕が現れても違和感が無いはずだ』

「了解。神白さんも、アレをお願い出来ます?」

「とっくの昔に()()()ますよ」


 神白が遠距離の要員として選ばれた理由。

 彼女の違法パーツはいくつかあるが、最も事件で使う『琴玉』は、旋律と振動によって幻覚や精神に作用させる音を出す。強く奏でれば共振によって脳を揺らし、殺す事も設計上可能。だが、大体の用途は――こういったパニック時に二次災害が起きないよう落ち着かせる役目。

 また彼女が操作する際のコントローラーとなる指先のワイヤーは『オーグメンテッド・マテリアル』で作られた物、射程は事実上の無限らしい。……ワイヤーが無限なだけで、遠いと見えない等の弊害が起きるが。


「――いた。村門は日尾野警部補を見つけて、反対側から外へ向かおうとしている!」

『足を止める! 狙えるか?』

「了解、任せるぞ」


 日尾野がいた正面の校門から反対側を隠れながら走る村門。だが、音によって落ち着かせたとしても射程や限度があり、未だに多数の生徒が混乱で人の波を作っている状況。今この銃を撃って他の生徒に被害が及べば、パニックを助長しかねない。


『合わせろ、長通!』

「――こっちはいつでも、足を止めさせていい」


 息を止め、震えを止め、身体を止める。勝負は一瞬、兎川が姿を現せば正体不明の違法パーツで心臓を刺され死亡する可能性もある。『スーツ』でダメージを軽減できるとはいえ、あれは一種の鎧。全部を防げる訳じゃなく、仮に彼女が使う謎の武器の威力が高ければ普通に死ぬ。だから、きっとアイツが選択するのは――意識を少しだけ逸らし、足を止めるだけの物。それは、靴に鉛をコーティングする事で一瞬だけ動きを阻害させる物だ。

 コーティングは一瞬で終わらせる物じゃなく、徐々に重くなっていく。それでも、些細な変化は違和感として――彼女は一瞬足を止めた。


「――今!」


 撃ち込むのはスタンガン。行動を止める為の手段は、少し風に煽られながらも何とか足元へヒット。一応、どこに当たっても神経に作用して気絶を誘発する物なので心配は無いが……やっぱり、僕では力不足だ。


『確保完了』

「あー……兎川、後でその制服貸してくれ」

『この()()()()()で、何する気だ?』

「……取り調べ、僕がやるって決めた」


 確保の報告と共に日尾野が合流し、先生方へ事情を説明しつつ村門を署へ連れて行く。……後は、答え合わせを残すだけだ。



「――ここは」


 ……取調室。今回はARに関する事件として、僕達が取り調べを行える。まぁ、署の人間が良い顔をしていないのはいつもの事だが。


「ここは、君の事を聞く為の場所です」

「……警察」

「えぇ、警察です」


 足には手錠を付け、立ち上がって逃げようとしても椅子がくっ付いて来るようになっている。


「話す事なんて無い。黙秘権」

「知ってます。だから、僕が勝手に話すだけです」


 彼女は決して口を開かない。あんな場所で大胆に人を殺せる相手に、理論は通用しない。だから、まずは動揺を誘う。


「……『村門 俊輔(むらかど しゅんすけ)』貴方の父親の事はご存知ですね?」

「黙秘します」

「その父親は心臓を刺され、殺された。容疑者は『羽飼 祐介(はがい ゆうすけ)』、間違いありませんね?」

「黙秘します」


 流石に、公開情報じゃ動揺しないか……。


「どうして、()()なんて考えたんですか?」

「――!?」


 復讐の二文字を出すと、相手は一瞬動揺した。ある程度の憶測で投げかけた質問とはいえ、やはりこれが動機か。


「村門俊輔。再婚相手の彼に、暴行を受けていた。違いますか?」

「も、黙秘します!」

「……それを、担任だった羽飼が見つけてしまった。いじめと言われていたが、実はその逆――友達に守られていたんじゃないんですか?」

「……黙秘、します」


 ……彼女の服は学校から支給された制服。だからこそ、おかしいのだ。


「これをご覧ください。この男性用の制服は、この学校の物。間違いはありませんね?」

「黙秘します」

「この制服は、僕の同僚が激しく動いて――()()()()()()()()()

「……それが?」

「いじめと言われ、学校で暴力を受けていたのなら……似たように服が少し破れるのでは無いですか? 痣が出来るぐらいの強さで殴られたのなら」

「――っ!」


 ここの制服の強度は弱い。運動を用いる学校なら休み時間を考慮して制服は多少頑丈に作られるが、ここは進学校――勉強を第一に考える場所の制服だ。だから、ある程度の運動に耐えられるだけで、違法パーツを用いて追いかけていった兎川の動きに耐えられなかった。


「ですが、今君の制服は血も何も付いていない。……それが、何よりの証拠となりますが」


 問いかけに何も返答が無い。……とりあえず、ここまでは当たりらしい。


「そして、下校中に事件が起こった」


 学校と殺人現場は決して近くは無いが、遠くも無い。……通学路として活用されていても不思議では無い。


「貴方の父親は、友達にも眼を付けていたはずです。だから下校中を狙った……。それを――遠隔で羽飼も見ていた」


 ……彼女は下を向き、僕の意見を肯定するようにうなだれている。


「きっと、助けたかったんでしょう。でも、非力な羽飼はきっと村門に勝てないと思った。だから……家にある水を使って、放水で助けようとした」

「……それで?」

「だが、既に殺されていた。友達を逃がし、容疑者はたった一人――貴方だ」


 実際、水を掛けられれば一旦怯む、その隙に逃がそうと思っていたはずだ。だから、車と水を放つ為のホースのような物、そしてそれを入れられる水。怯ませれば十分なので、多くの水はいらない。ただ、バケツを1杯分を丸ごと飛ばすような、思いっきり全身を濡らす最初の水量さえあれば。


「きっと、教え子が人を殺す現場を見て羽飼は焦っていたんでしょうね。死体を見た羽飼は、たった一人で罪を被る為に――工作を始めた。貴方を自首される方向じゃなく、自分が罪を被る形で。先生として立った一つ起こした、間違いです」


 そして、工作を始める。水を入れた物に氷を加え、出血を抑えるように胸部を圧迫した。……今僕が付けてるギプスのような物で。


「付着していた血はどれも村門の物だったが、固まり具合で三回接触した事が分かります。一回目は殺した直後、二回目は工作時で……三回目は、遺棄の時」

「……証拠が無い。死体になった血液は留まった事で固まるって先生が――」

「えぇ、ですが――村門の血を羽飼が引き出せば話は別です」


 輸血……。本来なら絶対出来ないが、彼の場合は可能なのだ。理科教師、道具を代用し知識があれば――死体から血を抜く事は可能。輸血する訳じゃない、血を固めないようにして……偽装に使うだけ。薬品やその他諸々は、多分彼の車にまだ残されている。


「ARやVRを用いた授業は、危険な実験を安全に行えます。反応を見せるだけで現実には事を起こさず、あたかも体験出来るようにする。遠隔で授業かつ、他人から妬まれる理由はそこです。教育委員会は、実際に体験させないと理解しないと考え、ARやVRに反対。それでも強行して、彼はこれを行い続けた。ARによってそれよりも危険度が高い実験を行った事も相まって、退屈な授業をしない彼は生徒から人気を集めた。裏サイトや他教師からの評価が証拠です」

「……最後まで言ってよ」

「その後は、死体偽装をして死亡推定時刻を伸ばし、凝固しないようクエン酸ナトリウムを混ぜて一部を管理。後はある程度離れた場所で車を止め、死体を運び、目立つ地点で管理していた血液を付け、わざと姿を現した」

「……はぁ、その通りよ」


 ついに観念したのか、自供を始めた村門。


「先生が庇ってくれた。私の事を気にかけて、私の為に動いてくれた。でも――外に出ないからと言って、世間は先生を嗜めた!」

「それで、裏サイトに書いた人物を殺した」

「――どうせ、分かってるくせに」

「……あくまで憶測、ここからは証拠が無いですよ?」


 ここまでは証拠がある物。裏サイトで何故羽飼が酷い暴言を受けていたのか、その辻褄合わせ。だが、ここから先は――ただの推測だ。


「……彼女も共犯だった。再婚って言うのも、死亡した稲宮さんがお見合いとして付けた物。違いますか?」

「やっぱり、分かってるじゃない」


 そういう事。稲宮が色々と裏で動き、母親と村門をくっ付けた。死亡している理由も加味して考えると……。


「目的は……なり代わり、ですか?」

「そうよ。あの人は死亡保険欲しさに自らの死を偽装し、金を手に入れた。その受け取り等をやっていたのが村門。でも、死亡したままで偽名だと何かと面倒だからって――私の母親に眼をつけた」

「それで、母親を殺してなり変わろうと、結婚を促した」

「そして、あの時『母親を殺す』って言われて、私だけじゃなくて母親まで手を出そうとしてるのが許せなくて――貰った違法パーツを起動させて殺した」


 でも、そうなるとおかしい。違法パーツの能力云々の話じゃない。誰かが武器を授けなければ、悪意は増さなかった。


「……稲宮だと分かったのは何時です?」

「メールで、教えられた。証拠品と共に」


 そうやって見せられたメールには、兎川が潜入していた姿を撮った写真が残されていた。


「これは……」

「違法パーツは――あれ?」


 そして、違法パーツは煙となって既に霧散している。


「……貴方の自供に、間違いはありませんね?」

「はい。……私が、殺しました」


 自首ともとれる自供を取り、取り調べを終了。


「……お疲れ、京君」

「あの場に『スモーク』がいた。でも――」

「今追っても、既にいないだろうね。『戸内 海咲(とのうち みさき)』って人は」


 組織の影、またもそれを掴めずに事件の幕は閉じる。……だけど、いずれ絶対に捕まえる。その決意だけは、変わらない物だ。

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