Case.15『村門俊輔刺殺事件』
あれから少し日が立ったある時。
「――被害者は『村門 俊輔』24歳・男。心臓を的確に突かれ、死亡している」
ギブスで締め付けられ若干の息苦しさを感じながらも、僕は今現場に足を運んでいる。そこは住宅街の中心、十字路になっている場所だ。――その中心に死体があった。
「……引き摺った跡がありますね」
「殺された場所は別で、兎川君と神白君がそっちに向かっている」
『こちら兎川、現場にはもう到着していますよ。神白さんは周囲の聞き込みで、今は僕一人ですが』
今回の殺人は殺された場所から死体を運び、今僕達のいる現場で発見された形だ。
「容疑者は『羽飼 祐介』25歳・男。血まみれの状態で彼を運んでいる所を発見され、現行犯逮捕。本人も容疑を認めている」
「なら、今回はそれで終わりじゃ?」
「うーん……。いや、今回は僕が取り調べの記録係をやってたんだけど、どうも少し食い違いがあってね」
容疑者は留置所。容疑も認め、ぱっと見事件は解決しているようにも思えてしまうが、日尾野が言うには……食い違いの点。訴訟後にこれを指摘され無実だと言われると、こちらの沽券にも関わる大事へと繋がる。現に数件、無実の罪を擦り付けられた事実を作りたい人間が、そういった類の事件を起こしていたし。
『食い違っている点は?』
「……死体遺棄のタイミング。容疑者は『殺した後、車に乗せてこの場所へ運んだ』と言っているが、血の跡と服に付着した血がおかしくてねぇ」
『時間が経っている?』
「そう。血液の凝固具合がおかしいんだ。服に付着した血が三種類存在している。その全てが被害者の血液と同じではあるんだけど、死亡推定時刻も合致しない」
「……死亡推定時刻は偽装出来ますけど、何でそんな面倒な事をして自白したのか」
殺された場所と遺棄された場所は遠く、車で半日は掛かるほどだ。だから、運んだとしても帰り血で付着した血が凝固して遺棄するタイミングで再度付着、こうやって二種類になるのは理屈は通る。だけど、三種類……?。トリックはいくつか思いつくが、そのどれもが自身の疑いを外す為の物。その上で自白は辻褄が合わない。……考えられる可能性は、
「誰かを庇っている……」
「身元周りを調べたけど、被疑者の名前は一つも上がらなかった。誰も容疑者である羽飼に関わりが無かったらしい」
『親族も無し……ですか』
「周りからは印象も無し。外に出た所を目撃した人がおらず、どんな姿かを知っているのは誰もいない。親も早期に亡くなり、親戚に死亡した事を告げず一人で葬式を執り行ったようだ。一応仕事で教師をしているが、もっぱら裏方で声だけの存在。だから、彼を知っている人間は誰もいなかった」
印象が無いのは中々に厄介だ、殺す動機が無いに等しくなる。逆に考えれば、どうして今外へ出向き人を殺したのかに繋がるが。
「……身元を洗うのが先っぽそうだけど」
「そうだね。でも、少し見落としがありそうなんだよね」
「見落とし?」
「死体遺棄をしようとしたのは分かる。だけど、何でここなのか。もっと近い場所でも良かったのに、どうして……ここだったのか」
十字路の中心。明らかに人の眼に写ろうとする場所で遺棄しようとして、結果見つかっている。やっぱり、見つかる事が目的なのだろうか……。
『神白、ただいま戻りました!』
向こうから聞こえる、もう一人の声。聞き込みを行っていた神白だ。
「神白君、何か分かったかい?」
『容疑者が教師として教えていた学校を中心に調べましたが、彼の評判はかなり良く、分かりやすい上に丁寧で生徒からの信頼は厚かったそうです』
「信頼……神白さん、生徒の中で特に気にかけていた人とかはいたり?」
『そうですね……彼自身が授業でしか現れなかったので、プライベートには干渉して無いそうです。ですが、気になる情報が一つ』
周囲の聞き込みをしてた神白、そこから出される情報が無ければこちらも動けない。
『……容疑者の彼を快く思っていない先生が存在していたらしいです。裏話なので、真偽は不明ですが』
「先生?」
『はい。名前は不明で、所謂裏サイトに書かれていた内容なんですが……』
そう言われて神白から送られてきたデータ、学校の裏サイトには――羽飼に対する暴言が多数投稿されていた。だが、ID的には人数は三人のようで……愚痴を語るメモ帳のような場所と化している。
「IDの場所は特定できたのかい?」
『個人の特定は無理ですが、そのどれもが学校内で発信されております。少なくとも、学校内の人物である事は確定かと』
「神白さん、被害者である村門と学校は何か関係あったりしますか?」
『無関係――と言いたい所ですが、少しばかり繋がりがありますね』
徐々に集まっていく学校への道筋。……次に向かう場所は、何となく決まりそうだ。
「それはどんな繋がりかい?」
『村門 千尋。この学校の生徒で、村門の再婚相手、村門 早苗の連れ子です。旧姓は稲宮、再婚したのは丁度1年前です』
「再婚相手……中々、こじれた人間関係そうだ」
「とりあえず、『蒲桜高校』で合流しようか。少なくとも、そこに何かはあるはずだ」
……私立蒲桜高等学校。ある程度有名な進学校だが、良い噂もあんまり聞かない高校。まぁ、大体は制服のデザインが良く、その服を着た他校の人間が援助交際や喧嘩を行って、その結果評判が落ちたある種の風評被害なのだが。
「――さて、行こうか京君」
「……うーん」
「京君?」
「あぁすみません日尾野警部補」
だが、少しだけ引っかかる。動機や周囲の聞き込みを聞いて、尚更際立つ違和感。何かは分からないけど、何か見落としたような――そんな引っかかり。
「どうしたんだい?」
「何か見落としてるような……でも、ここにいても解決しないし、行きましょうか日尾野警部補」
でも、ここに居ても仕方ない。今はとりあえず、高校へ足を運ぼう。何か分かるかもしれないし――。




