Case.13『勝利条件』
対峙する兵器とのタイマン、本来なら天地をひっくり返さないと勝てない相手。だがそれは下準備を行えない遭遇戦での話。相手の行動を阻害し、本来の機能を失わせれば一人でも倒せる相手だ。
「ほう? なら、やってみせろ!」
我慢に我慢を重ねた相手がまず最初に起こす行動。ずっと撃てばいいと教え込んできた疑い、それは同時にブラフ……初動の制限へと繋がる。
一種のミスディレクション。トランプの数字を覚えようとするあまり裏面の柄が変わるという変化に気付けないように、撃つ撃たないに囚われた運転手には、それ以外の行動に頭を回す事が出来なくなる。すなわち、相手の初手は必ず――ガトリングかレールガン、主砲であるどちらかの射撃だ。
「死ねぇ!」
選ばれたのはレールガン。地面を穿つ弾丸は、強い衝撃と土煙を上げる。
「――初手、予測完了」
だが、どちらを選んでも関係無い。なんせ僕は今――
「……死体すら残らなかったか! ざまぁねぇな!」
銃口の向けられた場所とは別の場所へ移動しているからだ。
僕の『スーツ』は、性能面で全員の物より劣っている。機動力も防御力も身体補助用の反応速度も、全部が下位。その理由は簡単……他人からすればいらない機能に、容量の大部分を使っているから。それは、隠密用のステルス機能。5秒しか持たないけど、その間は赤外線やあらゆる物を透過し完全にいなくなる。質量は消えない上に目の前で消えたら流石にバレるが、さっきのように停電状況下なら別。『オーグメンテッド・マテリアル』で作り上げた自身の分身と合わせれば、即席デコイになる。
「次は、予備の仕込みが芽吹く時」
土煙が次第に晴れて行き、鮮明になっていく地面。そうなれば当然理解するはずだ――血が無いと。
「おい! どこへ行った!」
僕の死体が無い事に気付いた男は、次の一手を考える。行動予測は多数存在するが、ここで――怒りという感情が響く。
「あの野郎! 逃げやがった!」
煽るだけ煽った状態での逃走。本来なら逃げたと見なして冷静に探すだろう。だが、まんまと僕の策に踊らされた上で本人が逃げたと思えば、冷静な判断を下す事が出来なくなる。そして最後のピース、予備で仕込んだ――
「うおっ!? 何だ!?」
足元に遠隔で設置した――ロケット花火。当然、倒せる装甲をしている訳じゃない。本当ならこのタイミングで対戦車砲でもぶっ放せれば良かったが、生憎と時間が足りないしすぐにバレて警戒する。でも、これで――倒すという意思を見せた。おちょくりとも捉えられそうだが。
「ロケット花火ぃ? こんな物で、これを壊そうとしてたのか? ……舐め腐りやがって」
重要なのは、ここでただの逃走じゃないと気付かせる点。そして、その仕掛けが幼稚な物と誤認させる為。大分露骨ではあるが、さっきも言った通り、今は怒りによって思考が霞んでいる状況。そして、ここまでお膳立てすれば――
「罠だか何だかしらねぇが、全部吹き飛ばしてやる!」
見つける事をせず、暴走し銃撃を開始する。
「……ここまでは予想通り、後は――」
とある建物から様子を伺っていた僕は、あの兵器が掃射し始める段階に合わせて壁を作り出す。銃弾を遮る物ではなく、とある物を射出する為に。
「出て来い! 出て来なければ全部吹き飛ばしてやる!」
レールガンは掃射出来ない。それにあれは威力が高い反面冷却をしなければ熱によって壊れてしまう。よって選ばれた物は、
「オラアアアアアアア!」
ガトリングによる掃射。そして、怒りで我を忘れた人間は――舵取りが簡単だ。
「ほら、こっちだよ!」
これも幻影、僕が作り出した偽者。良く見れば粗が目立つが、遠目かつキレた人間がそれを確認する訳も無く――
「てめぇは俺を怒らせたんだ! 死ねぇ!」
何にも確認を取らずにガトリングを放っていく。……その先にあるミサイルを念頭にすら置かず。
「な――!?」
隠れていた場所は何の変哲も無い倉庫、だが近くにある――弾薬庫は別だ。レールガンの射撃は大きな音として、別の音を隠す。その時遠隔で仕掛けていた罠を作動させ、ミサイルを1本抜き出していた。勿論、火気厳禁で。
後は倉庫に飛び込み、最後の仕掛けを作り上げた。それは、倉庫全体を銃身にして放たれる一発の弾丸。
「足元に何か絡み付いて!?」
弾は対戦車地雷で作った『罠ボーラ』だが、最大の問題はミサイルの起動。僕の罠じゃ傷を付けるだけで内部の爆薬を点火させる事は不可能。大きい爆弾等も作れるには作れるが、そうなると逆に重すぎて壊すのに時間が掛かる。だから、この一連の流れだ。
「機関部、やられました!」
足元へ絡み付いたそれは、その先端にある地雷に強い衝撃を与えて爆破。ワイヤーによって絡め取られつつ関節を壊された兵器は、バランスを崩し倒れていく。これで無効化成功、後は――
「チィッ! お前ら――」
「終わりだ。大人しくしろ」
この兵器の乗り手を潰せば、ゲーム終了だ。
「クソ――」
内部に潜む乗組員もろとも、スタンガンで気絶。そして、中から人を引っ張り上げている間に、
「……そっちは終わったのかい?」
「終わりましたよ。そっちは?」
「全員救出。終わったよ」
救出へ向かった日尾野も、その任務を終わらせていた。




