Case.12『ヒーローの本気』
「アガ――」
「……これで、全員かい?」
真正面からの特攻。頭が悪いような突撃は意外にも功を奏しているのか、敵が逃げずに殴り込んで来ている。それに――
「後ろからなら――」
「聞こえてるって」
「ガハッ」
ハッキングである程度の位置を把握出来ているから、不意打ちや遠距離からの狙撃には僕が対応可能。
「このまま救出するよ、長通君」
「……このまま行けたら、ですけどね」
「どういう事だ……ごめん。今理解出来たよ」
ただ、それが出来るのは序盤――乗り込んだ僕達を舐め腐って、戦闘を仕掛けている間だけ。僕達を脅威と感じた時点で、二つの危険性が現れる。まぁそれを考えるよりも前に、日尾野が乗り込んでしまったのだが。
第一の危険性は、増援の存在。といっても、人だけなら対処可能。一番危険なのは、増援という危機で起爆装置を持ってこられる事。
今ハッキングしている電磁バリアは警察の位置情報特定に反抗する、所謂レーダーという物に対して阻害を起こすステルス機能。だが、全てを阻害すれば地図に穴が開く為、特定の電波以外は通す仕組み。それを誤魔化して使っている為……その電波を解読されたら意味が無くなる。
今は、携帯電話式の起爆装置に合わせて電波を阻害しているが、種が割れたら一瞬で爆破されるだろう。
「……勝てるんですか?」
「勝て……る訳無いだろう!? 戦争兵器だぞ!?」
第二の危険性は、目の前にいる下半身のような巨大兵器。かつて小規模な個人間戦争において使用され、その圧倒的な制圧力によって戦車に代わって採用され始めた二足歩行式対軍兵器『テンペスターα型』……詰まる所、大隊を一騎で轢き殺す事が可能な化け物に、二人で止めなければならない事だ。
「まさかこんな場所で――」
僕達の会話へ割って入るように放たれた、電磁加速砲。地面を綺麗に裂き円形の穴を作った弾丸は、その衝撃波だけでも――
「な――」
「うおっ!?」
僕達を分断し、兵器が見失う程に吹き飛ばされた。壁に打ち付けられギリギリで倉庫内に留まっているが、あの一撃だけで肋骨は折れ鈍い痛みが背中を襲っている。
「――こんな、街中であんな物ぶっ放す馬鹿がいるか!?」
『同感だけど、その馬鹿は目の前にいただろう? 僻地だからまだ被害は軽微だけど、あれを止めない事には話が始まらなさそうだ』
一応、ここは隅の隅だが街中の倉庫。目の前の第二倉庫には穴が開いたものの、あんな物が街のど真ん中で放たれたらゾッとする。
『長通君! アレを止め――』
「日尾野警部補は、先に行ってください」
『……勝てるのかい?』
「一応、勝算は頭に浮かんでます」
『テンペスターα型』は、その装備がと言うより、装備と機動力の共存を目指した物。だから、武装はどうしようも無い類では無い。……食らえば即死だが。
『……嘘では無いよね?』
「時間は残されていないんです。僕の事、信じるんですよね?」
『――全く、君は意趣返しが好きみたいだ。……頼んだよ!』
壁に埋まっていた身体を起こし、兵器を再度瞳に映す。
「……頼まれた事だし、久方ぶりに本気を出してやるよ」
装備はレールガンニ門と対戦車ライフルを詰めたガトリングがニ門。榴弾やミサイルも搭載されているが、近接戦へ持ち込む僕に対して爆発物を至近距離で放つのは馬鹿が過ぎる為に除外。
ガトリングとレールガンが食らえば即死、掠めても四肢がもぎ取れる程度か。一応近づかれた際の機関銃も備えているが、一門かつ上部。潜り込めれば問題はない。
「後は、罠の種類は限定して」
用意するのは、足元を止める太いワイヤーと対戦車地雷を合わせた物。即興で作った『罠ボーラ』だ。
「――よし、これで準備完了」
いくつかの罠を即興で精製し、遠隔で配置していく。本来このやり方は『ハンドメーカー』の電力を大きく使うのであまりしたくはないが、この際は仕方ない。
「後は……おい! デカブツ!」
罠はただ置いただけじゃ機能しない。だから、僕自身が餌となる。だから、
「――この兵器を見て強気だなんて、自殺志願者かよ!」
「へぇ、もう既に負けたのに、粋がるだけの元気はあるんだね?」
目一杯煽る。それに相手が乗れば、僕の勝ちは確定する。
「あぁ!?」
「ほら、どうしたんだい? 自殺志願者に見えるんだろう? さっきのレールガンで僕を撃ってみなよ?」
……正直、ここは賭けだ。僕一人かつ自信満々の表情。そして、一見すると圧倒的な大差のはずなのに、兵器を倒す宣言もしている。こんな露骨過ぎる奴、何か裏があると読むだろう。そこまでは読み通りだ。
そんな裏がある人物がレールガンを撃ってくださいと言った。するとどうなるか――
「……本気で自殺かよ!」
「そう思うなら撃つといい。撃たないのは、怯えているのかい?」
結果はこの通り、撃ったら負けるかもしれないという勝手な深読みが引き金を鈍らせる。だが、煽り過ぎればキレてレールガン。逆に冷静になれば、第三の選択肢――離れてガトリングという詰みが訪れる。危ない綱渡りの内に、あの兵器に遠隔で置いている予備の仕込みを終わらせないと。
「……撃たないねぇ、どうしたんだい?」
「――何故、近づいてこない?」
流石にハッタリにも限度がある。だが、後十秒程で仕込みは終わる。……間に合ってくれ。
「勝ちが確定してるのに、わざわざ動かなくても良いだろう?」
「……そう」
――後、五秒!
「なら、貴様の狙い通り――」
――クソ、間に合わないっ!
『お土産ぐらいは、残してあげようか』
突然停電が起き、周囲は一瞬だけ真っ暗に色付く。
「停電!?」
「今だ!」
一応すぐに予備電力が供給され、すぐに明るくなるが――
「――ほう、隠れる事もしないか」
それは、五秒の隙間を埋めるのに充分な物。これで、全部が整った。
「悪かったな、近づかなくて。でももう、お前を倒す準備は揃った。ここから何をしても、お前の負けだ」
「今度は虚言か?」
「いや? 今度は本当さ。お前みたいな兵器でイキる卑怯者には、同じ卑怯な戦術が丁度良い――」
相手の行動は、全て塞いだ。後は、勝ちまでの道筋をなぞるだけだ。




