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Case.11『犬探し』

「あれ? 二人とも今日は事件があって早退って聞いてたんですけど」


 助けているのは見知らぬ子供。救出も既に済んでいて、今は後処理を残すだけの状況。


「と言うより、何でそんなボロボロなんですか……」


 一方こちらは日尾野との戦闘によって、塵が舞い薄汚れたような格好。まぁ、喧嘩したなんて死んでも言えないが。


「いやー……その……」


 まだ色々と心が揺さぶられているのか、しどろもどろの日尾野。その様子を見て……少しばかり、頭も冷えた。


「――猫が逃げ出して、狭い所に入り込んじゃって……そうですよね、日尾野警部補?」


 ここで喧嘩した事を告げれば、その原因を公開しなければならない。そして、何かしらの人質を取られているのなら、その公開は色々と不味い状況を引き起こしてしまう。それに、子供を助け出しているのは分かるが日尾野の表情が未だに曇っている今、この子供が人質の正解とはあまり思えないし。


「あ、あぁ……そうだね。首輪の付いた飼い猫だったから、無視する事も出来なかったんだよ」


 ごまかしのパスを理解したのか、日尾野と口裏を合わせて辻褄を作る。


「そうなんですか……。ですが、もうこちらは大丈夫――」

「いや、まだ……」


 日尾野が何かを言い掛けて止まる。――もしかして。


「――少し騒ぎが起きたから顔を出しただけだから、僕達はこれで。行きましょう、日尾野警部補?」

「え? あ、あぁ……それじゃあ、二人とも。また明日」


 急いで二人から離れ、人気の居ない場所まで日尾野を誘導。……予想が正しければ、多分――僕にはやるべき事が出来た。


「どうしたんだい、長通君」

「……あー! 犬が逃げた!」


 誰かを人質に取られた。そこは分かるが、彼がそれを助けないのは――位置を知らないから。


「な、何の事――」

「ほら、犬がさっき飛び出して行ったのは日尾野警部補も見たでしょ? 僕は少し見えなかったので、()()()()()()()()日尾野警部補、何匹いました?」


 妙な話をすれば、人質は多分殺される。だが人質を取った相手も、警察という権力を恐れ派手には動けない。その結果……監視の目は強い物じゃない事へ繋がる。証拠は、日尾野との喧嘩。あの時、止めろと上から言われたのは廃墟に行った後だ。しかも、僕の会話を聞いてから……つまり、会話の傍受はされているが、()()()()()()()()()()()()()。現に、僕が敵なら廃墟に行った時点で連絡を取っているはずだ。


「――3匹、逃げたよ」

「! そうですか。分かりました! なら、()()()()()()()()


 僕の狙いに気付いた日尾野は、少し悩んだ後に――僕の考えに乗ってくれた。これで、傍受問題はある程度解決出来た。後は――


「あぁ。でも、宛てはあるのかい? あの犬は物凄い速さで飛び出して行ったけど」

「それは、遠谷警部に――」

『そうだなぁ……どうやら、犬は兄弟らしくてな。()()()()()()()()()()。場所はここだ』


 映し出される場所は、僻地の倉庫。……人を隠すにはうってつけの場所だ。幸いな事にここから近い為『スーツ』の身体補助があればすぐにでも行ける。だが、ここからは相手に感づかれないように動く必要がある。


「……どうします、日尾野警部補?」

「――その前に」


 僕の手を持ち、自身の心臓へ当てる日尾野。


「君なら、出来るだろ?」


 いきなり言われて少しばかりびっくりしたが、その行為の真意はすぐに分かった。傍受されている無線を、ハッキングで偽装しろというお達しらしい。


「……もって10分ですよ?」

「10分。少し多すぎるぐらいだ」


 ハッキングによる通信の偽装。と言っても、会話パターンを撃ち込んでループさせて会話している風に見せるだけの物。AIを持っている訳じゃないし、人間を用意出来ている訳でもない。1つの会話が10分程度、分かる人が聞けばループだと気付く時間。本当は20分ぐらい時間を稼げそうだが、ループに気付くまでの勝負なら1回目で気付かれると、その前提が崩れてしまう。だから、少なく見積もって10分だ。


「それに、ヒーローならこの程度の逆境、押し返せるだろう?」

「……全く。素の状態でそれ言われると、何か嫌ですね」

「君の言葉だろう?」


 ハッキングが終わり、10分間だけの自由が作られる。そんな中、日尾野は皮肉を言いながら違法パーツを準備。そして、終わり際――再度僕の方を見つめ、


「……僕は、君に賭ける。全部変えてくれるという言葉を、一旦信じるよ」

「一旦なんですね……」

「保険も残しておくのが大人の特権さ」

「歳的には僕も大人なんですけど、身長で決めてません?」


 試されている、僕の言葉を。でも、今までの仮初めみたいな関係より、時に煽りながらも本気でぶつかり合うこの関係の方が――よっぽど健全だ。



「――おい、異常は無いか」

「こっちは大丈夫だ――」


 倉庫へ辿り着くと、そこには明らかに異常な監視の数。


「……僕がカメラに映れば、多分倉庫ごと爆破される」

「殺し方って、爆破なんですね……」

「ガス爆発や違法パーツの責任に転嫁しやすいからね」

「――なら、僕の出番。日尾野警部補、少し下がって」


 この場所にある近くの電柱に手を置き、もう片方の手でハッキング――指定箇所は、この倉庫全域。


「――っ!」


 頭へ直接入ってくる多数の情報。それを書き換えつつ、電柱へ流す。過負荷の電気は放電による膜を作り上げ、暫くの間電磁バリアとしての効果をきたした。まぁ、こいつらが警察に感知されないように仕組んだアンテナを弄っただけなんだけど。


「いてて……でも、完了」


 電気を流しては拾いを繰り返し、身体が少し焼ける。痛みは無いが髪の毛が少し焦げたようで、少し匂いが漂う。


「――便利な物だね、それ」

「似たような事、日尾野警部補の違法パーツなら出来ると思うけど?」

「へぇ、なら……ここから戻ったら長通君に頼んでみようかな」

「僕の仕事を増やすんですね……」


 軽く感電しながら起こしたハッキングに関心を示しながら、僕達は倉庫の真正面を歩いていく。


「――何者だ!」


 当然、見つかる。


「さて、遠距離は長通君に任せるよ」

「正面突破なんて、作戦と呼ばないんですけどね」


 これは小賢しい事を抜きにして正面から叩き潰す、日尾野の作戦。作戦というのもおこがましい、頭の悪い作戦だ――。

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