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Case.10『奪われたヒーロー』

「ちょっと待って――」


 言葉を全て遮るように、警棒を振るわれる。彼は唯一、この班の正式な警察官。その為、武装は警察に準ずる物。なので――


「大人しく食らってくれ!」


 その警棒からはスタンガンのような雷鳴が走る。それも、意思を持つかのように身体を狙って。


「危なっ!」


 だが、その電撃は全力で下がった僕へギリギリ届かず、すんでの所で止まる。


「クソッ!」


 これは――全力で逃走!。


「待て!」


 廃墟の内部を走り回りながら、作戦を練る。日尾野の口ぶりから、何かしらの人質がいるのは確定。だから、望まない裏切りを強要された。だから、


「……出てくれ、遠谷警部――!」


 まずは足止め出来る為の装備が最重要だ。今一番不味いのは、日尾野に限定的警察権を握られているという事。

 武装が無い上に『スーツ』の身体補助も無い今、勘と殺陣で培ってきた眼があっても、現役警察官かつ『スーツ』のブーストがある日尾野相手は無理。

 だが、限定的警察権は警察官の上が使える物。だから、とりあえずそれよりも上の人から許可を取れば、その問題は解決する。


『――もしもし? 長通君?』

「遠谷警部――」


 かくれんぼの背後から響く放電。あの人、僕の事を知っているからこそ、罠を最大限警戒してしらみつぶしに電流を流している。


『なんだいその音!?』

「話は後です。今、限定的警察権が無いと、僕死にます!」

『何だか良く分からないが、その音は流石に看過できない。許可しよう』


 電話越しから伝わる光は、胸元の手帳へ。これで――戦える。


『一体何があったのか――』


 そして、()()()()()()()()()あえて日尾野の前に姿を現す。


「ようやく観念したか。なら――」

「何で、裏切ったんですか。日尾野警部補」

「……君には関係のない話だ」


 僕が出来る時間稼ぎ。それは、遠谷警部に伝わらなければ無に帰す物。そして、僕の話術力も勝負に直結する。


「関係の無い話? 同じ班なのに、どうして――」

「同じ班でも、三人はいないし今の四人もバラバラ……そんな物で、何が同じ班って言えるんだ?」


 ……今いない三人は、来れないんじゃない。班内での喧嘩で、来なくなっただけだ。

 そして今の四人も、警察という括りで一緒なだけで、正直仲が良いとは言えない。上辺だけ笑っているけど、その誰もが一歩を踏み込まずに壁を作り、少しでも引っ張れば砕けるガラスのような関係性。


「……じゃあ、僕が変えてやります」

「そんな事、出来る訳無いだろ!」

「出来ない出来ないって、あんたは警察官なんだろ!? あんたが折れて、何が残るんだよ!」


 正直、僕が踏み込む問題じゃないかもしれない。でも、僕は――ヒーローに憧れたんだ。ここで引くのは、ヒーローの名が廃る!。


「何が残る? 元から、俺には何にも無いんだよ!」


 怒りと悲しみ、半狂乱で振り回される警棒。


「――何も無いなんて言うんじゃねぇよ!」


 この人には、絶対に口にして欲しくない言葉。身長も、人望も、全部あった上で何も無いなんて――言わせない。


「黙れ! 黙れ、黙れ、黙れ!」

「黙らない! あんたが折れるまで、黙るもんか!」

「お前に、何が出来るってんだよ!」


 既に戦闘と言うより、喧嘩。胸倉を掴み合い、拳で殴り合うだけの、気持ちのぶつけ合い。


「やってやるよ! 『セブンヴィランズ』も、『スモーク』も、『丞』も! 全部、変えてやる!」


 全部、全部、全部。喧嘩別れで来なくなった三人も、四人の問題も、テロ組織も、全部解決してやる。


「そんな事、お前に――」

「全部、失ったんだ! テロによって家族も、家も、何もかも! でも、他にも失った人間が沢山いる。目の前で泣いている子供が沢山いた! だから、俺がヒーローになるって決めた! ガキの夢かもしれない、そんな大層な事出来ないかもしれない。だけど、俺にはこれに縋るしかねぇんだよ!」


 心から溢れる激情は、自らの口を滑らせていく。幼い頃にいじめから助けてくれた、同い年の少年。仮面を付けて、正義の味方ごっこかもしれなかったけど、僕はそれに助けられた。


「……あんたに、何が分かるんだよ。テロ組織の中心人物が親友だった時、俺から全てを奪った爆破の側で、その親友が笑っていた時、俺は……何をすればよかったんだよ! 教えてくれよ……」


 助けてくれた少年は親友に変わり、本だけが友達だった僕を外に連れ出してくれた。家族の都合で引っ越し、疎遠になった後も――同じゲームで再会して、一緒にクランを作ってくれた。……あの時までは、親友だと信じていたのに、全部を――奪われた。


「長通君……」


 半ば僕の暴露のような事態に陥ってしまった。でも、何だって持ってる人間が何も無いって言うのだけは、許せなかった。


「……何度でも言う。こんな因果、僕が全部変えてやる。親友を止める為に」

「……だけど――」

『そこまでだ二人とも』


 電話越しから聞こえる、遠谷の声。


『……長通君、日尾野君、二人ともここに来るんだ』


 そう言われて現れた地図。ある場所に矢印を付けられたそれは、この廃墟から近しい所だ。


「……行くよ、長通君」


 切り替えるように廃墟を出る日尾野に、ただただ着いて行く事しか出来ない僕。だからこそ――


「……兎川君、神白君」

「日尾野警部補? どうしてここに?」


 何かを助け出している二人に、僕は頭を回さないでいた。

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