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つなガール! NEXT  作者: 松竹梅竹松
第4章 間違いの続き
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第4章 第8話 化物の住処

〇きらら


「うわー! とっても綺麗ですっ」


 一軍に選ばれた自分、環奈さん、流火さん、風美さん、天音さん、木葉さんの六人に与えられた部屋。それは学校に併設されている宿泊所だとは考えられないほどに豪華な空間でした。


「ふかふかのベッドに無駄に明るいシャンデリア……これわざわざ運び込んだの……?」

「気のせいかもだけど部屋の大きさ自体も変わってるような……」


 自分が目を輝かせる中、他の方々はドン引きした様子で部屋を歩いて回っています。考えてみれば自分以外は全員紗茎の関係者。今は他校の環奈さんや木葉さんも使用したことがあるのでしょう。


「ガウンに……うわ、高そうなシャンプーとかまであるよ……」

「こ、高級ホテルみたいだね……これなら先にお風呂入ったの失敗だったかもね……」

「うわ、ボールまで置いてあるよー。部屋の中で練習しろってことー?」

 木葉さんは棚からやたら綺麗なボールを二つ取ると、環奈さんと流火さんにパスしました。


「こういうのは二人が好きだったよねー?」

「別に好きじゃないけど練習にはなるかな」

「練習っていうかあたしたちのはもう習慣って感じじゃないの?」


「まぁ左腕が使えなかった時は片手でよく遊んでたよ。おかげでワンハンドトスが上手くなった」

 流火さんは投げられたボールをそのままオーバーで受け取ると、ぽんぽんとボールを上げながら近くのベッドに倒れました。驚くことに、横になったのに平然とそれは続いており、なんなら今は右手だけで上げています。


「ふーん。ま、あたしの方が上手いけど、ねっ」

 負けじと環奈さんも木葉さんから受け取ったボールをレシーブし続けながらベッドに飛び込みました。でも横になったらレシーブはできないはず……と思ったら、なんと脚でリフティングのようにボールを上げ続けています。


「ここまでいくと練習にはならなくないですか……?」

「そんなことないよ。どれくらいの力でどこに触るとどこに飛んでいくのか。ボールを持っちゃいけないスポーツなんだし、そういうのを身体に染み付かせるのって結構大事だよ」

「環奈ちゃんは行き過ぎだけど、わたしたちも腕なら同じことができますよ」

 そう言うと天音さんもボールを取り、利き腕ではない左腕だけで器用にボールを上げ始めました。


「翠川さん、どうぞ」

 そしてそのボールを自分にパスしてくれたのですが……、


「これ、難しい、ですっ」

 体育館でならできると思いますが、部屋の中だと少し力を入れてしまったら天井にぶつけてしまいます。それを考慮すると両腕でも結構しんどいものが……!


「うわー、きららちゃんヘタクソー」

「かちん、ですっ。なら、木葉さんは、できるん、ですかっ」


「ブローック」

「ぶぺっ」

 木葉さんは自分が投げたボールめがけてその場で両腕を上げると、自分の顔面に落ちるよう計算して叩き落としてきました。背中にベッドがあったので倒れても大丈夫でしたが、おでこがヒリヒリします……!


「なにするんですかっ」

「いやー、織華仕事を家に持ち込まないタイプなんだよー。だからボールなんてできれば触りたくないわけー」


「にしてはおもいっきしブロックしませんでした……?」

「こんなの全然だよー。ていうかー、これくらいの速度をレシーブできないとか大丈夫ー?」


「こんな至近距離じゃ無理ですよっ」

「そうかなー。ちょっとパスしてきてー」

 ボールに触りたくないと言ったのにパスを要求してきた木葉さん。まぁ自分に危害がないのならいいのですが……と投げたら、なんと木葉さんは脚レシーブを続けている環奈さんにスパイクを打ち込みましたっ!


「いきなりはやめてよね」

 危ない! と叫ぶより早く着弾したボール。しかし環奈さんはなにもなかったかのように片腕だけでボールに触れると、完全に勢いを殺してセッターである流火さんの頭上にレシーブを上げました。


「ねー?」

「いやそんなドヤ顔されても……ていうか流火さんも危ないですっ!」

 環奈さんが上げたボールは、元々上げていたボールと同時に流火さんの眼前に……!


「こんないいレシーブされたらトス上げたくなっちゃう、でしょっ」

 そう言いながら流火さんはボールを上げました。片腕ずつで、二つのボールを同時に、です。元々上げていた右手の方はそのまままっすぐ上がり、左手の方が上がった先には……、


「流火ちゃんのトス……!」

「ちょっと待ってください風美さんっ! ここ室内ですよっ!?」

 大好きな人からのトスに瞳を輝かせている風美さんがいました。しかも跳んではいませんが左腕を上げてスパイクの体勢にっ!


「ふぅっ!」

「さすがにこれは止めないとねー」

 風美さんの渾身のその場スパイクは木葉さんのその場ブロックに阻まれ床へとすごい勢いで落下しました。これで一連の凶行は終わりましたが……!


「化物ですかっ!?」

「「「「うん、そうだよ」」」」


 突然のスパイクになんの動揺もなく反応した環奈さんに、同時トスを上げた流火さん。それを完璧なタイミングで合わせた風美さんに、至近距離でありながらドシャットを決めた木葉さん。

 わかっては。当然わかってはいましたが、この方々はおかしいです。


「本当に自分がここにいていいのでしょうか……」

 ずっと思っていたことですが、改めてそう思ってしまいます。


 本来ここにいるべきなのは自分ではなく、みなさんと同じ『金断の伍(きんだんのご)』である雷菜さんのはずです。それなのにおそらく身長だけで自分は一軍に選ばれ、雷菜さんは四軍となってしまいました。


 こんな理不尽な。こんな無慈悲なことがあるでしょうか。初心者の自分が明日、この方々と肩を並べて戦わないといけないんですよ……?


「そう考えてるだけで十分だと思いますよ」

 そう自分を励ましてくれたのは、ベッドに腰をかけている天音さん。その両手にはタブレットが収められています。


「失礼かもしれませんが、正直まだ翠川さんは実力不足です。でも一軍に選ばれたのはおそらくその将来性を見込まれたから。今は勉強から始めてはどうですか?」

 天音さんがタブレットに映したのは動画サイトの画面。そこにはいくつもの試合の動画が投稿されていました。


「これはわたしが非公開で投稿しているチャンネルです。紗茎の公式戦や練習試合。他にも藍根や全国の強豪校の試合を載せてあります。アカウントを教えるので暇な時観てはいかがでしょう」

「!」

 強豪校の試合が観れる……! それはとってもありがたいです……! でも、


「いいんですか……? それってたぶん紗茎の偵察班の方々が撮ったやつですよね……?」

「別に構いませんよ。わたしが個人的に勉強のためにやってることですし、他校でも環奈ちゃんや織華ちゃん、雷菜ちゃんに珠緒ちゃんもアカウント共有してますしね。それにわたし以外が投稿してくれる時もありますし、結構ギブ&テイクなんですよ」

そうは言ってもまともに練習試合も組めない花美がテイクできることなんてほとんどないじゃないですか……!


「ありがとうございます……」

 正直願ってもなかったことです。先日の藍根との試合。勝負を終わらせてしまったのは自分のバレー経験の不足のせいです。それを補えるこの動画の数々はたぶん自分が思っている以上の価値があります。


「いえいえ。みんなでレベルアップしていきましょう」

 そう笑う天音さんに自分は頭を下げることしかできません。


 自分たちはそれぞれ全国に行くためには倒さなければならないライバル同士。


 それでも今この場では。いえ試合の最中でさえも。互いを高め合う仲間同士なのだと実感しました。

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