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つなガール! NEXT  作者: 松竹梅竹松
第4章 間違いの続き
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第4章 第1話 次の舞台

梨々花(りりか)ちゃーん、おはよーっ」


 それは夏休みも終わりに近づいてきた八月下旬。東北でも北の方に位置する我が岩手県はもうこの時期になると暑さもだいぶ和らぎ、ずいぶん過ごしやすい。

 そろそろ冬服が恋しいなーと思っていると、わたしの身体に熱の塊が飛び込んできた。


「ちょっ……美樹、さすがに熱い……!」

「えー? いーじゃん、別に。それにみきは、梨々花ちゃんを見るだけでこんなに火照って……!」


 朝っぱらの道でわたしに抱きついてきたのは、幼馴染の扇美樹(おうぎみき)。わたしと同じ花美高校女子バレーボール部に所属しており、わたしのことが大好きなゆるふわ系今時の女の子だ。あと、胸が、大きい。


「はいはい、学校行くよー」

「あーんっ、待ってよ梨々花ちゃーんっ」


 一度離したもののすぐにわたしの腕に抱きついてきて、とてもじゃないがわたしの腕力じゃ引き剥がせない。仕方なく無駄に大きくてむかつく二つの脂肪の塊の感触を腕に感じながらいつも通り体育館へと向かった。


「おはざーす」

「あ、リリー、みきみき、おはよっ」


 練習開始時間ギリギリの到着になり、とりあえず着替えるために部室に寄ると、髪を鮮やかな茶色に染めた、ザ・ギャルって感じの同級生、外川日向(そとがわひなた)が着替えていた。


「部長どう? 大変?」

「んー、ぼちぼち。思ってたよりは大丈夫かな」


 つい一週間ほど前にこの学年で行われる最後の公式戦が終わり、わたしたち二年生が最上級生となった。そして部長を引き継いだのがこの日向であり、ギャルならではのコミュ力を遺憾なく発揮して今のところは上手く部を回してくれている。


「一年生は?」

「みんなもう来て体育館に行ってるよ。あともう小内(こうち)さんも来てる」

「ん、了解」


 花美(はなみ)高校女子バレーボール部の部員は全員で六人。一年生、二年生で三人ずつだ。ちなみに小内さんというのは、うちのバレー部のコーチをやってくれている大学生。見た目は日向以上にギャルだけど、意外とコーチングは上手くてかなりありがたい。それにしてもわたしたちが最後かー。先輩として少し情けない。


「あ、そうそう。なんか徳永(とくなが)先生が役職持ちは部室にいてほしいって」

「えー、わかった……じゃあね、梨々花ちゃん……また、会おうね……!」

「なんで今生の別れみたいになってんの」


 うちの役職持ちは、部長の日向と副部長の美樹のみ。はぶられたわたしは一人後輩たちが待つ、ほとんど女子バレー部専用になっている第三体育館へと向かった。


「おはようございますっ、梨々花さんっ」

「おはよー、きららちゃん」


 残暑の太陽に圧勝できるほどに眩しい笑顔で挨拶してきたのは、翠川(みどりかわ)きららちゃん。スウェーデン人とのクォーターで、なんと身長百八十五センチもある超期待のバレー初心者だ。


「遅いですわよ、梨々花さん。練習三十分前には集合してストレッチをしておく。運動部の常識でしてよ」

「ごめんごめん、珠緒ちゃん」


 このお嬢さま口調の金髪の子は、新世珠緒(あらせたまお)ちゃん。もちろん本物のお嬢さまではなく、ただ偉そうにしているだけの痛い子だ。


「……なんか馬鹿にされた気がしますわ」

「ううん、褒めたんだよ」


「そうでしょうっ!? わたくしのこのバレーに懸ける姿勢は全てのバレーボーラーが見習うべき素晴らしいものなんですわっ!」

 この子はほんとちょろくて楽だなー。


「別に三十分前じゃなくてもいいけど、もう少し早くね、小野塚(おのづか)さん」

「はい、すいません」


 ジャージに着替えて軽くストレッチしている小内さんに謝ると、脚を怪我して体育館の奥で座って見学している最後の部員の元へと歩いていく。


 わたしと同じポジションを奪い合い、喧嘩し、そして。


 お互いのためにバレーをやろうと約束した相手。


「おはよう、環奈ちゃん」

「おはようございます、梨々花先輩」


 水空環奈(みずぞらかんな)ちゃんは、優しい表情で微笑んでくれる。


 そのわたしを包み込んでくれるかのような笑顔は、絵里(えり)先輩にそっくりだった。


「はい、みんなおはよー」

 少しストレッチをしていると、バレー部顧問の徳永先生が美樹と日向を引き連れて体育館にやってきた。


「今日はみんなに重大な話がある。ちゃーんと聞いとけよ」

 訛り全開でそう言うと、先生はわたしたちを見渡す。徳永先生はバレー経験がなく、基本の指導は小内さんに任せているが、それ以外は十分すぎるほどに面倒を見てくれる理想的な教師だ。そんな先生が珍しく神妙な顔をしている。だとしたら相当に真剣な話なのだろう。


「やー、ひーもびっくりしたよ」

「うん、びっくりして……ちょっとさみしくなった」


 徳永先生の脇で美樹と日向が小声でわたしに語りかけてくる。その様子からして、たぶんわたしが先に行っている間に話していたのだろう。こういう時役職なしは損だなー。


「実はおらもまだびっくりしててまだ飲み込めてねぇんだけども」

 徳永先生はそう前置きし、軽く息を吸う。そしてわたしや隣にいる環奈ちゃんを見つめ、こう言った。


「小野塚さん、水空さん、翠川さん。おめぇら三人は、これから全国で戦ってもらうっ」


 全国……? ぜん、こく……。


 各都道府県から代表が集められて戦う、あの、全国……?


 環奈ちゃんと、きららちゃんと、わたしが……!?


「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 この突然の知らせは、わたしと環奈ちゃんの関係を大きく変え、そして深く、深く傷つけることを。


 この時のわたしたちは、知る由もなかった。

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